第22話 その名前の由来、気になります

「対戦ありがとうございました!」

「いやー、完敗でしたよ」

「二ターン目に自分がトランプカードを引けたのが大きかったですね」


 対戦を終えた俺とまつぼっくりパパさんは感想戦をしながら話し合う。隣の席を見るとまだ対戦をしており、制限時間は残り五分前後だった。


「この場所にはよく来られるんですか?」

「いや、実は初めてなんですよね。 妹がまだ対戦に慣れていないので参加の敷居が低いところを選んだ感じです」

「ここのプレイヤー層は老若男女と広いですからねー。 おかげで私の息子も安心して参加しています」


 視線をまつぼっくり君と舞花の方に向けるとまだ対戦を続けていた。まつぼっくり君は楽しそうに笑顔だが妹のほうは若干表情が硬くなっていた。緊張しているというよりかは焦っているようだ。

 試合終了の直前に妹はガックリと肩を落とし、まつぼっくり君はガッツポーズをしていた。それだけでどちらが勝利したのかは明らかだ。


「ありがとうございました。 もしも次の対戦で息子にあたりましたらその時はお手柔らかにお願いします」

「こちらこそ、妹と同じ卓になったらお願いしますね」


 俺はまつぼっくりパパさんと握手をして別れると席を立った。舞花もまつぼっくり君と最後に握手をするとカードをしまってこちら側に歩いてくる。


「……負けちゃったわ」

「ドンマイ。 俺以外との初めての対戦はどうだった?」

「そうね……兄貴の言ったように、家でやるのとは全然違ったわ」


 話を聞くとどうやら何回か対戦を進めていくうえで後から後悔してしまった選択があったようだ。


「こればかりは実践を積むしかないからな……でも負けても最後に笑顔で対戦相手と接していたのは見ていてお兄ちゃんは嬉しかったぞ」

「悔しかったけどね……私よりも年下の子供だけど強くて感心しちゃったわ」


 舞花は苦笑いを浮かべた。悔しがるのは人間として当然だ。だからといって相手に不快な思いをさせてしまったりするのは一番良くない。その点は妹も大人な対応をしていたので兄としては一安心だった。


「それでは次の対戦を発表します! キャタピラーさんとプレイツーさんはこちらの席でお願いします」


 集計を終えた店員さんが二回戦の発表を始めた。スイスドロー形式では勝利数の近い相手と戦うことが多い。前の試合で勝った俺の対戦相手も別の誰かと戦って勝ち上がったプレイヤーだろう。


「それじゃ、お兄ちゃん行ってくるから、舞花も気負わずにがんばれよ」

「うん」


 それから全員の名前を呼び終わり、すぐに二回戦が始まった。

 対戦相手は俺と同い年ぐらいの男性で、俺が今日使っているデッキが有利だった。難なくその試合は勝利し、対戦相手の人と会話を交えると席を立ち、妹がどうなっているか近くの席に見に行った。


「…………あー」

「負けました」

「対戦ありがとうございました!」


 ちょうど舞花の試合も終了していた。机の上に置かれたお互いのカードを見て俺はすぐに察してしまう。二人の会話からしてわかるように二回戦目も舞花の敗北だった。


「……また負けちゃった」


 俺のほうに近づいてきた舞花は目に見えて落ち込んでいた。対戦相手はまた彼女よりも年下の今度は女の子だった。連続して年下に負けてしまったのが応えたのかもしれない。


「カードゲームは一般的なスポーツとかと違って年齢も性別も関係ないからな」

「…………」

「それにデッキの相性ってものもあるからな、舞花が今使っているデッキだとさっきの子のデッキには……」

「…………」

「……つらいなら昔みたいにお兄ちゃんが頭をよしよし撫でようか? それとも今から舞花の好きなお菓子でも買ってこようか?」

「こ、子供扱いするな!」

「まさかとは思うが、高校生にもなって途中で嫌になって投げ出したりはしないよな?」

「当たり前じゃない、次こそは勝って見せるわよ!」


 妹は俺の肩を叩くとこの場から離れていった。どうやら俺に言い返す程度にはまだしっかりと気力が残っているらしい。頑張る妹をお兄ちゃんは全力で応援するぞ!


「彼女のマネジメント上手ですね」

「伊達に何十年もお兄ちゃんをやってないからな……ん?」


 自然と隣に立って会話をしてきた人物を見て俺はぎょっとしてしまう。話しかけてきたのは青野京子だった。


「舞花さんのお兄さん……でしたか」

「そうだが……シズドルに妹の名前を知ってもらえているなんて光栄だな」

「あ……」


 とっさに青野京子は恥ずかしそうに帽子を深く被りなおした。どうやら名前を知っていたことは知らないほうがよかったのかもしれない。……まさかと思うが、彼女はシズドルの青野京子としての正体を隠して接してきていたつもりなのだろうか? さすがにそれは無理があるんじゃないかなー。


「……さっきの対戦は妹さんのデッキと相手の相性が悪かったですね」

「そうだな、あれは流石に厳しすぎた」


 妹が使っているデッキは序盤からガンガンと攻めるタイプのデッキ。対戦相手の女の子が使っていたのは序盤守りを徹底的に固めて終盤に強力なキャラクターを並べていくタイプのデッキだった。二つの相性はじゃんけんで言うところのグーとパーのような関係性。仮に最初の数ターン相手側の動きが遅ければ勝つ可能性も0ではないが、そうはならなかったらしい。


「彼女、不思議な子ですね」

「ん?」

「以前、彼女と言葉を交えた時とは少し雰囲気が違うというか……」

「アー……ナンデダロウネー」


 彼女に俺の精神が乗り移っていたからなんて口が裂けても言えなかった。言ったところで信じてはもらえないだろうけど。

 ただ、その点でいえば目の前の青野京子も同じように見えた。ガラの悪い金髪の男と会話をしている時はもう少し口調がきつく、雰囲気もどこかとげとげしく感じたが、今の彼女は年上の俺に対して礼儀正しく、正体がばれた際には年相応の反応をしていた。


「それでは三回戦の対戦相手を発表していきます! ブルーポンチさん、まつぼっくりさんはこちらの席でお願いします」

「……もしこの後あたったら、その時はよろしくお願いしますね」


 青野京子は言い終えるとまつぼっくり君が座っている席の方へと向かっていった。店員さんが呼ぶ順番は勝利数が多い順である。まつぼっくり君が二連勝をしているのも凄いが、彼女も同じように連勝しているみたいだ。


「プレイツーさんと黒炎さん、こちらの席にお願いします」


 その後、呼ばれた俺も最初に呼ばれた二人から少し離れた席に座った。青野京子のプレイヤーネームはブルーポンチって名前をどのような意図でつけているのかなーなどとどうでもいいことを考えていると対戦相手がやってくる。挨拶を終えるとすぐに気持ちを切り替えて対戦の準備を始めた。


「……それでは対戦を始めてください!」


 店員さんの元気な声とともに三回戦が開始した。

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