第36話 ボーナスステージ

 

 蟻の大軍と闘うと決めたアキラは、念のため鑑定スキルを使うことにした。アントの数が多すぎて、流れ込んでくる情報が頭に負荷をかけ、頭痛を覚えた。


「頭が痛い…」


 ラピスが穏やかにアドバイスをくれる。


「対象範囲を絞りましょう。焦らず、少しずつ」


 言われた通りにすると、頭痛はすぐに治まった。ジャイアントフォレストモンスターを1匹ずつ鑑定すると、だいたい以下の数字内に収まった。


• HP:6〜12

• MP:10〜20

• 魔法防壁

• 自然治癒


 HPはそれほど高くないが、全員が魔法防壁や自然治癒を持っている。それでも、この程度なら問題なく倒せるだろう。


「わかった。全員、戦闘準備」


「セレナは雷撃で、オークの死体に群がるアントを狙って。僕の魔法が戦闘開始の合図だ」


 アキラは左右の手を挙げ、火風の複合魔法を準備し、セレナは剣を構えて雷魔法の準備をする。


 ルナはノクスを下ろして駆け出す準備を整え、ノクスは弓を構えていた。


 アントたちは、こちらをまったく気にしていない。一生懸命に、食糧を集めて運ぶ作業を続けている。


「ファイヤーボール/ウインドブラスト」アキラは脳内で唱え、同時に両手を振り下ろす。

 

 セレナも「雷剣、穿て」と唱え、剣から雷を放ち、ノクスも弓を引いて矢を射た。少し遅れて、ルナが駆け出す。


 アキラの炎風の複合魔法は、アントの行列に沿って綺麗な跡を残し、アントたちは魔法に触れた瞬間に魔法半減や体力回復の術を発動させたが、アキラの魔法の威力の前には無力だった。ほとんどのアントは熱風で焼かれた。


 セレナの雷魔法も同様で、一撃でオークの死体に集っていたほぼ全てのアントを電撃死させた。


 ノクスは一生懸命に矢を放っていたが、対象が小さく、動き回っているため、思ったほど当たっていないようだった。


 全ての矢を放ち終わると、ナイフを持って駆け出した。


 全てのアントが攻撃態勢に入るかと思われた次の瞬間、アントたちは一斉に退却を始めた。それも重ならないように、1匹ずつばらばらの方向に逃げていった。


 アキラとセレナは再度魔法を放つ態勢に入ったが、無駄だと判断し、魔法を取り消して戦場を見渡した。


 ルナは、死に損なったアントを牙狼爪で切り刻んだり、木に逃げようとするアントを跳躍で落としたりと、まるで遊んでいるかのようだった。


 そして、退却するアントを追って駆け出そうとする。


「ルナ!行っては駄目!」


 セレナが指示すると、ルナはしぶしぶ尻尾を巻いて戻り、セルフヒールで体を光らせた。


「それ、今必要ないでしょ、もう」


 セレナは、消化不良のルナの全身をわしゃわしゃと撫でた。


 ルナは不満げな顔でその場に座り込むと、やがておとなしくなった。


 不完全燃焼はもう一人。戦場で生き残ったアントを探し回るエルフに声をかける。


 レベルが上がったことで、体のキレが良くなったように見える。


「ノクス、もう魔物の生存反応はないよ」


 アキラが呼びかけると、ノクスは渋々、使える矢や修理できそうな矢を集めて矢筒に収めた。


「少しだけ、休憩しよう」アキラが告げると、


「お腹減った……朝作ったミラノサンド、出して!」セレナが言い、ノクスも上目遣いでアキラを見上げた。


 アキラは、仕方なく空間魔法で、サンドイッチを取り出すと、彼女達に渡した。


 ジャイアントフォレストモンスターを232匹倒しました。


経験値 アキラ 256p獲得しました。

(セレナ 152p、ノクス 32p)


金 2,200ゴールド獲得しました。


アキラは、レベルが9になりました。

セレナは、レベルが9になりました。

ノクスは、レベルが5になりました。



「アントは、どこに?」食事を楽しむ皆の様子をよそに、アキラはラピスに話しかけた。


「クイーンアントの命令で散開し、退却したようです。巣に直接敵が来ないように時間稼ぎもしているでしょう。今頃、迎撃態勢を整えているはずです。賢い魔物ですので、今後も要注意です」


「どうすればいい?」


「放置で構いません。森の清掃員ですから、全滅よりも間引きが適当です。しかし、今回はあまりボーナスステージにはなりませんでしたね」


「そんなことはないよ。レベルも上がったし。ところで、何故ノクスにはスキルのアドバイスをしないの?」


 アキラは不思議に思い尋ねた。


「特に危機でもなかったので。まあ、あんな恵まれている子は少々苦手なのです」


「え?」珍しく感情的な言葉を口にしたラピスに、アキラは少し驚いた。


「冗談です」ラピスの声、柔らかくなり続けた。


 「それに、ノクスの専用衣装も使用可能になっています。今の装備では強敵には歯が立ちません。それとスキルについては、アキラさんが全体のバランスを見て指導してあげる方がよいでしょう」


「わかった、そうする」アキラは納得し、軽く頷いた。


「それと、着替えさせたらすぐ商人救出に向かってください。かなり距離がありますので」


 ラピスの気配が消えた瞬間、アキラは彼女がいない静寂をほぼ完璧に感じ取れるようになっていた。


 行商人の位置は詳しくわからないが、昨日の村人たちとの会話から、アズーリア村に向かっていると推測できる。


 確かにかなりの距離がある。村人やノクス、それにオーガたちも、魔物の森に発生した夜霧で転移されたのだろうか。


 もしそうなら、それはこの世界の謎に関わるものかもしれない。


 アキラは、その可能性を胸にしまい込み、ひとまずラピスに従うことにした。


**ステータス**

バトルモード

ステータス

アキラ  魔術師 レベル9

セレナ  魔法剣士 レベル9

ノクス  魔法射手 レベル5


ゴールド: 7,385

保護時間: 5日












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