第44話 税金高すぎ問題
近い内に王都へ行って奴隷を買ってこよう。
そう思っていたある日、家に役人がやって来た。衛兵を三名ほど連れていた。
「この家で麦を植えていると聞いて、確認しに来た。畑を見せろ」
「どうぞ。こっちです」
家の裏手、イザクの畑は金色の麦穂でいっぱいだ。
横のほうにはナスやトマトなんかの野菜も植えてある。
役人は畑の実り具合を見て唸った。
「この広さで麦を栽培しているとなると、税金がかかる」
「えっ。俺、収入に対しての税金はきちんと納めていますけど。それとは別に?」
「そうだ。麦は我が国の主食。家庭菜園程度なら見逃すときもあるが、ここまで広ければきっちりと取り立ててやろう」
ええー!
ただでさえ二ヶ月に一度の税金はけっこう重いってのに、畑からも取るのかよ。
「税率はどのくらいです?」
「五割だ」
高すぎんだろ!
この国に食い詰めた人が多いのが分かったわ。
苦労して畑を耕しても、半分も作物を持っていかれるんじゃ暮らしが成り立たない。
肥料とかの経費を差し引くとかそういう考えもない。出来高からまるっと五割だ。
だが、国家権力に逆らえるわけがない……。
今ここで衛兵と役人を皆殺しにするくらいの実力なら、今の俺にもある。
昔は衛兵に歯が立たなかったが、今なら三人相手取っても負ける気がしない。
けれどもそんなことをやってしまったら、俺は一気に重犯罪者だ。
奴隷たちも連座の罪に問われて死刑になるだろう。
そんなのできるわけがない。くそ。
「今日は測量をしていく。計算結果にもとづいて税金を請求するので、必ず支払うように」
役人はそう言って、衛兵と一緒に畑を測量していった。
んで、数日後に役人が請求書を持って来た。
見てみると、実際の畑よりも微妙に広い数字が記載されていた。
おかげで税金も本来よりもちょっと高い。
ただでさえ高いのに上乗せしてきやがった!
「これ、実際よりも広い数字ですよ。間違ってる」
「国が行った測量にケチをつける気か? 素直に税金を払え」
抗議しても話にならん。
俺は内心でかなりムカついたが、ここで盾突いて奴隷たちに危険が及んではいけない。
不満顔のイザクに大人しく従うよう言って、役人の持ってきた台車に刈り取った小麦を載せた。
役人たちが去った後、イザクが耐えかねたように言った。
「どうして半分も取られねばならんのだ。税金としても高すぎる!」
同じ気持ちだったが、少しだけ冷静になって聞いてみた。
「イザクは南のササナ国の出身だったな。あの国の税金はどのくらいだ?」
「三割だ」
それなりの割合ではあるが、五割よりはずっと安い。
「このままでは畑を増やしても、取られてしまうばかり……」
イザクはとても悔しそうだった。
手塩にかけて育てた小麦をごっそり取られてしまったのだから、気持ちはよく分かった。
「店や畑を拡大するのは、考え直したほうがいいかもしれないな」
税金ばかりが莫大で収入が削られてしまう。
なにかいい手はないだろうか。
その日の夕食時、みんなの前で畑と税金の話をするとがっかりした空気が辺りに漂った。
「お国のすることは、いつだって横暴じゃのう」
バドじいさんがため息をつく。
俺も続ける。
「正直、これからの方針が不安になった。下手にお金を稼ぎ続ければ、国に目をつけられるかもしれない」
「実は店のほうも、帳簿に難癖をつけられて」
エリーゼが遠慮がちに言う。
「間違いとも言えないような小さいミスをあげつらって、違反金を払えと言われました」
「そんなことがあったのか」
「はい。その後、間違いではないと証明できたので、お役人は引き下がってくれましたが」
役人どもはろくなことしないな。
最悪、ミスのでっち上げもあり得る。
「たぶんそれ、ワイロよこせって意味だと思うぜ」
夕食のかぼちゃスープをすすりながら、ルクレツィアが言った。
「帝国じゃよくある話でさ。袖の下を渡しておけば、色んなことを見逃してもらえる。ワイロを拒めば必要以上に厳しくされる。どこも同じだね」
「嫌ですねえ。わたくしたちはいいものを作って、真っ当に商売したいだけなのに」
「ガウ……」
レナとクマ吾郎もげんなりした表情だ。
エミルは困った顔で大人たちを見ている。
「これからもうるさく言われるようなら、ワイロを渡すのもアリか……」
ムカつくが、奴隷たちの身の安全とスムーズな商売のために仕方ないのかもしれない。
エリーゼが言った。
「わたしが開拓村にいた頃は、子供だったので。ここまで税金が重いとは知りませんでした。家族がわたしを奴隷商人に売ったのも、やむを得ないと実感しています」
彼女は家族が生き延びるために売られたんだったな。
悲しい思い出を思い出させて申し訳ないよ。
……ん? 開拓村?
俺はふと引っかかった。
「エリーゼ。開拓村というのは、どういう形で作られるんだろうか?」
「えっ? ……どうでしょう? 確か人手を募って、国の許可のもと新しい土地を耕す、だったと思いますが。わたしもあんまり詳しくなくて」
「国の許可のもとってことは、パルティア国内だよな」
「そうですね」
エリーゼがうなずく。俺は続けた。
「それなら国外、国境の向こうに村を作ったらどうなるかな?」
「難しいだろう。例えば南の国境の向こうは、オレの出身国ササナだ。国の外はまた別の国だろうよ」
イザクが言うが、俺は首を振った。
「この国の北は万年雪の山脈が広がっている。少なくとも北側に別の国はない」
「だが、北の寒い土地は農業に不向きだ」
「不可能ではないかもしれない。調べてみよう。もう、パルティア国に振り回されるのはうんざりなんだよ」
みんなが俺を見ている。不安と期待が入り交じった目だ。
「今すぐ開拓村を作るのは無理だ。もうしばらくはここで力を蓄えて、人手を増やして。北に行ってやっていけるかどうか、きちんと調べた上でやろうじゃないか」
俺の言葉にそれぞれがうなずく。
まだ半信半疑のうなずきだったが、俺はできる限りのことをやろうと決意していた。
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