第5話 4日目 ※
「あたたたた……頭が割れるように痛い。昨日、調子に乗って飲み過ぎたみたいだ」
アキラはよろよろと川へ向かい、冷たい水で顔を洗った。冷水が肌にしみ、少しずつ意識が覚醒していくのを感じる。
「ログインしました。ログインボーナスが獲得できます」画面に表示されたそれだけで、アキラは不審に思い、目を細めて画面を見つめる。肝心の初心者応援キットが見当たらない。
「ラピさん、初心者応援キットが無いよ」
「……」
「ラピさん、起きてます?」
「……えっ?あ、起きてます。今日は……たぶん無い、みたいです」
ラピスは寝ぼけた声で応じるが、心の中では冷や汗をかいていた。
昨日、オリジナルキットを作り、通常のキットと入れ替えたつもりだったが、結局カゴの中に残ってしまっていた。
「今日はキット配布はお休みみたいです。明日はきっとあるんじゃないですか?」
ラピスの言葉には微かに震えがあった。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。今日は川下に向かいます」
アキラはラピスの不自然な説明を気にせず、河岸に沿って歩き始めた。
途中の野原でスライムと兎を倒しながら進むが、川上に比べて魔物との遭遇回数が少なく、効率があまり良くない。
昼時になり、食欲が戻ってきたアキラは草の上に腰を下ろし、パンの半分と干し肉を取り出す。口に運びながら、これからの行動について思案する。
「できれば今日のうちにレベルを4に上げておきたい。川下は魔物が少ないから、この先に人がいる確率が高いのではないか?キャンプ地を移動するべきだな……」
そう考えたアキラは、パンを食べ終わると再び立ち上がった。
効率を重視し、アキラはベースキャンプに戻り、ウォータースライムを狩ることに決めた。夕方までに、なんとか昨日と同じ13匹を倒すことができた。
「あと、1匹」しかし、その1匹が見つからない。
※
冷たい風が肌を刺す中、アキラは下着を着替え、丁寧に絞ってから干し、タオルで体を拭いた。
服を再び身にまとい、川を観察する。ウォータースライムがいないか目を凝らしたが、どうやらすべて逃げたようだ。
「時間をおけば、また現れるかもしれないな……」と思ったが、時間を無駄にしたくなかった。
冷たい風が吹き抜ける川辺で周囲を見渡すと、川べりの岩陰に一匹の蛇を見つけた。普通の蛇よりも胴が太く、尾部が広がっている。
「これは単なる蛇ではないな」マップ機能で確認すると、魔物反応表示されている。
「はい、でも……」
アキラはそっと蛇の後ろに移動し、先制攻撃で一気に仕留めようと決意した。
音を立てないように慎重に近づき、蛇の胴を掴んで首の後ろにナイフを突き立てた。
しかし、蛇の胴体はぬるぬるしていて、力が入らない。
アキラの左手が緩んだ瞬間、蛇が反撃してきた。首を後ろに回し、彼の右手に噛みついたのだ。ナイフを背に刺されたまま、蛇はそのまま逃げていった。
「しくじった」
アキラは咬まれた右手の激痛に顔を歪め、吐き気と視界のぼやけが次第にひどくなっていくのを感じた。
毒牙のせいだ。ステータス表示には「毒」と出ている。このままでは命が危ない。早急に対策を取らなければならない。
「早く、治療を」とラピスの焦った声が聞こえる。
「どうすれば……」と声にならないが、ラピスが的確なアドバイスをくれた。
「デイリーミッションの報酬に毒消し草があります。急いで!」
視界がぼやけながらも、アキラは必死に左手でゲーム画面を操作し、倉庫から毒消し草を取り出した。吐き気を抑えつつ、その草を口に含み、強く噛み締めた。
「苦い!苦い!」
苦味が口の中に広がったが、すぐに効果が現れた。痛みや腫れ、視界のぼやけが引いていくのを感じる。アキラは体を休めるため、敷布を広げて横になった。
「さて、困ったな……」
頭を掻きながら、ゲーム画面を見つめていたが、軽率な行動を反省し、自分の無力さに絶望しかかっていた。
アキラ
レベル3
HP 3/20
MP 1/6
Exp 46/47
痛みが和らいだので、川べりに腰掛け、薬草を取り出して齧りながら、静かに流れる川と広がる野原をぼんやりと眺めている。体力が急激に回復しているのを感じる。
「美味しくない……」
しかし、ラピス曰く、食事や休憩よりも回復の速度が早いらしい。
ただし、精神的な疲労は目に見えないため、リラックスして過ごす時間を持つように言われた。
※
太陽が完全に沈みきる前、まだ眩しい光の中で、突然事態が動いた。風がざわめき、木々が不穏に揺れる。
そして、静寂を破るようにアナウンスが響いた。
リバーサーペントを倒しました。
経験値 5ポイント獲得しました。
金 25ゴールド獲得しました。
さらなるアナウンスが続く。
レベルが4に上がります。ジョブ(冒険者)選択が可能です。特技、魔法等が取得可能です(スキルポイントが必要です)
※※※
「ねえ、山吹。同人ゲームの話聞いてみた?」大学の図書館で、いつもの女友達が話しかけてきた。正確にいえば知り合いだが。
「ううん。だってしばらく日本にいないよ、あの人」彼女は、題名のわからない本の捜索を諦め、知り合いに向き合った。
「そっかぁ、残念。ところで今日はこの後、暇?うちのサークル見学に来ない?」
「ごめん。これからバイトなんだ。そろそろ行くね」嘘では無い。
山吹は、大学の駐車場に止めてあるバイクに乗って、街の郊外にある高級住宅街にたどり着いた。
一軒、一軒が、大きくて立派だが、目的の家は古い小さな洋館だった。
「ごめんください」地下の駐車場に停めて、階段を登り黒神と書かれた表札の呼び鈴を鳴らすと、中から大きな声がする。
「悪いね、山吹。勝手に入ってくれ」
彼女は、靴を脱ぎ、廊下にかかる幾つかの昆虫の標本を眺めながら、突き当たりのリビングの部屋に入る。
「早速だけど、調査の結果を教えてくれないか?」不精髭と疲れた表情はしているがメガネの奥の眼は鋭い。
両脚が不自由なのか車椅子に座っている。
「だいたい私は探偵じゃないし、答えは電話で話した通りだよ」
「じゃあ、彼女はいなくなったのか! 病気で入院していたのに。体調も良くないのだろう」
「ええ。立って歩けるとは思えないって。もうかなり、病気が進んでいたと。枕元に、パソコンと手紙があったって。それって?」
「……誰かに連れて行かれたのかも」
嘘をつくな!
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