第14話 グミダンジョン3

 金色グミは強かった。

 俺よりも何倍も強いクマ吾郎を押している。

 けれど俺たちだってやられっぱなしではない。


 隙を見てまず、麻痺のポーションを投げつけた。

 パリン! 麻痺の液体をかぶった金色グミの動きが止まる。

 そこにクマ吾郎のデカい爪がクリーンヒットした。


「ピキキ……!」


 金色グミがぶるっと体を震わせる。まだトドメに至らない、ならばもう一撃!

 ところがクマ吾郎の連撃はかわされた。

 金色グミが麻痺から立ち直ったのだ。


 嘘だろ、早すぎる!

 同じ麻痺ポーションを使ったとき、赤グミはもっと長く固まったままでいた。

 耐性があるのか?

 いや、今は原因はどうでもいい。次の手を打たなければ。


 ここでボスの取り巻きの赤グミ二匹が通路から飛び出してきた。

 これ以上クマ吾郎に負担をかけるわけにはいかない。こいつらは俺が相手する。


 先に混乱のポーションを金色グミに投げつける。

 命中したのだけ確かめて、俺は赤グミのほうへ向き直った。


 赤グミは二匹とも毒薬と硫酸でかなり弱っている。素早く始末しなければ。

 体当りしてきた一匹を盾で跳ね返し、もう一匹は空中で剣に突き刺した。そのまま地面に叩きつける。

 ぶちゅん! まずは一匹。

 戦いのポーションを飲んでおいたおかげか、いつもより力が出る。


 肩越しに振り返ってクマ吾郎を見る。彼女は押されながらも善戦していた。

 混乱のポーションの効果は出たか分からない。

 だが、俺にできるサポートはデバフポーションを投げるくらいだ。

 もう一本、混乱のポーションを投げつけた。

 命中。金色グミがぐらりと揺れる。効果が出ている!


「ピキーッ!」


 もう一匹の赤グミが飛びかかってきた。くそ、うっとうしい。

 横合いから体当たりをくらったせいで、よろけた。

 だが踏みとどまり、間を置かず赤グミに肉薄する。


「これでどうだ!」


「ピギャーッ!」


 まだ体勢が整っていなかった赤グミに、剣を思いっきり振り下ろす。

 ぷちゅ、と潰れた。


「クマ吾郎!」


 振り返れば、金色グミはもう混乱の影響から抜け出している。やはり回復が早い。

 けれど混乱のポーションを一本命中させれば、クマ吾郎が体勢を立て直して一撃を与える時間が稼げる。

 俺は最後の一本の混乱ポーションを握りしめた。

 これは効果的に使わなければ。


 剣と盾を構えて金色グミに近づいた。

 俺にクマ吾郎ほどの力はないが、牽制くらいならできる。ポーションも距離が近いほうが命中率が上がる。

 クマ吾郎の攻撃の合間を埋めるように剣を突き出す。

 未熟ながらも連携プレーだ。


 俺たち二人の攻撃に、金色グミは次第に苛立ったような様子を見せ始めた。

 動きがだんだん粗くなる。

 と、金色グミは今までにない大振りの構えを取った。体の一部が大きく伸びて、刃物のようになる。

 思うように動けなくて、賭けに出たようだ。

 だが――


「隙だらけなんだよっ!」


 俺の投げつけた混乱のポーションが、今まさに大技を繰り出そうとしていた金色グミに当たる。


「ピ、ピ、ピ……」


 金色グミの体がぐらぐらと揺れる。

 刃物の部分はむなしく地面に叩きつけられた。


「ガウッ!!」


 クマ吾郎がすかさず爪の一撃を加えた。金色グミの体が大きくえぐれる。


「ピギ!」


 金色グミは身をよじって悲鳴を上げた。もう一息だ!

 混乱から立ち直りきっていない金色グミに、クマ吾郎が容赦のない追撃を与える。

 俺は彼女の攻撃の邪魔にならないよう、あくまで牽制に徹して金色グミの動きを封じる。


 そしてついに――


「ピギャァァァ……」


 ぶちゅん。

 他のグミたちと同じく、金色グミが弾け飛んだ。金色できらきら輝く床の染みの誕生だ。


「や、やった……」


「ハフゥ……」


 緊張の糸が切れたのと体力が限界だったのとで、俺とクマ吾郎は思わず床にへたり込んだ。

 ちょっと情けない、でも確実な勝利の瞬間だった。







 少し座って休んだ俺は、金色グミの死体(というか弾け飛んだ液体)のところに、何かが落ちていると気付いた。

 飾りのついた小さい箱と、一振りの剣だった。

 剣は今の呪われた剣に比べれば、ずっと軽い上に切れ味もよさそうだ。

 箱を手に取って開けてみる。鍵はかかっていなかった。


「おおお!?」


 中身はなんと、銀貨が十枚! 大金だ!

 俺は浮かれながら他の中身も確認する。巻物が何本か、それに小さな緑の宝石が入っていた。

 宝石は売れば金になると思う。

 それと、この巻物。


 もううろ覚えだから確かではないが……、これは解呪の巻物じゃないだろうか。

 あの最初の洞窟で森の民の少女ニアにもらったものと似ている気がする。


「読んでみるか……」


 ボスは倒したとはいえ、ここはダンジョンの中。魔物が出ないとも限らない。

 でも巻物ならそんなに危険はないのでは。

 楽観的すぎるだろうか。初めてボスを倒した興奮で、気が高ぶっているのは否めない。


「でも読んでみるぜ!」


 勢いのままに巻物を読み上げた。

 赤黒く不気味な色の装備品が白い光に包まれる。巻物は音もなく崩れる。やはりこれは解呪で間違いないようだ。

 祈るような気持ちで手を握りしめた。成功してくれ!


 呪われた剣と盾が抵抗するように赤黒い色を強める。

 けれど白い光は、以前のようにそのまま消えたりはしなかった。

 ふわりと柔らかく光を強めて、ついに。


「赤黒いのが消えたー!」


 剣を握っていた手を掲げて、拳を解く。

 今まではそれでも手に張り付くように離れなかったのに、剣はあっさりと手から地面へと落ちた。

 ガシャンと落ちた音さえ耳に小気味よい。

 盾も固定ベルトを外せば、それだけで重力に引かれて地面に転がる。


「すごい。なんてすっきりした気分なんだ」


 思えばこの呪われた剣と盾には苦労させられまくった。

 朝おはようから夜おやすみまで手からピッタリと離れず、皿洗いするときも木登りするときも邪魔で仕方なかった。

 しかもたまに小さい針が飛び出して、手にチクッと刺さるのだ。根性悪すぎる。


「じゃあな! さようならだ!」


 俺は浮かれた気分で解呪された剣を手に取り、思いっきり向こう側へ放り投げた。次に盾を持ち上げて、これも投げる。

 無駄に重い上に錆びてボロボロの剣と盾は、向こうの壁にぶつかってガラガラと音を立てた。

 やっとこれでまともな装備を持てる!

 そう思うと嬉しくてたまらない。


「おっと、そういえば?」


 ボスの箱には鑑定の巻物も入っていた。

 せっかくだから手に入れたばかりの剣を鑑定してみよう。


『鉄製の長剣。よく普及している長さの一般的な剣。

 攻撃力10/命中5

 特別効果:剣術+1』


 おぉ。これ、けっこういいものではないか。

 剣の性能自体は普通そうだが、特別効果がいい。俺の剣術は未熟で少しでもボーナスがほしいからな。


 装備してみると、手にしっくりと馴染んだ。ほどよい重さが心地よい。

 呪われた剣とは大違いである。

 たぶんこれからも、特別効果がついた装備を入手する機会もあるだろう。楽しみだ。


「ボスをやっつけて、お宝も手に入れた。帰ろうか、クマ吾郎」


「ガウガウ!」


 クマ吾郎が嬉しそうにうなずいている。

 こうして俺たちはグミダンジョンの攻略に成功。意気揚々と引き上げたのだった!







+++


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週末は1日2話投稿予定です。

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