回帰したS級夫婦
霜月雹花
第1話 【回帰・1】
俺と妻は魔物達に立ち向かう〝探索者〟という職業で、最上位のランクである〝S級探索者〟として活動をしていた。
「ハハッ、まさか最後がこんな呆気なく終わるとはな……智咲。すまねえな、俺の我儘で死なせちまって」
「ふふっ、貴方の我儘に付き合うと決めたから結婚したのよ? 今更、謝罪なんて要らないわよ。それにもう私達、死ぬんだし」
数日前、あるS級ゲートの攻略に失敗。
そのままゲートの世界から、超大型魔物——ドラゴンロードが地球へと出て来た。
俺達夫婦はその魔物の討伐へと駆り出されたが、俺達の攻撃は何一つ効かなかった。
「旅行の約束も守れないな」
「そうね。楽しみにしてたのに残念ね」
俺達夫婦は、やり残した事が沢山ある。
旅行や友人達とのパーティー、それに子供だって落ち着いたら作りたいなんて話もしてた。
しかし、もう俺達は死ぬ。
下半身はドラゴンに食いちぎられ、遥か上空から俺達を見下ろすドラゴンは今にも俺達に向かってブレスを放とうとしている。
「智咲、もし来世があるなら絶対に迎えに行くからな」
「武蔵。約束をよく破るけど、それだけは絶対に守ってね」
普段は、〝貴方〟と呼ぶ妻は最後に俺の名前を呼び、俺はその妻の言葉を心に刻み込んだ。
そして俺達はドラゴンのブレスを受け、その身を焼き尽くされた。
【世界樹のお守りが効果を発揮します】
身を焼かれ、意識が消えていた俺は次に目を開けるとステータスの様なボードにそんな文字が書かれていた。
【登録情報……
【……所持者の意識が無い事を確認。従って、戻せる時の最大を強制的に行います】
そんな文字を見終わると、俺の視界は光に包まれ意識が飛んだ。
「……ど、どうなってるんだ? ここは実家か?」
次に目が覚めると、俺は学生の頃に過ごしていた実家の自室で目を覚ました。
そして俺は直ぐに自分の体の異変に気が付き、部屋にあった姿見で確認をした。
身長は180㎝と少し、青年風の髪型、この頃はまだ髪を染めたりしてないからか真っ黒な髪に黒目。
「若い頃の俺だ」
前世、と言っていいのか意識的には数分前までの俺は40を過ぎ50に差し掛かろうとしていた。
そんな姿から俺は10代の頃の姿になり、多少なりとも嬉しさが込み上げてくる。
いくら鍛えているからと言っても、疲れや疲労は老いには勝てず30を過ぎた頃から疲れやすかった。
「今なら何でもできる。そんな気がするな」
若さとはこれ程までに素晴らしいのか、そう改めて感じた俺はふと死ぬ間際の事を思い出した。
「あの謎の文字。そして〝世界樹のお守り〟か、確かに俺達はお守りを持っていたがそんな大層な名のお守りだったとはな」
探索者としてゲートを回っていると、時折ゲートの先の世界でお宝が見つかる事がある。
その宝は無価値な物から、数十億で取引がされるレベルの物など色んな物があった。
俺達もまたゲートの攻略をしてる際、色んなお宝を見つけておりその中に〝お守り〟もあった。
しかし、その〝お守り〟は鑑定したが特に価値は無く、売るより自分達で持っておこうと大切に扱っていた。
「まさか、そんなお守りがこんな効果を発揮するとはな……って、そうだ! 俺が戻ってるって事は、智咲も戻ってるんじゃ!」
俺は慌てて部屋を出て、そのまま家の外に出た。
智咲の家は俺の実家の隣。
生まれた病院、生まれた日付が一緒の俺達は小さい頃から家族ぐるみで親交があった。
その為、幼い頃は兄妹の様に育った俺達だったが、中学の頃に恋仲へと進歩した。
そして、高校を卒業して少し経って結婚をし、夫婦で探索者として活動をしていた。
「あら、こんな朝早くにどうしたのむさし君?」
「おはようございます。里美さん、実は一緒に勉強をしようと智咲と約束をしてたんですが、入っても大丈夫ですか?」
「そうだったのね。ささっ、入っていいわよ」
智咲の母、
俺はそのまま里美さんとは一階で別れ、智咲の部屋がある二階に向かった。
そしてドアをノックして中に入ると、智咲は俺と同じように姿見を見て驚いた顔をして固まっていた。
智咲も同じく俺と同様に若い頃の姿をしており、身長は170㎝程で黒い髪を腰辺りまで伸ばした姿をしている。
数年したら先頭に邪魔だからと言って、いきなりショートにした時は本当に驚いたと今でも覚えている。
「まさかあのお守りにそんな効果があったなんてね……」
「本当にな、効果が無いけどお守りなら何か効果があるかもって智咲から言われて、ずっと持ってて本当に良かったよ」
あの後、智咲も俺と同じように前世の記憶がある事が分かった。
そして智咲も俺と同じく、あの謎の文字を見て次に目が覚めると自宅の部屋で目覚めたと言った。
「それでこれからどうする? 今の私達、高校に入学した年の夏休みよね」
「そうだな、折角回帰したんなら前世より活躍はしたいとは思うが……前世でも俺達は活躍してた部類だからな」
「ええ、でも最後は手も足も出しようがない相手に敗れたわよ」
「……そうだな」
ドラゴンロードの力はそれは凄まじかった。
自分の力が通用せず、勝つ事も逃げる事も出来ないと感じたのは初めてだった。
「よし、それならやる事は決まったな。前回の俺達を超えて、あのドラゴンに勝てる位に強くなるか!」
智咲の言葉を聞いた俺は、そう力強く宣言をした。
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