第23話 秘境にあるギルドの日常
世界最大の大陸アルガーナ大陸。
この世界におけるアルガーナ大陸の歴史はまさに戦乱の歴史だった。
かつて行われた帝国の武力侵攻。
圧倒的な武力を保有する帝国に数多あった国は悉く侵略され併合されていた。
戦乱が終息し安定を取り戻したこの大陸には現在では僅か3つの国と一つの禁忌地のみ存在する状況となっていた。
現存する3つの国と一つの禁忌地。
神聖ルギアナード帝国。
ルードル評議国。
デイブス連邦国。
禁忌地であるリッドバレー。
この4つである。
当時大陸制覇を目指す帝国はその圧倒的な軍事力で西部を瞬く間に掌握し、残すところは北方のルードル評議国と東方のデイブス連邦国のみという状況となっていたが…
物理的に侵略は厳しく、また正直うま味も少ない状況となり、侵略戦争は一時凍結された。
天然の要塞である4000メートル級のルーヴィッヒ山脈に囲まれた北部の国ルードルとその国から南部に存在する禁忌地リッドバレー。
何よりルードルには目を引く産業も存在せず、リッドバレーに至ってはすでに人も居ない。あるのは入れない古代遺跡のみという状況に最終的に帝国は侵略戦争をあきらめた。
凍結の原因となった禁忌地リッドバレー。
帝国の南方に存在するそこは、200年前に滅んでしまった王国の跡地だった。
そんな中に古代遺跡ギルド本部は存在していた。
禁忌地とはいえ地理的には帝国に隣接している。
そのため戦争終結後は伝説を確かめようとリッドバレーを目指す冒険者や研究施設などは今現在進行形で後を絶たない。
しかし行きつくための行程は過酷を極めた。
帝国の辺境の町より100キロ以上の距離があり、そのほとんどが砂漠だ。
オアシスなど存在せず、干からびるのが関の山だった。
万が一到達してもいまだ健在な国境を守るように展開されている過去の遺物アーティーファクトによる結界が侵入を許さない。
さらにはその先に高レベルの魔物が跋扈する大森林が広がっていた。
結果としてたどり着いたという報告は今だなされていなかった。
北方のルードル評議国からのルートも同じような状況だ。
直線距離は帝国より近いものの、切り立つ4000メートル級のルーヴィッヒ山脈にさえぎられており、それこそ空でも飛ばない限りたどり着くことはできない。
唯一の陸路は南方の海岸線をたどり大きく迂回する行程だが、やはりこちらもおよそ100キロと長距離であり、森林地帯では多くの魔物が跋扈していた。
当然ながらこのルートも常時アーティーファクトによる結界で守られている。
やはり許可なく訪れることはできない状況に変わりはなかった。
訪れることのできない秘境の地。
それが世界の認識だった。
※※※※※
この世界、100キロという距離は果てしなく遠い。
整備された道などなく、魔物などの障害もある。
万全な準備をし、ようやく1日かけて移動できる距離はせいぜい20キロ程度。
事前に許可をもらい、ルーヴィッヒ山脈を避け南方を大きく回り込みながら自力で来たザッカートたちも「二度とごめんだ」と苦々しい顔で零していたほどだ。
道中高頻度で遭遇する魔物に、彼らは必死で対応し着くころには相当疲弊していた。
当然試験を兼ねていたのだが。
まさにギルド本部は秘境の中の伝説なのだ。
※※※※※
現在美緒たち27名が暮らすギルド本部。
現実として転移魔法や転送ゲートなど超常の方法が唯一の移動手段だった。
転移魔法は習得できる魔法ではない。
どちらかと言えばスキル扱いでしかも伝説級の物。
世界広しと言えおそらくスルテッドの血を引きサブマスター権限を有するエルノールのみに許されたチート魔法だ。
生活するには食料や消耗品が必須だ。
そして得るための金銭も。
かつての禁呪の影響で耕作すらできないここの土地では購入以外に道はない。
現在転移門を使用できるのはマスターである美緒とサブマスターのエルノール、そして生活全般を担うため許可を得ている執事長ザナークの3名のみ。
もうひとり許可を得たザッカートは利用可能だが『皇都のみ』という制限がある。
美緒については「危険です。絶対にダメです」とエルノールに絶対禁止を言い渡されている状態だ。
何はともあれ問題なく暮らすために、金を得るための魔物の素材の売却から食料の調達、各種ポーション類の確保などギルドの人員が増えた今、執事長であるザナークの仕事は非常に重要かつ多かった。
※※※※※
魔力欠乏で美緒がいまだ目を覚まさず、ザッカート一行が皇都へ向かった後。
転送ゲートを使いザナークは買い付けを終え、マジックバックを両脇に抱え厨房に戻ってきていた。
「ふむ。手伝ってくれるか」
「もちろんさ。ほら、ハイネもよろしく頼むよ」
「うん」
アーティーファクトであるマジックバックから大量の食材を取り出し品物毎に数を確認するザナーク。
ある程度仕分けが済んだところで彼はファルマナに声をかけた。
「ずいぶんここもにぎやかになったものだ……皆が居た頃を思い出す。……美緒さまには感謝だな。リア嬢ちゃんの元気な姿がまた見る事が出来るとは。わしもまだ隠居するわけにはいかんな」
明るい表情で作業をするファルマナはにっこりとほほ笑む。
この二人も日に日に弱っていくレリアーナの姿に心を痛めていた。
彼女の事を実の娘のように思っていた二人だ。
喜びは計り知れない。
「そうだねえ。本当に良かったよ。エル坊も随分優しい表情が戻ったしねえ。……それはそうと美緒には早く目を覚ましてもらいたいもんさね。……あの子は本当に優しい子だよ」
「僕も早く美緒と遊びたいっ!!」
ハイネが手を上げ大きな声をあげる。
その様子に二人は微笑む。
実はハイネと美緒は非常に仲がいい。
ひとりっ子だった美緒はハイネをまるで弟のように大切にしてくれていた。
「僕ね、大きくなったら美緒と結婚するんだ」
そんな可愛い宣言に、ザナークとファルマナは二人顔を見合わせ幸せそうに微笑んだ。
※※※※※
一方修練場。
くじ引きで権利を獲得できなかったロッジノとエイン、そしてモナークの3人はレルダンから指示された地獄のメニューを何とかこなし、仰向けで倒れ息もとぎれとぎれ口々に不満を零していた。
「はあっ、はあ、…畜生!……次こそは……あああ、美緒さまのエロい体が目に焼き付いて離れねえ」
「馬鹿野郎!!言うんじゃねえっ!!!……お、俺なんか作戦の時ずっと一緒に居たんだ。知ってるかお前、美緒さまめっちゃいい匂いすんだぞ?おまけにやたらエロい格好したルルーナとミネアまで。くそっ、あいつら無駄にエロく育ちやがって!!」
もちろん二人だって言っているだけで不埒な事をする気など1ミリもない。
だが衝動は収まる気配を見せなかった。
「ううっ。いく。絶対に次は勝ち取る。くそっ、レルダン副団長!もっと、もっとだあああっっ!!!」
自身のたぎるものをまるで吐き出すかのように絶叫するファルカン。
音もなく3人のすぐ横に氷のような瞳をしたレルダンが現れる。
「よく言った貴様ら。構えろ。死ぬ気で防げ……はああっ!!!」
「っ!?くぬっ……ひぐうっ!??」
「はあ、ぐう、………がはっ!!」
「くううっつ!……くそっ、……いぎいっ!?」」
凄まじい速さで襲い来るショートソードを全力でさばき続ける3人。
恐ろしいほどのレルダンの殺気に、気を抜いたらやられるとマジで死の恐怖を感じながらも、わずかな一瞬で武器を叩き落とされ、腹に拳をめり込まされる。
前のめりの倒れ唾液をまき散らす3人。
その様子にレルダンの殺気が霧散していく。
「ふん。修練が足らんな。……貴様ら、娼館など行っている場合ではないな」
「「「っ!?」」」
「そもそも美緒さまを不埒な目で見るなど……万死に値する」
霧散したはずのレルダンの殺気が爆発的に吹き上がる。
(あ、これあかん奴や)
3人は割とガチ目に死を覚悟した。
齢42歳、紳士のレルダン。
美緒を神聖視し、敬愛する男。
その指導は驚くほど苛烈だった。
※※※※※
「ふんふふんふふーん♪美緒?……目を覚まさないね。……うんしょっと。ふう。……はあー♡美緒肌めっちゃキレイ……いい匂いするし……」
いまだ目を覚まさない美緒をかいがいしく世話をするレリアーナ。
着替えさせるため上着を脱がし、体を拭き始めた。
「……ん…………ふ……ん……」
優しく体を拭くたび美緒の口から吐息が漏れる。
やや顔も上気し薄っすらとピンクに染まっていく美緒の頬。
まじまじと至近距離で見つめうっとりとため息を吐いてしまう。
「うあ、本当に可愛い♡……まつ毛長い……唇…ふう、艶々プニプニ……」
思わず指でなぞり、同姓なのにドキドキと鼓動が高まる。
レリアーナはきょろきょろと部屋を見渡した。
(……誰もいない……ゴクリ……)
首筋から腋を拭き、レリアーナは美緒の下着を脱がし優しく胸を包むように拭う。
もちろん疚しい気持ちなどない。
ないったらない!!
「ふわあ♡柔らかい……はあ、すっごくきれいな形……」
「………んう♡」
「っ!?……起き……てない?……ふう」
一瞬反応する美緒。
レリアーナのドキドキは最高潮だ。
『わたし、ちっぱいなのよね。みんなと違って……』
かつて美緒はずうっと同じことを言っていた。
「……嘘つき。……こんなにエロ可愛いのに……十分おっきいよ?ふふっ♪」
いつまでもさらすわけにもいかない、レリアーナはいそいそと美緒の体をぬぐい、新しい服を着せてあげた。
布団をかけレリアーナはすぐ横に座り改めて美緒を見つめる。
「……異世界から一人できた美緒……あなたはもう一人じゃないよ?私が、ルルーナが、ミネアも。そしてリンネ様もみんなもいるんだから……早く起きてね♡」
「みんなあなたの事……大好きなんだから♡」
なぜか赤い顔でうっとりとしているレリアーナ。
良く判らない扉が開くのか……それは誰にも分からない。
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