第二章 生き抜く日々
第15話 ユウの現在
グミダンジョンを攻略してから、少しの時間が経過した。
あれから俺は港町に戻って、配達の依頼を中心に請け負っている。
配達先もサザ村だけでなく、片道三、四日くらいのちょっと離れた町や村だ。
白や赤グミ、それに野生動物くらいなら俺とクマ吾郎で撃退できるようになった。
だから割の良い配達依頼を受けて、お金を貯めている最中である。
当面の目標は装備をきちんと揃えることだ。
そうそう、グミダンジョンで拾った靴を鑑定してみたら、『紙製の靴』と出た。
紙製って。
防具で紙とか、そんなことってある?
防御力はもちろんゼロ。
軽いのがウリだが、耐久力に難がある。
いらないな、と思って売ろうとしたら、二束三文だった。
駆け出しの俺がいらないと思う性能じゃ、誰も欲しがらないようだ。それはそうか。
いつかまともな防具をダンジョンで拾ってみたいものだ。
いくらかお金に余裕が出たおかげで、宿賃や食べ物に困ることはなくなった。
とはいえクマ吾郎が大きい体にふさわしくよく食べるので、町の果物の木にはまだお世話になっている。
クマ吾郎はリンゴとブドウが好きみたいだ。おいしそうに食べている。
たまには肉も食べさせてやりたいから、そういうときは店で買っている。
配達の傍ら、手頃なダンジョンを見つけたら攻略もしている。
グミダンジョンは難易度が一番低かったようで、それ以外はなかなか苦戦中。
ボスのいる階層に行ったはいいが、逃げ帰ったことも一度や二度じゃない。
でも、生きてさえいれば何度でも挑戦ができる。
俺の一番の願いは、この世界で生き抜くこと。
死ななきゃかすり傷ってやつだ。
だから前向きな気持ちで日々を過ごしていった。
いつしか季節は夏から秋へ移り変わろうとしていた。
+++
ユウの今のステータス
名前:ユウ
種族:森の民
性別:男性
年齢:15歳
カルマ:30
レベル:8
腕力:10
耐久:5
敏捷:8
器用:8
知恵:2
魔力:6
魅力:1
スキル
剣術:2.2
盾術:0.4
瞑想:1
投擲:1.1
木登り:2.4
釣り:1.2
魔道具:1.8
剣を中心に戦っているので、剣術と腕力がだいぶ上がった。
反面、クマ吾郎を前衛に立たせてサポートに回るケースが多いため、耐久や盾術はあまり上がっていない。
ポーション投げのおかげで器用や投擲もそこそこ上がった。
杖や巻物を見つけたら積極的に使っている。そのおかげで魔力や魔道具も上がった。
スキル習得のためのメダルはぼちぼち貯まっている。
港町を拠点にしているので、食料調達のために釣りを取ってみた。
散歩でおなじみのザリオじいさんがお古の釣り竿をくれた。
今のスキルレベルでは雑魚しか釣れない。
装備:
鉄の剣(剣術ボーナス付き)
皮の盾
ボロ布のマント
ボロ布の服
ボロ皮のブーツ
皮の盾は武具店で購入。クマ吾郎がいるので、重さや防御力よりも軽くて使いやすいのを選んだ。
他の装備はまだお金が足りず買えない。
ただし生活に余裕ができたから、洗濯も風呂もちゃんとやっている。おかげで不潔さは消えた。
おまけ。
流浪の森の民ルードにもらった呪われた剣と盾の性能。
・鉛製の剣。重くて使いにくい上に切れ味の悪い剣。呪われているせいで攻撃力ダウン。攻撃力1。
・鉛製の盾。重くて使いにくい上に大した防御力もない盾。呪われているせいで以下略。防御力1。
さらにユウは硫酸で盾を腐食させてしまったので、防御力ゼロの状態でずっと持ち歩いていた。
+++
秋になって、新しいことにチャレンジしてみようと思った。
それは魔法だ。
この世界の魔法は、魔法屋で売っている魔法書を読んで学んで使うと聞いた。
魔法書を読むことでその魔法を使うための魔力が体に蓄積される。
魔法を使うと蓄積された魔力が消費される。
魔力を使い切ってしまうとその魔法が使えなくなる。
なので定期的に魔法書を読む必要がある。
誰が考えたのか知らないが、魔法屋ボロ儲けの仕組みだな。
噂で聞いた話だと、森の民は魔法に長けた種族であるらしい。
森の民は二十年前に故郷を各国連合に攻め滅ぼされて離散したが、それまでは高い魔法文化を築いていた。
ということは、俺も魔法の適性があるんじゃないか。
魔法と剣の両方を使いこなす魔法剣士。
めちゃくちゃカッコイイ!
俺はさっそく港町カーティスの魔法屋に行ってみた。
「こんにちは。魔法書がほしいんですけど、初心者にいいやつあります?」
店で挨拶をすると、魔法使いらしいフードをかぶった店主が応対してくれた。
「いくつかありますよ。マジックアローの魔法、これは魔力の矢を飛ばして攻撃する最も基本的な魔法です。他は戦歌の魔法、こちらは戦いのポーションと同じ効果で腕力と器用さを一時的にアップさせます。初心者ならこのどちらかが鉄板ですね」
「へぇ~。攻撃とバフですか」
どちらもなかなかいい感じ。
マジックアローは武器の弓矢で、戦歌は戦いのポーションで代用可能ではある。
武器の弓と矢はちょっと高くてまだ買えていないんだよな。
戦いのポーションも拾ったらだいたい使ってしまうので、手持ちはあまりない。こちらも買うとそこそこ高い。
ならやっぱり、魔法で代用するのもアリか。
「よし。じゃあマジックアローの魔法書をください」
「毎度あり。銀貨五枚ですよ」
おおう、思ったより高い……。
しかしカッコイイ魔法剣士になる夢を諦めきれなかった。
しぶしぶ財布から銀貨を取り出して店主に渡す。
魔法屋を出た俺はクマ吾郎を引き連れて、道路の端に座り込んだ。
今日はいい天気だ。屋外で読書としゃれ込もうじゃないか。
「どれどれ……」
俺は魔法書のページをめくる。
巻物と同じように魔力の込められた文章が並んでいる。
だが、すぐに読めた巻物と違ってかなり難解だ。
「む、むずかしい」
頭が混乱してくる。
とはいえ銀貨五枚も払ったんだ。簡単に諦めてたまるか。
俺は必死で文字を読み進めた。
と。
――ヒュン!
ぐらっとめまいがしたと思ったら、周囲の景色が変わっていた。
さっきまで魔法屋の裏路地にいたのに、いつの間にか表通りにいる。クマ吾郎の姿も消えている。
「瞬間移動した?」
巻物でそういう効果があるが、今読んでいたのはマジックアローの魔法書だ。どういうことだろうか。
ただ、めまいはかなり強烈だった。その前は頭が混乱してもいた。
魔法書の魔力が暴走してこんな効果を引き起こした、とか?
「ハゥゥ……」
向こうからクマ吾郎が走ってくる。
心配そうな彼女の鼻面を撫でてやって、俺は再び道端に座った。
今度こそ読み解いてやる!
けれど決意とは裏腹に、やっぱり魔法書は難解だった。
ぐるぐると混乱する頭を無視してさらに読み進めて――
ぐにゃり。
なんだろう、すごく嫌な感覚がした。
ふと見ればすぐ横の空間が歪んだようになっていて、歪みの中からナニカが這い出てきた。
それは魔物だった。
人型に近い姿をしているが、腕が六本もある。
それぞれの腕に禍々しく光る剣を握り締めている。
魔物の姿は平和な港町にあまりに不釣り合いで、現実味がなかった。
そして俺は本能的に感じた。駄目だ、殺される。逃げなければ。
震える膝を無理矢理に叱咤して立ち上がる。
逃げようとじりじり後ろに下がった。
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