第29話 決勝トーナメント開始!
「あなた、どこの事務所に所属しているの?」
指定された場所に行くと壁側の席に先に座っていた対戦相手からかけられた第一声がこれだった。
「……無所属です」
「嘘……このオーディションはシズドルのプロデューサーが各事務所に案内して人を選んだって聞いていたけど……」
一次試験の面接の出来事を思い出す。やはりこの場にいるのは舞花を除いた全員がすでに芸能界に関わりを持っているようだ。
「さっき、柏木奈々子さんとも親しく話してたけど、いったいどういう関係なの?」
「今はまだ他人かな」
「今はまだ……?」
「あなたに勝ってシズドルになるからな」
「なっ……!」
(ちょ、ちょっと兄貴、なんて事言うんだ!)
妹は心の中で焦ったように声を荒らげた。
「皆、ここにそれぐらいの覚悟で来たんだろ?」
それに見てみろ、と小声で精神上の舞花に話しかける。すでに周囲にはスーツを着た面接官が数人近づいてこちらを観察していた。
勝敗がすべてとは限らない。試合前後の口調や雰囲気までもが評価対象になりえる。それならばここで内面的になる理由など一つもない。
(だからって私はこんなに挑発的じゃない!)
心の中で舞花がギャーギャーと叫んでいた。お兄ちゃんに対する態度はいつもこんな感じだけどなぁ……
「言ってくれるじゃない……あなた名前は?」
どうやらこちらを一人の敵として認めてくれたようだった。俺は舞花の顔で不敵に笑い右手を差し出した。
「天音舞花……あなたの名前は?」
「佐藤雪よ」
「よろしくね、佐藤さん」
挑発的な握手に対して相手もしっかりと右手を返してくる。周りの面接官たちは「おぉ」と映画のワンシーンを見たかのような声を漏らしていた。それからすぐに試合は開始された。
〇
「アペンドターンに入ります。 『炎の妖精』に二枚カードを付与。 効果によってアペンドした枚数×二千攻撃力が増加。 これで『三つ首の番犬』を倒して最後のライフを削ります」
「……くっ」
「試合終了! ライフが尽きた佐藤雪さんの敗北。 勝者、天音舞花!」
「対戦、ありがとうございました」
「悔しいけど……完敗だったわ」
お互いに握手をして試合は終了する。決勝トーナメント一回戦は舞花の勝利で終わった。
流石に勝ち上がってきた選手なだけあって一手でもミスをしていれば負けていた……そんな試合展開だった。
(っふぅ~)
精神状態の舞花が大きく息を吐いた。今の一戦で相当集中力を使ったのが伝わってくる。
「初戦勝利おめでとう。 見事なゲーム采配だったぜ」
(ありがとう。 ここまでくると当然楽に勝たせてはもらえないわね)
対戦場を離れ、俺と舞花は会話する。一人でぶつぶつ言っている姿を見られてしまったら舞花の評価にどんな悪影響が出てしまうかわからないからな……
「すべての対戦が終了しました。 次の試合開始は十分後です。 それまでに対戦卓に着席するようにお願いします」
アナウンスが流れるとスクリーンに次の対戦相手が表示された。
(あ…………)
「どうした?」
画面を見て妹の声が途切れる。
(次の相手……私の初戦の人だ)
「……なんだって?」
三次試験の決勝トーナメント、二戦目は一度舞花が敗北したこの会場に二人しかいない全勝者だった。
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