第48話 バギアと決着
勇者様ですからね。特別に神のご加護があったとしてもなんらおかしなことはありませんが、一つ考えられるのは、私のロザリオがここで私の魔力をずっと受け取っている現状です。
そもそも私の能力は【勇者様と聖女の相互補正】毎回レベルアップするときにだけ、その能力を感じ取るわけですが、普段からずっと私と勇者様はこのロザリオで繋がっておりまして、精神の成長を査定されているんですよ。
舌ピアス様もずっと肉体的接触という形での所持で聖剣の能力を与えていたくらい寛容なのでしたら、ロザリオ経由で能力の付与くらいしてそうですよね。
「うああああああああっ!!?」
「つ~かま~えた♪」
バキンッ! という音と共に防壁は割られ、レニくんはバギアの太い首根っこを掴み宙へ持ち上げました。
「ん? ブタのくせにてめぇも首筋にタトゥーとかキメてんの……!?」
「は、はなぜ!! じゃくじょう種族の底辺が!!」
「おい!!!」
「グギャアアアアアアアアアア!!!」
レニくんの締める力が増したようです。お顔も怖くなっております。
「てめぇこの首筋のタトゥーは誰に入れてもらったんだ!? 今回の呪いと関係あんのか!?」
「ギガアアア……! だ、誰が貴様なんかにぃいい!!」
すんとレニくんの表情は氷の彫像のように冷たくなりました。
「つまりてめぇも用済みだな」
「ま、まっ……!?」
ブシャッ!! え、と思いましたね。バギアの頭が急に破裂して太い首が粉砕されておりましたから。
一瞬、目の前のスプラッター光景が私の思考を止めました。
ですが、よく思い出すとレニくんはバギアにデコピンしておられました。
おそらくデコピンに圧力の補正付与、首を絞めている握力には粉砕の補正付与がかかったのでしょう。
その後、バギアの死体を踏みつぶすレニくんの踏みつぶしにはもれなく爆破の付与がかかり、バギアという存在は血の一滴も残さず消えたのでした。
糸でぐるぐる巻きにされながら、ガクガクブルブルと震える私を助け起こしに来てくれたレニくんは難しい顔をしており、何か深く悩みながら私を抱きしめて呟きました。
「……ハサミ持ってる?」
「で、ですよね! どんな助けられ方されるのかと思い、若干震えました!!」
こんな時に申し訳ないのですが、私には一つしか思い当たりません。
「あの、おそらく血の中にフィアさんの裁縫道具があると思います。ハサミもその中にあるのではないかと思うのですが、お借りすることはいけないことでしょうか?」
「良いに決まってんじゃん。そもそもあいつがやったことだし。探してくるよ」
あとでフィアさんにはお礼とお詫びをしなければいけませんね。
フィアさんを心から恨む気持ちにはなれませんでした。
あの子は最初から呪術図式の施されたローブを着させられて、バギアの恐怖に支配されながら弱い心を利用されておりました。
もっと早くに事情を聞くことが出来たら、もっと違う方法でフィアさんの心を解放させることが出来ていたら、救ってあげることが出来たかもしれないのです。
あんなにも助かりたいとフィアさんは願っていた。ただ生きたいと願うことに罪はありません。
やがてレニくんが裁縫道具を持って戻ってまいりました。
「こいつだけ血に汚れてなかった」
「ピアスのお掃除のときにも毎回お伝えしておりましたが、
「でも舌ピは絶対ミクちゃんがお掃除してね。絶対やだかんね。あのブタ触った舌ピ付けんのだけはやだよ」
「わかっております。念入りにお掃除いたしますので、早くハサミで切ってください」
裁縫道具から小さなハサミを取り出したレニくんは、なぜか私の姿を見てごくりと唾を呑み込みました。
「ちょっとエロく切り込み入るかもしれない♡」
「死者を弔う気持ちを少しは持ってください!! フィアさんは埋葬すらまだ済ませていないのですよ!!」
「俺、あいつにざまぁ以外の気持ち持ってねぇもん」
本当に素直な子ですよね。まぁその、正義だけで世の中成り立つわけじゃありませんので、レニくんの素直な気持ちも大事だと思います。
私はレニくんの扱うハサミでチョキチョキと少しずつ自由になりながら、得られた情報の少なさと、取り戻した命の大きさと、失った代償がもたらしたレニくんの心の成長を考えるのでした。
☆☆☆
「アクセル様たちは無事にランセプオールの街へたどり着いたでしょうか」
「大丈夫じゃねぇの。アクセル強ぇし、馬車に乗せておけばガキどもも運べるだろ」
私はバギアと戦った場所で、レニくんのおかげで体の自由を取り戻すと、どうにかフィアさんのご遺体を回収できないか尽力いたしました。
しかし、バギアほどではありませんが、ほとんどが肉片に変わっており、呪いが生まれる前に魂の宿る血液ごと焼却するしかなかったのです。
遺体が焼かれていく炎を見つめながら、鎮魂の祈りを捧げましたが、フィアさんの生きたかった思いが強く、魂を鎮めるのに数時間要しました。
レニくんはいつものように黙って私の姿を見守っていてくださりまして、塔を出ると、正確には古城ですが、外に出るとレニくんは私を気遣ってくださいました。
「ミクちゃん、馬車に乗ったらさ、少し休憩できるところに行こう」
「……はい。よろしくお願いします」
レニくんの前では大人のふりをしないと約束しました。だから、わがままに生きます。
正直、私のメンはガチでヘラな状態であります。(思考が退化中)
トラウマをがつがつ刺激された感じでしょうか。
レニくんが御者を務めるいつもの馬車に乗り込むと、レニくんの腕に頭をこてんと預けて、グラグラと揺られていきます。
「……私はいつになったら満足に人を一人でもお救いできるのでしょうか」
完全にボヤキでした。単なる弱音を吐いておりました。
「ミクちゃんのそういうところ、うぜぇよ」
うわぁ、ぐっさり突き刺さりました。ボヤいた私が悪いのですけど、正直すぎて涙が出そうです。
「あのさ、ミクちゃん。俺には付き合う相手選べみたいなこと言ったじゃん? んじゃ、俺も言わせてもらうけどさ、救いたい相手は選びなよ。なんで出会ったやつ全員抱き込もうとしてんの?」
え、え、そりゃ、そのようなこと偉そうに言ったかもしれませんけど。
「そ、そんな、シスターが迷える子羊を選り好みするわけには……! だ、だってお医者様だって患者を選んだりしませんよ?」
「緊急事態なら生存率の高い患者を選ぶだろ。闇医者なら金額で選ぶじゃん。俺、ミクちゃんには闇シスターになってほしいな。選り好みして。俺でも好きになれそうなやつだけ救って」
ここまで素直だと逆に尊敬しますね。
「ちなみにですけど、どうしてそうして欲しいのか、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「単純なことだよ。俺が好きになれないと、ミクちゃんが救う前に俺がそいつを殺してる」
そういえば、フィアさん一回見捨てられてましたね。いえ、二回見捨てられてましたね。
やろうと思えばバギアに殺される前に間に合っていたんじゃないかとさえ思えてきました。
「ミクちゃんもさ、俺の気持ち考えてあげて。色んなやつの相談相手になっている俺の女って俺の気分がアゲアゲになると思う?」
「……なりませんよね。やりかねないところでした。申し訳ありません」
ド正論で来るとは思いませんでした。シスターでありながら、今の私はレニくんの恋人です。
「だから、今回限りだよ。もうこれっきり。人助けなんてしないからね」
そうして、レニくんが操る馬車は隠れ里の森を迂回して、最速で最短ルートを選び、懐かしいあの場所へと向かったのでした。
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