第26話 ひい爺ちゃんの遺言を読もう!

「なるほど、ね」

「ダルマシオ様、学校で人気でしたね」

「なんとなく『珍しいお客様が来た』って感じだったよ」


 早速観に行った『闇の村』にある学校、

 そこで生徒と触れ合い、少ない先生と話が出来た、

 校長は以前はこっち(我が街ダクスヌール)でも、何年か教師をしていた人だった。


「それで、受けた要望については」

「うん、たまにこのユピアーナ様の屋敷、その書斎(図書館)で授業してたり、

 中庭で遠足みたいな事してるのを今後も許して欲しいって話だよね」


 僕は良いけど一応、ユピアーナ様に話を通しておかないと。


「それとそうそうある事ではありませんが、

 この村に出入りする業者が若干名おりまして」

「光属性持ちかぁ」「その方々との商談もこちらで」


 いいのか秘密の村だぞ、

 でも出入りを許された冒険者が居る以上、

 商業ギルドで高いランクの商人も許されていても、おかしくはない。


「まあ、おかしな言い方だけど『立派な建物』だからね」

「この村のシンボルですから」

「それで肝心のユピ、アンヌさんはどちらへ」


 寝室の掃除をさせられていたから、

 その流れであっちこっちの掃除中なんだろうか、

 本人は『オールマイティーメイドになりたい』とか言っていたけど。


「寝室の掃除後はメイド区域です」

「そっちに行っちゃったんだ」

「改めて確認ですが、メイド区域はメイドだけの区域ですから来ては駄目ですよ」


 そんなに見せちゃいけないものでもあるのだろうか、

 あと主人(ぼく)の悪口を言いまくっているからとか、

 僕が来たのは昨日だぞ?! いやいや、単純に女性だけのスペースだからだろう。


(忍び込んだら地下の牢屋に入れられちゃうな)


 たとえ領主であっても、いやまだだけど。


「メイドがご入り用でしたら、いつでも呼びつけて下さい」

「あっはい、個人指名でも良いんですよね」

「お休みのメイドも居るのでご注意を、アンヌは本日は休みです」


 そうだったんだ、掃除させちゃって悪いな。


「わかりました、今夜もアンヌさんの夜伽をって言っても無理って事ですね」

「今夜は私ですよ」「はひっ!」「……なんですかその声は」

「いえ、その、緊張しちゃって……」「まあ良いでしょう、休みのメイドをわざわざベッドに呼ぶと勘違いされますよ?」


 プライベートの時間に呼ぶってことは、

 それはメイドとして呼んではいないっていうことか、

 だとすると私的な服で来てくれるのかな、っていう妄想は僕にはまだ早いかな。


(ユピアーナ様の私服って何だろう)


 まあいいや、

 僕は僕の出来る事をしよう。


「ええっとそれで、僕はこれから何をすれば」

「昼食までの間ですか、逆に何をされるのですか?」

「えっ」「されたい事をして下さい」「じゃあ……手紙でも読むか」


 そう、ひい爺ちゃんから貰った分厚いやつ。


「こちらですね、はいどうぞ」

「うん、じゃあ読むよ、ここって領主の執務室だよね」

「そうですがなぜそのような事を」「椅子のサイズが普通の人間サイズだったから」


 この建物を造る時にすでに、

 ユピアーナ様は『人間の主人に仕えるメイド』という立ち位置で設計していたのかも、

 でもこの椅子は十五歳の僕にとっては、まだちょっと大きいけどね。


「……私は席を外した方がよろしいでしょうか」

「そんな眼鏡を外しながら言わなくても、嫌じゃなかったら居て貰っても構わないよ」

「では隅で失礼して」


 眼鏡をハンカチで拭いている、

 相変わらず高価そうな眼鏡だこと……

 さてさて、百枚はありそうなひい爺ちゃんの遺言でも読むか。


(昼食までに読み終わるかなぁ……)


 最初の『すまぬひ孫よ』しか読んでなかったよな、

 さあ、その続きはっと……どれどれ、ええっとおぉーーー……


『すまぬひ孫よ、お前には魔王を倒した勇者パーティーの、

 後始末を押し付ける結果となってしまった、本当に済まない、

 一応はお前さんへの『遺産、プレゼント』という事にはしてあるのだが……』


 内容をまとめると、こうだ。


・魔王を倒すのに組んだパーティーの命を捧げる必要があった

・その儀式、魔法で魔王は倒せたが、後は命を全て吸い尽くされるだけという時に、

 魔神ユピアーナを封印して無理矢理、生命の吸引を止めさせた


 うん、これはユピアーナ様ご本人、いやご本魔神から聞いた。


・そもそも魔神とは何かという話だが、簡単に言えば『悪いのが悪魔』、

 そして『良いのが魔神』もっと大雑把に言うと『良い天使が悪くなると堕天使』、

 反対に『悪い悪魔が良くなると魔神』細かい所は違うがイメージとしてはこう捕らえて良い


 なるほど、だから女悪魔っぽい角とか紫の身体だったのか。


・ユピアーナ自体は世間知らずだが根は良い奴、

 人間世界に興味を持ってメイドになりたがっていた

・ちなみに勇者と聖女は根が腐っていたが仕方が無い


「ですよねええええええ!!!」

「どうなさいました?」

「いえ、あっはい、座ってて良いですよ」


 何気にカタリヌさん、立ちっぱなしだった。


・メイドごっこにつきあったりはしたが、

 本人はメイドというもをそこまで理解はしていないので教育は頼む

・生命力吸引を無理矢理に中断した影響で、ユピアーナの命はそう長くは無い


「えっ」


・とはいえ魔神だ、残りの命は封印解除から、目を覚ましてから百年前後だろうと推測される

・我々七英傑はユピアーナのお陰で残りの人生を謳歌できた、ユピアーナには同等の権利がある

・よってワシが死んだ後、使えなくとも光の魔力が一番濃くて強いお前さんに後を託す事にした


 うん、迷惑な。


・ちなみにこの事を知っているのは七英傑直系の長男か長女のみ、

 現国王は勇者イスマエルの孫にあたるのでまだ知らされていない可能性がある

・ユピアーナは出来るだけ『普通のメイド』として生きたいそうなので知らぬ者には他言無用


 これ、下手にバラすと伝説の勇者と聖女がクズだったって事もバレちゃうよな、

 いやそれどころか七英傑の伝説自体に傷が、ミソが付きかねない、

 だとすると……うん、そのあたり子孫も秘密にしておきたい所だろう。


・ちなみにウチだと知っているのはひとり息子だけ、

 おそらく孫もひ孫も誰一人知らない、たった今のお前さんを覗いて。

・なので細かい詳細や疑問点、今後についてどうしてもというなら息子のリアッドに相談せよ


 あの爺ちゃん、なかなか怖いんだよなあ、大魔導の称号も継いでいるし。


『さて、紙も余っている事だし、ここで勇者パーティーで共に戦った、

 魔神ユピアーナが女拳闘士ユピ、全属性魔法使いアンナとして人に化けていた、

 おもしろ珍道中を少し、書いて行こうと思う、まず出会いからだが……』


(ってこれ、残りまだ半分くらい紙があるじゃないですかーーー!!)


「うん、飛ばそう」


 まったくひい爺ちゃん、

 公(おおやけ)に発表できないからって、

 わざわざ僕に伝記を残さなくっても……


(ずっと誰かに言いたかった、語りたかったんだろうなぁ)


 そして最後の方に重要な話が。


『魔王を倒し平和になった後、七英傑の皆で決めた事がある、

 それはワシが魔神ユピアーナの復活後について手配はしておくが、

 それぞれの直径の子孫がひとりづつ、一回づつ、ユピアーナを助ける事」


 義理堅いなあ、まあそりゃそうか、

 世界を救った真の恩人だもんな、そのうえ命の恩人、

 直接会えないならその子供が義務を、責務を負うのは致し方ない。


(現に僕が負わされているし!)


『よってユピアーナが本当に困った時、どうしようもなくなった時は、

 ユピアーナの事を知るそれぞれ直系の子に相談すると良い、これは血の掟だ、

 馬鹿勇者もヒステリー聖女もそれにはさすがに従った、話は子に通っているはずだ、各一回だけ助けてくれるだろう」


 ……まあ、たった一回かよって思うけど全部で七回だ、

 しかも恩を受けた本人じゃなくその子供ならそれで仕方ないかな、

 勇者と聖女の子供っていうと勇者の息子、前国王はまだ生きているな、聖女側は教会に出した長女、大聖女かな?


(ユピアーナ様が困った時って、どんな時だろう)


 まあいいや、最後のページを読もう。


『最後に、メイドに手を出すのは男のロマンだ、ユピアーナも魔神とはいえ、

 人の子を宿す可能性はゼロでは無いらしい、もし気に入れば嫁に貰っても構わない、

 むしろ魔神の子を我が系譜に入れるとなると誇り、誉れじゃ、ま、頑張ってくれ』


(最後に何を言ってくれているのーーー!!)


「ちなみにワシ直接の遺産はお前さんにはほとんど渡らんじゃろうが、

 ユピアーナ様の魔王討伐の分け前は自由にして良い、一応ユピアーナ様にひとこと言ってな、

 息子にもそこはユピアーナ様のために使う分以外は手を出すなときつく言っているが、孫にばれぬようにな」


 ひい爺ちゃんからもあれを使って良いと許可が出た、

 うん、王都で急いで屋敷を借りよう、でも金貨を使い過ぎるのもなあ、

 これはユピアーナ様が『残り百年前後を快適に過ごすためのお金』がメインの使い道にしなきゃ。


『ではなひ孫よ、ちなみに再封印は出来るがするな、悪魔になったら別だが何とかメイドとして従えさせてくれ、

 ワシには自信は無いがの! あの世で見守っておるゆえ頼んだぞ! ギリオス=ダクリュセックより <本人魔法印>』


 うん、間違いなくひい爺ちゃんの印だ、

 本人しか付けられない魔法印……にしても大変だぁ。


(さてさて、学院まであと27日、どう準備をしようかなっと)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る