第10話 謝罪
翌日の『BAR異世界』の仕事は、開店時間ぴったりに駆け込んできた森コウの謝罪から始まった。
「昨夜は、ままま誠に、申し訳ございませんでしたぁ!!」
地面に頭がつくかの勢いで謝ってくる森コウに、博音はあわあわとなる。
「あ、そ、そんな、全然大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけありません。嫌な思いをさせてしまって本当に申し訳ありません!」
「ちょっとびっくりはしましたけど、俺は大丈夫ですから」
「私、ヒロくんさんが、嫌になって辞めちゃったんじゃないかって心配で心配で、今日は朝からご飯も喉を通らなくて、仕事も集中力を欠いてつまらないミスしたりして、また死にたくなったりして......」
「お、俺は本当に大丈夫ですから!」
思わず博音は焦って大声を上げた。
自分がきっかけでまた自殺未遂でもされては困る。
それに、どこまでも沈鬱に沈んでいく森コウがいたたまれ過ぎてならなかった。
「おいモリコ」
ヨーコがカウンターから出ていって森コウに歩み寄る。
「ヒロが大丈夫って言ってるんだ。これ以上謝り続けられたらヒロが困っちゃうだろ?」
「よ、ヨーコさん」
「ほーら、イイコイイコ」
ヨーコは母のように森コウを抱き寄せて、よしよしと頭を撫でた。
「ふぇぇぇん、ヨーコさぁぁん」
そのまま森コウはヨーコの胸に顔を埋めた。
ちょうどその時だった。
店の扉が開き、がっしりした大きい体がぬっと入ってきた。
「あっ」
抱き合う女性ふたりを見て、男はピタッと足を止める。
「すいません。タイミング間違えましたね。失礼しました」
男が逃げるようにクルッと背を向けると、森コウが慌てて声を上げた。
「ま、待って、帰らないでください、火野さん!」
火野のイカツイ顔がゆっくりとこちらへ向いてきた。
「あ、あの」
「そもそもここお店だし!」
「た、確かに」
「営業中だし!」
「ということだから、いらっしゃい、火野さん」
ヨーコが火野に歩み寄っていって、笑顔でカウンター席へ促した。
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