第11話 北の鉱山町


 馬車での移動に飽きてきた頃、森林を抜け、公国側の鉱山町に出た。


 私の町より賑わってる?


 町の大通りを往き来する人々の数も多く、服装も国が違えばデザインや素材が違うのかも。人々の印象が違う。


「こうして見ると、国が違うんだなぁって思うわね。

 鉱山町の南側と北側の境界を越えた時点でキュクロス王国を出てサヴォイア公国に入ってるけど、改めて住民を見たら、隣なのに文化の違いがわかるわ」


 私の鉱山町の人々は、鉱夫と彼らの家族、彼らの生活を支える社会基盤インフラ関連の商人や職人、技術者が殆どで、丈夫な麻(生成り)や無漂白のウールなどを着ていたと思う。冬には、狩人や職人の作った獣の皮を使った防寒着や、各家庭で古着を重ねて縫い直した物やその上から野生動物の毛皮を巻いていた。


 この町の人達は、綿織物やリネンを着ていて、デザインも、貴族や上流階級のものに近い洒落たものを着ている人もいる。

 生活水準が高い。平成の日本ほどの文化ではないにしても、便利な機械や科学がないだけで、平民もそれなりの生活をしているとみられた。


 鉱山町の関所の騎士達は、持ち場に帰っていったけれど、町に駐屯していた伯爵家の護衛騎士は数人残っていた。

 エイナルと同じように馬で馬車に併走しているけれど、街並みにキョロキョロすることもなく、かといって不必要に警戒心をむき出しにするでもなく、ただのお供のていであった。


「さすが大公様のお膝元、賑わってますね」


 屋台から食料を調達して戻って来たマルティンが、周りを眺めながら、馬車の窓から軽食を手渡してくれる。


 この国に来たことはないけれど、一応知識として大まかな地理は頭に入っている。

 この鉱山町からさほど遠くない山間に拓いた大きな城砦都市が大公様おじいさまの住まわれるお屋敷のある公都サピンヴィティアだ。

 鉱山を回り込むことを思えば、さほど日にちをかけずに辿り着けるだろう。


 エイナルが馬上で地図を広げ、方角を確認すると、公都に向けて御者台で待機していたマークスが馬車を発進させる。


 公都へ向けて町の出口――城壁の門へ向かうと、商人や旅人が、検問を待って少し行列が出来ていた。


 大人しく最後尾に並んでいると、軽く事前審査をするのか、兵士の格好をした関所の役員(本当にこの町の衛士とか騎士かも?)が、行列の各人の通行手形や出生証明書や在住証明書などを簡単に改めていく。


「え⁉ 大公家の姫君レギーナ⁉ 馬車にも護衛騎士の装備にも馬にも紋章がないので、商会の会頭か豪農の家族かかと思いましたよ。姫君が、態々わざわざ並ぶ必要はありません。こちらの貴族用の門からお通りください。そちらは商人や旅人用です」


 そう言って案内されたのは、大きめの客室キャビンで6頭立て馬車でもゆったり通れるような門で、扉も厚くて装飾も複雑で緻密に凝った重そうな物だった。


「え? あら、ここでも、顔パスでいいの?」


 門は開かれていて、素通りできる。


「勿論です、姫君レギーナは大公様の公太孫なれば、この公国内は、どこもそのすべてが姫様の土地でございます」


 公太孫? 跡取り⋯⋯は、伯父様なのでは?


 たぶん、伯父様がお子を成す前に夫人を亡くしたため、再婚もしていない伯父様の後継者が決まっていない今、彼らにとって、私はその候補なのだろう。


 そして、馬車が町の外に出た、と思ったらすぐに停車した。


 なんだろうと思って窓から覗くと、ズラーッと並ぶ軍馬。が見えたので、思わず窓を開けて身を乗り出すようにして見ると、大公家の紋章のついた黒塗りの一目見て高級とわか大型箱型馬車コンコード・コーチが駐まっていて、扉が開き、中から初老の男性と中年男性が降りてくる。


 お母さまと同じ磨き上げた銅鍋のような金ピカピカの赤みがかったダークブロンドが、陽光を反射して眩しい。ここからはよく見えないけどたぶん、青い眼をしていると思う。


 あれは、お祖父じいさまと伯父様?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る