第46話 北へ
家の人数が増えたおかげで、レナやバドじいさんの生産がはかどるようになった。
俺の鍛冶もずいぶん上達して、売り物に出しても恥ずかしくない武具を造り続けている。
かなりの確率で特殊効果のついた武具が作れるようになった。
こうなるとダンジョンで探すより効率いいかもな。
店はますます繁盛して、わざわざ遠い町から買い出しに来る人もいるほどだ。
冬の間の活動は、以前と変わらないままだった。
新しく来た奴隷たちの生活を整えて、元からのみんなと慣れさせるためでもある。
その思惑は上手くいったようで、春になる頃にはみんなすっかり馴染んでいた。
そうして春になったある日のこと。
俺は旅の準備をしていた。
春の誕生日、十八歳を祝ってもらった後に出発する予定。
北へ向かって、国境の向こう側で農業適地を探すためだ。
今までも手頃なダンジョン探しであちこちうろついたことはある。
けれども今回は、それより長旅になるだろう。
俺といっしょに行くメンバーは、クマ吾郎とイザク。
イザクがいれば農業に関しての判断ができる。
俺とクマ吾郎は護衛だな。
「ご主人様、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
みんなに見送られて家を出る。
中でもエミルは何か言いたそうだった。
亡き母親が北の土地生まれだというから、行ってみたかったんだろうな。
だが危険を伴う旅に子供を連れて行くわけにはいかない。
俺は何も言わず、彼の頭を撫でるに留めた。
北へ移動していくと、春なのに肌寒い夜が増える。
森の木陰に残雪が見られるようになって、雪国なのだと実感する。
途中ちらほらと魔物に遭遇するが、せいぜいが中級レベルだ。俺とクマ吾郎の敵ではない。
文字通り瞬殺していくと、イザクが目を丸くしていた。
「ユウ様とクマ吾郎は、強いな。オレもルクレツィアに斧を習ったが、とてもかなわない」
「イザクの本領は農業だろ。役割分担だよ」
こんなセリフを吐けるようになったとは、俺も強くなったもんだ。
昔は弱い魔物相手にひぃひぃ言ってたのにな。
今の俺ははっきり言って、冒険者の中でも最高クラスの強さだと思う。
最強の一歩手前くらいかな。
ちなみにクマ吾郎はさらに強くて、世界最強の熊と言って差し支えないだろう。
そのようなわけで旅は順調に進んだ。
そうして北に歩き続けて十五日後。
森が開けた先、点々と雪の残る平原が現れたのだった。
パルティア王国の地図は、街道の北の森はざっくりとしか記されていない。
北の森はダンジョンや魔物が多くて、一般人が住むには向かないのだ。
実際、俺の店から北に向かって村などは一切ない。
森の先に平原があり、さらにその先に山脈があるのは地図に出ているが、距離などはいい加減だった。
国境線の記入も、南や東と比べれば極めてあいまいだ。
平原を少し進むと東から西に向かって川が流れている。
その手前で、イザクは手に持ったクワを地面に突き立てた。
「どうだ?」
俺が聞けば彼はうなずいた。
「悪くない。今の季節で地面は凍っていないし、残雪も多くはない。地味も肥沃、これなら畑が耕せるだろう」
「そっか」
「川があるのもいい。水が手に入る」
逆に水害の恐れはあるが、氾濫の可能性なんかは今は分からないしな。
「もう何日か、この辺りを調査して回ろう」
「承知した」
川を越えてさらに北に行ってみたかったが、あいにく橋は見当たらない。
泳いで渡るには川幅は広く、水は冷たかった。
まあ今回は無理しなくてもいいだろう。
とりあえず上流に向かってみて、橋を見つけたり渡れそうな場所があったらラッキーということで。
それから三日かけて川の上流に向かった。
橋は見つけられず、川を渡るのは難しそうだ。
そして四日目、そろそろ戻ろうかと思っていたときにそれは起こったのだった。
四日目の午後、俺たちが来た道を引き返し始めたときのことである。
川の上流のさらに向こう側に土煙が立った。
何事かと足を止める。
土煙は徐々に近づいてきて、それが馬とトナカイの一団であると分かった。
馬とトナカイは荷車を引いていて、御者台や荷台に人の姿が何人も見える。
もっと近づくと人の様子も見えてきた。
青白い肌に金色や銀色の髪をした、色素の薄い人々だった。
「こんなところに人がいるとは、珍しい」
大きなトナカイに騎乗した男性が進み出てきた。
それなりに年配で五十代くらいだと思う。
元はきれいな金髪だったと思われる、白髪交じりのプラチナブロンドをしていた。
「俺たちはパルティア王国の冒険者です。あなたたちは?」
「我らは雪の民。パルティアとは不可侵の約束のはずだが、邪魔をする気か?」
トナカイの人の瞳に剣呑な光が宿ったので、俺は慌てて言った。
「いいえ、国は関係ありません。俺はただの冒険者で、仲間たちの新天地を探してここまで来たんです」
「ふむ……。では、お前たちは客人ということになる。わしはイーヴァル。雪の民の長だ。歓迎しよう、久方ぶりの客人よ」
イーヴァルが言うと、他の雪の民たちも警戒をゆるめた。
荷台や馬、トナカイから降りてくる。
ついでに荷解きが始まって、あっというまにテントがいくつも張られた。
気がつけば周囲はちょっとした村のようになっている。
移動式のテント。この人たちは遊牧民なのか!
「さあ、客人よ。雪の民のもてなしを受けていってくれ」
イーヴァルが一番大きなテントに招き入れてくれた。
中はテントとは思えないほど暖かく快適。床にはしっかりと羊毛の敷物が敷かれている。
部屋の中央にはストーブがあって、煙突がまっすぐ上に伸びていた。
女性たちが立ち働いて、ストーブの周りに料理を置いてくれる。
テントの奥に腰を下ろして、イーヴァルが微笑んだ。
「遠慮なく飲み食いしてくれ。客人は本当に久しぶりなのだ。旅の話をぜひ聞かせておくれ」
そうして宴会が始まった。
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