第42話 アリステアの神獣③

「なんやこれぇっ!?」


 アリステアの声が響く。肝心のラヴィは!?

 思った通り動きが止まった。ていうか、私も寒くて死んじゃうううう!!

 バスタオルも凍りつきそうなここはそう、アイスサウナ!! 旅行で行った外湯めぐり出来る温泉街。とある温泉施設の中にあった、極寒のサウナ!! 普通のサウナと違ってこっちはマイナスの世界。……すごく寒いわ。

 普通はサウナに入ったあとアイスサウナに入る、またサウナに入る、で整うのよ。だけど、いまは最初からアイスサウナ!! 寒い!!


「さ、寒いよ。ユーカぁ」

「凍ル、凍ル」


 うん、寒いよね! でも、ラヴィの動きは止まったけどアイスサウナじゃ、黒くなる病は治らないみたい。やっぱり温かい温泉に浸かるしかないのかな。効くかどうか黒くなくなるまでまつといって長くこの部屋にいるとラヴィにとって良くなさそう。だって、私も限界だもの!!

 でも、建物の中から外に出ることになるのよね。その一瞬で……、また動き出してがぶりとこないだろうか。


「これでは駄目そうか?」


 ソラが横に立っていた。うう、巻きバスタオルだから良かったけど。恥ずかしいのはあまり変わらない。


「そうみたいです。今から温泉に切り替えようと思います。ただ、動き出したら……」

「その時はオレがユウカを抱き上げて飛び上がろう」

「ライとグミが」

「僕達は大丈夫」

「ボク達は大丈夫ダ」


 二人が頷く。大丈夫。上手くいくよね。私も頷いて手を前にする。はやく温まりたい!!


「温泉召喚!!」


 呼び出したのはもちろん「でっかーい湯」。みんな一気に温泉の中に放り込んじゃえ。


「なんやこれえええええぇっ!?」


 あ、アリステアまで一緒に温泉の中に入ってしまったみたい。少し離れた場所で小さな水柱が上がった。大丈夫かな?

 じゃない!? 私も急いでお湯の中に沈む。この温泉になった途端、背中側が相変わらず無防備だからだ。巻きバスタオルどこいった!


「僕達も手伝うよー!」

「おう、行くゾー!」


 ラヴィの温泉から出てる体の部分に温泉の湯をライとグミは魔法でシャワーのように上からかける。これなら全身ちゃんと温まったかな。少しして二人はシャワーを止めて自分達の体を湯に浸けていた。ライもグミもよく冷やされていたもんね。


「温かいねー」

「生き返っタ」


 ライとグミの生き返った報告にホッとしながら、ラヴィを確かめる。


「黒色はとれた?」


 元から大部分が黒かったラヴィ。元に戻ったのかどうか分かりづらい。襲いかかってくる様子はなさそうだけれど。


「ラヴィィィィ!!」


 アリステアが走り出しラヴィに抱き着く。アリステアのタオルは腰にしっかり巻かれていた。ということは、アリステアはもしかして?


「元に戻ったんやろ? これはいつものラヴィや! 間違いない!! なぁ、ラヴィ!!」


 ラヴィはしゅるしゅると小さくなり、アリステアの腕に巻き付く。頭を持ち上げアリステアに軽く頭突きをしていた。


「ラヴィ! ラヴィ! 良かったぁ。良かったぁ」


 喜ぶアリステアを見て私もホッとした。


「ありがとう。ユウカ」

「はい、良かったです」


 ソラから声をかけられ、応える。安全を確認したあと、ソラはくるりと背を向けた。


「出来るだけはやく、服を着て欲しい。人が来る前に」

「そうですね。そうします」


 冷えた体がもう少しで温まる。そしたら消さなきゃ。

 笑顔のアリステアがこちらに気がつく前に……。

 そう思っていたのに、大きな影が近付いてきて私の思考が止まってしまった。

 赤くて大きな鳥が私達を見下ろしながら飛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る