仕事の話、或る日の取材!

崔 梨遙(再)

1話完結:1400字

 その時、僕は30代の前半だった。求人広告屋(採用コンサルティング)の会社に勤めていた。そして、また、新卒の採用活動を開始する時期が来た。某企業も採用活動をスタートさせようとしていた。


 僕は、その某企業の、今春に入社した新人の8名のチラシを作るべく、チラシの取材に行った。ネットの求人媒体の記事の取材も兼ねていた。そのチラシは、先輩の近況ということで、それぞれの母校に郵送するのだ。チラシには、新入社員の笑顔の写真、そして、“楽しいから、後輩、おいでよー!”みたいなメッセージを書き込むイメージ。学校によってはそのチラシ貼ってくれることがある。貼ってくれなくても、卒業生の笑顔は印象がいいはずだ。



 その某企業の人事課長に同行してもらい、取材へ。何店舗か回るので、その日は1日中取材をする予定だった。“いいチラシ、いい広告を作るぞー!”と思っていたら、課長から相談された。


「崔さん、取材のことなんやけど」

「はい、なんでしょう?」

「加納さん以外はみんな大学を出てるからええんやけど」

「はい」

「加納さんは高校中退やから大学を出てないんだよね。他の7人と歳は同じやけど」

「じゃあ、加納さんの取材をする理由は無いんですね」

「そやけど、新人研修も新人フォロー研修も8人一緒やったからなぁ」

「ここで仲間はずれにするのはかわいそうですね。課長、お時間をいただきますが、加納さんの取材をさせてください」

「ええの? どこにも送らないチラシが出来るだけやけど」

「構いませんよ、どこにも送らないとしても。いいじゃないですか、自分だけ取材されてないと知って、加納さんが傷つくよりマシです」

「崔さん、ありがとう。ほな、加納さんの取材も頼むわ」

「お安い御用です。一応、チラシとして仕上げます。別の広告とか、何かに使えるかもしれませんので」



 課長に同行してもらえて良かった。配属されて2ヶ月、新人は戸惑うことも、上司や先輩に言えないこともあったのだ。そこを課長が相談されてズバッと解決する。社内のことは、僕ではどうにもならない。課長なら、状況を改善することが出来る。課長はみんなから慕われていた。そして、店長クラスとも仲が良いようだった。おかげで、移動は多かったものの、スムーズにいい取材ができた。これで、デジタルとアナログ、両方からのアプローチが出来る。新人のチラシはラミネートして、郵送。学校訪問にも持って行く。そして、チラシの作成が終わると、課長の所に印刷したチラシとデータを入れたUSBメモリを持って行った。


「これ、チラシとデータです。データはチラシ、インタビューの録音内容、写真など一通り入っています。あと、これは取材に協力してくださった新人の方々に、それぞれ渡してください」


 自分のチラシがどうなったか? 知りたいだろうから、課長経由でチラシをメンバーに渡してもらうことにしたのだ。


「課長、加納さんのチラシも渡しておきます。USBメモリには、加納さんの分もチラシや取材のデータが入っていますので」



 後日、課長に言われた。加納さんのデータ、〇〇〇〇(ウチで取り扱っていない求人媒体)に使わせてもらったで。崔さんの取材、無駄にはしなかったから。



 加納さんも、他の7人と同い年で、同期入社なのだ。絶対に、仲間はずれにはしない! 誰よりも、課長が喜んでくれた気がする。喜んでもらえて良かった成功談だ。







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仕事の話、或る日の取材! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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