第20話 届いていたレインの想い


「やっぱりそうだ。その綺麗な声聞き覚えがあると思ったんです。レインさんの配信、俺も見ていますよ」


「…………へっ?」


「レインさん小説配信、本当に面白いです。俺普通に続きが気になって毎日放送楽しみにしているんですよ」


 以前、ささえと一緒にレインの放送を見た時は色々な意味で度肝を抜かれた翠斗だったが、『例のコーナー』を覗けばレインの放送はクリエイティブで非常に興味がそそられる内容なのだ。


「す、翠様が……私の放送を……ぷしゅ~」


「頭から湯気出して倒れた!? 大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫じゃありません! そ、それじゃあ、その、わ、わわわ、私が、私がみどりさんのことを好きなの、バレバレってことですか!?」


「……あー、それは……」


 そう——例のコーナーだ。

 レインの放送は必ず末尾の時間で『とどけレインの想い! 今日のみどり様』というコーナーをやっている。

 レインの赤裸々な思いをぶちまけられ、俺が出てくるR15+の夢小説音読が行われる。


「うわぁぁぁぁぁぁん! 翠様に私の気持ちがバレてましたぁぁ! 放送見ているってことは私の夢小説もバレてるってことですわよね!? 昔頂いたサイン色紙の匂いを嗅いで愉しんでいることもバレているってことですわよね!?」


「その件に関しては初耳だな!?」


「は、恥ずかしいですわぁぁぁっ! ま、まさか、翠様の家を特定して隣に引っ越してきたこともバレていたということですの!?」


「それに関しても初耳だな!? しかも衝撃度半端ないんだけど! どうやって特定した!?」


「い、以前のコラボ配信の時、選挙カーの音が入っておりましたの。一瞬だけ聞こえた音声を分析し、選挙活動をしていた議員の名は『大野太郎丸』だということが分かりました」


 なんで議員名まで特定できたし。

 音声分析して個人を特定できるなんてアニメの名探偵顔負けの捜査力だな。


「私は更に調べました。5月14日の15時41分。大野議員がどの場所で選挙活動を行っていたのかを」


「えぇっ!?」


「そして特定したのです。あの日のあの時間に大野議員の声が届く住所は美場町2丁目付近だということを!」


「うっそだろ!? キミ!」


 選挙カーの音声からそこまで特定する!?


「後の調査は簡単でした。不動産屋に『壁に穴の開いた物件』がなかったか聞いて回り、ここにたどり着いたというわけです」


「そこまでして俺と同じアパートに住みたかったの!?」


「は、はい。お慕いしております相手の近くに居たいという一心でしたわ」


 それは紛れもなくストーカー行為ではあるのだが、そこまで熱烈に自分を追いかけてきてくれたという気持ちは正直嬉しいと思ってしまう翠斗だった。


「そ、その、そんなにも俺のことを慕ってくれていることは本当に素直に嬉しいです」


「じゃあ結婚してくれますの!?」


「話飛んだな!?」


「ご、ごめんなさい。まず婚約ですわよね」


「落ち着いて。まずおちついて」


 レインさんの肩に手を置いて落ち着かせようとするが、彼女の顔がボッと赤くなったところを見ると逆効果だったのかもしれない。


「え、えっと、レインさんが俺を想う『好き』は……アレだ。たぶん『推し』って意味なんだと思う。あまりにも推してくれるからちょっと恋愛的な勘違いが入ったのだと思うんだ」


「……そうで……しょうか?」


 全く納得いっていない様子のレインだが、この場は無理やりでも納得してもらわないといけなかった。


「俺もこんな美人に推してもらえるなんて本当に幸せと思っています。もう声優はやっていないですが、これからも夏樹翠を推し続けてもらう分には本人的にも喜ばしいことですので」


「……もう……声優は……やっていない……ですか」


「はい」


「ささえ様の放送でも仰られておりましたが春夏秋冬で何かあったのですか? 声優を辞められるほどつらいことがあったのですか?」


「…………」


 翠斗が声優を辞めることになった背景にはユニット内で行われた『ある企画』が関係している。

 その企画はミーチューブの有料配信で行われ、たぶん今でも当時の動画は残っている。


「申し訳ございません。お辛かったことを無理に聞き出すなんて失礼でした。でも翠様には声優であり続けてもらいたいのです。お願いします! もう一度、声優として立ち上がってくれませんか?」


「どうしてそこまで俺を……」


「決まっています。レインは貴方の声が好きだから。ずっとずっと昔から」

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