第11話 6日目 雨

 

 アキラは、テントを叩く雨音で目を覚まし、6日目の朝を迎えた。


 目の前の画面には、いつも通り「ログインしました」と表示され、続けて「6日目のギフト:初心者応援キット その5」と通知が出た。


 彼は無意識のうちに受け取りボタンをタップし、不思議な世界に戻ってきた自分のステータスを確認する。


「問題無し!」


 楽しみにしていた初心者応援キットをさっそく、空間倉庫で展開し、中身を確認すると思わず微笑みがこぼれた。


「初心者応援キット その5」を開けると、中には香辛料、ビール2本、ランプが入っていた。


 その香辛料の独特な香りが鼻をくすぐり、ビールの瓶の冷たさが手に心地よく伝わる。


 その様子を見て、ラピスも微笑んだ。


「おはよう、ラピさん。今夜の楽しみにするよ」


「はい、でも初心者もそろそろ卒業ですね」ラピスは少し残念そうに答えた。


「そうなのか。でもありがとう」アキラは感謝を伝えた。


 外を見ると、空はどんよりと低く暗く、豪雨が絶え間なく降り続いている。雨が地面に叩きつける音が響き渡り、川の水位はますます上がり、流れは一層急激になっていた。


 濁った水には土砂や流木が混じり、激しく流れ去る様子が見える。あたりには、雨がもたらす湿った土の香りが漂っていた。


 アキラはテントの前のひさしに立ち、険しい表情で周囲を見渡していた。


「どうしたものか」この天気が冒険にどのような影響を与えるのか、思案を巡らせる。


 耳を澄ますと、雨音に混じって外で飛び跳ねる音が聞こえてくる。大雨にもかかわらず、セレナとルナはまるで嵐を楽しむかのように無邪気に遊んでいた。


セレナの笑い声が雨音の中でもはっきりと耳に届く。


「アキラ、お腹減った!」突然響いたセレナの声に、アキラは思わず振り返った。


 セレナはずぶ濡れになりながらも、無邪気な笑顔を浮かべている。その笑顔に、アキラは自然と肩の力が抜けた。


「わかった、テントで食べよう」とアキラは微笑み、セレナとルナを広いテントの中へと招き入れた。


「アキラ、セレナを見過ぎです!」軽快な声が突然飛び込んできて、アキラは少し驚いた。


「ラピさん、おはよう。違うんだよ、セレナも成長したけど、服もなんだか大きくなったように見えてさ」


「ふうん、なるほど」ラピスは冷笑を浮かべながら、全員にセレナの着ている服や靴について解説を始めた。


「セレナのスモックのような服は、丈夫で水を弾く素材で作られていて、さらに服と靴はリサイズ機能と温度調整機能も備わっています。背中には牙狼族の紋章が入っていて、一点ものですよ。とても貴重なものです」


 アキラとセレナはラピスの話に真剣に耳を傾けていた。特にセレナは嬉しそうだった。その様子を見て、アキラは心の中で微笑んだ。


 その横でルナは体をブルブルと震わせて水滴を飛ばし、自分の防水性能を誇るかのように毛皮を見せびらかしている。


「テントの中じゃなく、ひさしでやりなさい!」


「ワオーン」


 セレナが怒ると、ルナはしょんぼりと蹲った。アキラは思わず声を出して笑った。


 パンと干し肉の簡単な朝食をとりながら、アキラは外の様子を伺いつつ、「今日はどうしよう? この雨が続くと厄介だな」とつぶやいた。


 雨が窓を叩く音が、一層大きく響く。


 セレナはすかさず、「心配ないよ、雨はすぐに止むから、行こう!」と明るい声で応じた。


 その言葉に少し安心し、アキラは頷いた。


「了解、そのつもりだ」


 朝の食事を終え、彼女らはテントを手際よく畳み、次の目的地へ向けて移動を開始した。



豪雨により川は濁流となり、激しく流れ続けている。アキラたちはその川沿いを下流へと進んでいく。


 川の脇の平原には大きな水たまりができ、ぬかるんだ沼地が広がっていた。足を踏み入れるたびに泥が重くまとわりつき、進むのが一苦労だ。


 本来なら魔物を倒しながら前進する予定だったが、道中で目にするのはわずかなスライムばかり。他の魔物は姿を現さなかった。


 その時、大きな沼地を目にしたアキラたち。


「魔物がたくさんいる、倒してくる!」とセレナが叫ぶや否や、足場の悪さをものともせず走り出した。


 特にルナは、軽やかに駆けて真っ先に沼地に到達し、暴れ始めた。


 アキラはマップ機能を確認すると、確かに多くの魔物反応が点在しているのが分かった。


 しかし目を凝らしても、魔物たちは姿を見せない。迷彩色で周囲に溶け込んでいて、見分けがつかないのだ。


 数匹の蛙を探し出して倒した後、一匹の巨大な蛙の魔物が視界に飛び込んできた。


 その蛙は他の迷彩色の蛙とは異なり、赤や青といった派手な色で彩られていた。その不自然な色彩に、アキラは一瞬警戒を強めつつも、すぐに攻撃態勢に入った。


「アキラ、触ってはダメ!その派手な色は毒ガエルの証拠!」とセレナが鋭く叫ぶ。


 アキラは咄嗟に距離を取り、敵の背後へ回り込む。毒の危険を理解しつつも、攻撃を躊躇わず「ファイヤーボール」と呟く。


 雨が勢いを削ぐが、彼の魔法スキルの成長により火球は一直線に大蛙へ向かった。


 しかし、毒ガエルの耐性が高いためか、攻撃は致命傷とならず、大蛙は七色に光りながら沼の中へ逃げ込んでしまった。


「くそっ、逃げられたか!」


「アキラ、次は一斉に攻撃しよう!」と、その様子を見ていたセレナが提案する。アキラの火魔法とセレナの投げナイフを同時に浴びせる作戦だ。


 次のターゲットとして現れた大蛙に、まずセレナのナイフが突き刺さり、その瞬間、アキラの火魔法が大蛙を包み込む。


大蛙は呻き声を上げ、沼地へ倒れ込んだ。


 ポイズンフロッグを1匹倒しました。

アキラは5p(セレナ2p)を獲得しました。

 アキラはレベル5になりました。


 ステータス アキラ レベル5

 HP: 38/38 MP:25/25 Exp: 80/129


 ステータスを見て驚いた。MPが倍以上上がっている。さすが、魔術師だ。気兼ねなく魔法を放てるだろう。


 考えていたら、アナウンス音声が聞こえてきた。


『各種ミッションが開放されました。バトル中の敵情報が一部表示されます』


「ミッションのことは気にしないでください。普通に進めば自然と達成しますから!」


 ラピスの解説に肩の力が抜けた。何か特別意識しすぎる必要はないらしい。


「報酬のポーションは、必要なときには節約なんて考えずに使い切っちゃいましょう!」そう続けるラピスの声は、足りなくなったらまたあげるよ、と言ってるように聞こえる。


 受け取れるものはすべて倉庫に入れ、いざという時に備えることにした。


 「雨が止んだよ!アキラお腹すいた!」とセレナの声が聞こえた。いつの間にか雨は止み、太陽が姿を現していた。


 **ウィークリーミッション**


 1. デイリーミッション達成 5/7 150ジェム

 2. 未踏エリア7箇所開放 3/7 1,000G

 3. 魔物30匹倒す 30/30 パン干し肉×10 ◯

 4. 全て達成する  300ジェム


 **新人冒険者応援ミッション**

 

 1. レベル6に到達 500ジェム

 2. 魔法を使う マナポーション弱×3 ◯ →Next

 3. 魔物を3種類倒す リカバリーポーション弱×3 ◯→Next




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る