第3話 したがってベテラン【支援魔法士】は存在しない。
3
「ギンさんは探索者と探索者ギルドについてどの程度御存知でしょうか?」
「具体的には全然。探索者は探索者ギルドで依頼を請け負って魔物を倒すとか素材を入手するといったイメージがあるけれども実際のところは何も知らない。あとは商隊の護衛とか盗賊退治、初心者は薬草採取をするとかかな。さっきの彼はハズレ職だと言っていたけれどもなぜそんなに【支援魔法士】が敬遠されているのかも分からない。
「実際の戦闘を目にした御経験は?」
「ない」
「戦闘は恐らくギンさんが想像している以上の速さで進行し一瞬で決着します。【戦士】や【剣士】など物理的な攻撃職は反撃されないように一撃で相手の無力化を狙いますし【攻撃魔法士】ならば圧倒的な火力で灰燼に帰そうとします。戦闘中にバフやデバフの詠唱を待つ時間はありません。逆に相手がこちらよりも強かったり奇襲を受けた場合は一方的に殲滅されるので逃げの一手です。やはりバフやデバフの時間はありません。一瞬で倒すか倒されるかの戦闘では通常【支援魔法士】の出番はないのです」
ヘレンはこの世界で実際に行われている戦闘の様子を説明してくれた。
攻撃魔法の存在がそうさせているのか俺が思う切った張ったの様な悠長な時間の流れではなさそうだ。
「もう一点。【支援魔法士】にとってはこちらのほうがネックになりますが仮に支援魔法をかける時間があったとしても敵味方双方が有している魔法抵抗力の問題があります」
ヘレンは話を続けた。
自分にかけられる何らかの魔法を拒絶する力として人にも魔物にも魔法抵抗力が備わっているらしい。ウイルスの侵入に対する免疫活動のようなものだろう。自分に変化をもたらす魔法を肉体は基本的には拒絶するのだ。
自分を弱体化させようというデバフを肉体が拒絶するのは当然だろう。けれども例えば力やスピードの強化を目的としたバフであっても魔法による変化そのものを肉体は自動的に拒絶する。
もちろん相手を眠らせたり毒や麻痺、石化させようという状態変化の場合も拒絶は当然だ。
拒絶を抑え込んで相手に魔法の効果を発揮するためには相手の魔法抵抗力を圧倒的に上回るだけの魔法の能力をかける側が持っている必要があった。
にもかかわらず新人探索者の能力は低い。
新人【支援魔法士】が
バフやデバフは、もともとの肉体が百の力を持っていたとして、その力を百二十や八十に変化させようという魔法になる。肉体にとってはある意味不自然な変化であるから、もしバフやデバフをかけられた場合、肉体の拒絶反応が強く起こるのだと言われていた。
もっともバフは味方によりかけられる魔法であるため、かけられる本人に魔法を受け入れる意思があり無抵抗であればかかりはよくなる。
はずなのだけれども戦闘中の興奮状態が神経を高ぶらせてしまうため、大体の場合、かけられる側に受け入れの余裕はなかった。
その点については【回復魔法士】による回復魔法も同じなのだが拒絶の可能性はあるとはいえ確率はそこまで低くはない。減った力を元の百に戻そうとする行為が回復だと考えれば肉体にとっては自然な変化だ。肉体自身が回復を求めているから拒絶はあまり起こらないのだと言われていた。
そのため支援と回復どちらか一方しか選べないのであれば直接命に関わり失敗の確率も少ない【回復魔法士】が選ばれる。
バフやデバフが戦闘中以外はあまり必要とされない肉体の変化であるのに対して回復は戦闘終了後にこそ必要になった。一瞬の総力戦で決着がつく戦闘中には治療をしている余裕はあまりない。
一方、本人の素の能力さえ高ければ戦闘時にバフは必ずしも必要ではない。
ならば、と敵へのデバフが効けばいいのだが、当然、相手の肉体はデバフを拒絶するので、やはりかかるかかからないかの問題が存在した。
素の能力で勝てる相手であれば、わざわざデバフは必要ない。
逆にデバフによる弱体化をしたいほどの相手は、そう思う時点で強敵でありパーティーにとっては手に余る存在だ。魔法抵抗力も高い。デバフが効く可能性は限りなく低くなる。
したがって、戦闘時にデバフが効くという前提には立てない。
ましてや味方へのバフも効くか効かないかわからないとなっては【支援魔法士】による魔法支援は戦闘時の作戦には組み込めなかった。
要するに、ここぞという必要な場面であるほど【支援魔法士】には期待できないのだ。
であるならば同じ戦闘時専門の魔法職である【攻撃魔法士】を増やしたほうが良い。
攻撃魔法の場合も直接相手の肉体を発火させたり凍らせようと考えると魔法抵抗力により拒絶される。
けれども火の玉や氷の玉を発生させてから相手にぶつけようとした場合は相手の魔法抵抗力が高いところで火の玉、氷の玉の発生は防げない。相手の頭上に火の玉を発生させて落とせば相手はなすすべもなかった。単純に物理的な防御力の問題になる。
もちろん戦闘に先立ち【支援魔法士】が事前に仲間にバフをかけておく手は存在する。
仮に何回か失敗したところでかかるまでかければいいだろう。
とはいえ、こちらが相手を先に発見した好機に味方にバフを何度もかけて時間を浪費するくらいならば間髪入れずに先制攻撃をかけたほうが手っ取り早い。
それに、こちらに気づいていない敵に効くか効かないかわからないデバフをかけて気付かれるぐらいだったら、さっさと攻撃魔法をかけて焼いてしまったほうがいいだろう。
戦闘直前ではなく探索中は常時仲間にバフをかけたままにしておくという手もある。
もっともその場合は大抵のバフは無駄がけとなるし【支援魔法士】の魔力の消耗も早くなる。ここぞという時に、かかるかからない以前に魔力が尽きて魔法を使えませんでは本末転倒だ。【支援魔法士】がパーティーに存在する意味がまるでない。
魔法が使えない【支援魔法士】の物理攻撃をアテにするくらいならば最初から魔法は使えなくても物理的な攻撃手段に特化した職業を仲間に加えたほうがいいだろう。
要するに【支援魔法士】は使い勝手が悪いのだ。
戦闘に絶対に必要な存在ではない上に戦力として必要な時には期待できない。
荷物を運搬する労働力としてならば『数は力』なので
けれども役立つべき場面に対して活躍が少ないことを考えるとパーティーの人数が増えて報酬の配分が減るぐらいならば、
その他のメンバーの素の能力さえ高くなればバフもデバフも必要ないのだ。
【支援魔法士】だって成長すれば魔法の効きも良くなるのだろうが新人の段階で敬遠されてパーティーに入れないから成長の機会もなく育たない。
したがってベテラン【支援魔法士】は存在しない。
悪循環だ。
なるほど。俺だって命の危険がある場所へ一緒に行く仲間を限られた人数だけ選ぶとしたら【支援魔法士】は遠慮するだろう。もっと頼れる仲間を選ぶ。
けれども、もしも魔法を絶対に失敗しない【支援魔法士】だとしたらどうだろう?
魔力も足りなくならなければ?
ユニークスキル『絶対魔法効果』
白いどこかで高次元の誰かから俺は俺だけの特別なスキルをもらっていた。
◆◆◆お願い◆◆◆
本作品は「カクヨムコンテスト10」に参加しています。
このような小説が好きだ。
おっさん頑張れ。
続きを早く書け。
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仁渓拝
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