第21話 入学! ゼクセリア学園!
「うぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……眠すぎる……」
「入学初日からなんでそんなに辛気臭い顔してんのよ……」
ウィンと共に魔族と戦った夜が明けて、俺やセナ達は無事にゼクセリア学園に入学した。したはいいのだが……。
昨夜の憲兵の取り調べがしつこすぎた……! 俺もウィンも深夜一時くらいまで取調室に監禁されたんだぞ。なんで魔族と街中で戦っただけでこんな目に遭わなきゃいけないんだ? 街の建物を壊したからか? それはそう。
まあ結局、ウィンが自分の身元を明かして憲兵達も引き下がってくれたからよかった。いくら憲兵と言えども、女神に選ばれた勇者を疑うわけにはいかなかったらしい。
それはそれとして疲れは残ったままだ。肉体的にではなく精神的に。
そんなこんなで、昼食休憩に遠慮なくだらけているというわけだ。
「少年。昨夜、魔族と交戦したそうだな。その疲れが出ているのか?」
「えっ!? そうだったの!?」
ぐでーっとしていたらミシェリーが案じるように尋ねてくる。彼女の言葉を聞いたセナが目を丸くした。
「ああ、まあ……どんな奴かまではわからなかったけど。土魔術を使ってきたのと、ガントレットを装備していたことぐらいしか……」
「十分な成果ではないでしょうか。近頃この王都では魔族と思しき存在が噂されていたのですが、その足取りも掴めないままだったんです。能力の一端を垣間見たライガさんはお手柄ですよ」
「いやあ、見つけたのはウィン……勇者だし。俺は偶然居合わせただけだよ」
ハーブティーの入ったカップを持ったダイアからのお褒めの言葉に、俺は力のない笑みを返す。
「勇者といえば、昨日駅前であった彼が勇者だったのには驚いたわね」
「確かにそうですね。あまり覇気を感じませんでしたし……ライガさんの方が強そうというか……」
「まあ俺は確かにマッチョで強そうだが……実際、ウィンは凄かったよ。剣捌きしか見れてないけどな」
「全然信じらんないわね……道端であんな簡単にコケてたのに」
「彼の腕前は、実技の授業でたっぷりと見せてもらいたいものですね」
セナとダイアからウィンへの評価はあんまり高くないな……。昨日の男と男のドッキング事件が尾を引いているらしい。俺も三割ぐらい責任があるので罪悪感を感じる。
だが、考え方を変えよう。マイナスからプラスに転じた時の上がり幅はかなり大きい。不良が雨の中で子猫に傘をさしているのを見ると「あれ、あいついいやつじゃん」ってなる現象だ。
ダイアも言ったようにウィンが実技の授業でその巧みな戦闘技術を披露すれば、ヒロイン達も一気に好感度が上がるんじゃないだろうか。
「勇者と言えば、アルスさんも大変よね。せっかくみんなでランチを食べようと思っていたのに、勇者の道案内役になっちゃうなんて」
クッキーをつまみながら、セナが本当に残念そうにため息をついた。
現在、アルスはここにはいない。次期聖女の彼女は、勇者と深い関係になるように教会の人間から指示を出されている。その一環として、今頃はウィンと一緒に校内を歩き回っているはずだ。ウィン、大丈夫かな……アルスは結構ぽわぽわしているから、彼女のペースに巻き込まれないか心配だ。
「アルスさんは未来の聖女ですからね。勇者と懇意にするというのは、彼女の所属するフォーシング教会からの指令でしょうし、仕方ありません。私も残念には思いますが」
「わかっていますけど……なぁんかライバルが勝手に退場するのも面白くないなーって」
「ライバル? 魔術の腕でも競ってるのか?」
「あああああ、あんたには関係ないでしょ!」
「えぇ……」
急に激昂するセナに、俺はただ戸惑うことしかできなかった。
「ライガさん、今のはさすがに減点ですよ……」
「少年のアレさには大分慣れてきたがな」
「みんなして酷くないか?」
ダイアとミシェリーにまで呆れ笑いされてしまった。俺が何をしたって言うんだ。
旗色が悪そうなので、俺は話題を勇者から魔族に戻すことにした。
「と、ところでさ、魔族って王都にはよく出るのか?」
「よく出ていたら大問題ですよ……ここ二十年は、魔族の侵入を許したことはないと聞いていますが」
「ダイア様のおっしゃる通りだな。近年でも稀なこの事態に、憲兵団もかなり気を張り詰めている」
「ふむ……」
そこはゲームと一緒か。でも、なんか違和感があるんだよな……。上手く擬態した虫を見逃してしまっているような……そんな漠然とした違和感が。
「……ライガ、あまり深追いしない方がいいんじゃない? 私達って、まだ学生なんだし……危ないことは大人の人達に任せた方がいいと思う」
「セナ……」
こちらを気遣うようなセナの言葉に、俺はすぐに反論できなかった。
彼女の言葉は確かに正論で、一学生である俺が積極的に動く必要はない……。
けれど、この世界で起きることを俺は知っているのに、何もしないということはできない。
それに、セナ達もいずれは戦いに身を投じることになるのだから、今のうちに魔族との戦いに慣れておくべきなんじゃないか。……そんなことは軽々に言うことはできないけど。
「……でも、やっぱり俺達にもやれることはあるんじゃないかな。俺は小さい頃からレベルを上げてきたし、セナもダイアも才能の塊だ。ゾロスのアジトに潜り込むような無茶はしないけど、それでも何もしないわけにはいかないよ」
「ライガ……相変わらずね」
「もちろん、私も座して待つつもりはありません。民草を守るのも、王族の務めですから」
「ダイア様……立派になって……!」
感極まっているミシェリーは置いておくとして、セナもダイアもやる気はあるようで良かった。
これならたとえ今日明日に魔族とかち合っても、無残にやられることはないだろう。
「……まあ、今回の魔族の件は一旦憲兵に任せるか。セナの言う通り、まずは学生の務めを果たさないとな」
「意外とあっさり引き下がるのね……ちょっと安心しちゃった」
「自分の実力は自分が一番よくわかっているからな。勇者もいるんだし、一先ずは安心だろ」
「本当に頼りになるの……?」
相変わらずのセナ疑わし気な視線に、俺は苦笑を返すことしかできなかった。
◇🔷◇
翌日。
ゼクセリア学園は今日から本格的な授業が始まる。王国の歴史や社交界での礼儀作法、軍での戦術に関して学ぶのはもちろんのこと、実践授業も行われる。
最初の一か月は生徒同士での模擬戦のみになるが、それが過ぎると学園の敷地内にあるダンジョンに潜れるようになる。このダンジョン──ゼクセリア地下遺跡には地上よりも強いモンスターが跋扈しており、レベルは最低でも十にまで上げなければならない。ちなみに、学園入学時の生徒の平均レベルは七だ。
まあ、俺やセナやダイア、それにアルスは(主に俺の発案で)小さい頃から魔物を討伐していたので、全員レベル十五以上になっているのだが。
したがって──
「……ねえ、私達この授業に出る意味あるの?」
「他の人の動きを観察して、自分の戦闘に活かせる……かもしれない」
あくび混じりに尋ねてきたセナに、俺は小さな声で答えた。
今は剣術の授業中なのだが、俺とセナは担当教師に外で見ているように言われてしまったのだ。「文字通りレベルが違いすぎる」だってさ。
アルスは別学年だし、ダイアの武器は弓なのでここにはいない。なので今はセナと二人でグラウンドのはじに座っている──いや、二人ではないか。
「あわわわ……女の子がこんなに近くに……」
「怖がりすぎだろ……」
俺の横の三人目──ウィンはセナを警戒して小刻みに震えていた。
魔族と戦えるだけの力量と経験を持つウィンもまた、授業から外されている。ゲームだとレベルとか関係なく授業には出れたのに……現実は厳しいな。
「……ちょっとあんた。初めて会った時も思ったけど、失礼なんじゃない? レディに対して名乗りもしないなんて」
「ひぃっ!? すすすすすす、すみません!」
ヒロインに対して九十度のお辞儀をする勇者なんて見たくなかった。
「ウィン、彼女は──セナはいい子だぞ。俺は昔、事故で彼女の水浴びを見てしまったことがあるけど、それも許してくれた」
「許してないけどぉ!? ちゃんとしっかり責任とってもらうからね! っていうか今その話蒸し返さないでよ!」
「すごい……ライガはやっぱり只者じゃない……!」
間を取り持とうとしたら、セナに怒鳴られウィンに敬意を表されてしまった。
「あんたって勇者なんでしょ? そんなに女の人を怖がってて、本当に大丈夫なの? 女性の魔族だっているでしょ」
「そ、その時はちゃんと戦うよ……僕、戦闘になると意識が切り替わるから……」
「ふーん……ま、ライガの方が強いけどね」
「おいセナ、頼むから変なことは言わないでくれ。闇魔術と筋肉では超えられない壁もあるんだ」
「セナさんの言う通りだと思うよ。ライガは強い。この前の戦いで間近で見た僕が一番わかってる」
「は……? 五年も一緒にライガと居た私の方がよくわかってるんだけど……?」
「ひぃ!? すすすすすすす、すみません!」
ヒロインに対して九十度の以下略。誰か助けてくれ。
「おーい、見学組。授業の締めにみんなにお手本を見せてやってくれ」
救いの手は意外なところから差し伸べられた。担任の教師に呼ばれた俺は意気揚々と立ち上がる。
この地獄から逃れるためならなんでも利用してやるぜ……!
「はい! やります!」
「いや、ライガはレベルが高すぎるから今日はナシだ。レベルが同じくらいのプリムローズとマグノリアで模擬戦だな」
「……え?」
こうして、セナとウィンが戦うことになった。
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