ツルペタ喪女は最強の称号『ゲームマスター』を獲得する?!~ゲームを知り尽くしチート超絶美少女になった私は大好きな異世界の皆を絶対助けたい!!~

たらふくごん

第1話 プロローグ

美緒はテレビ画面に映し出されている物語のクライマックスに神経を集中させていた。


指先は慎重にコントローラーのボタンを押す。


シナリオテキストを読み飛ばさないように。

ごくりとつばを飲み込む。



※※※※※



―――皇帝の居城、謁見の間で元農民の革命騎士レストールの剣が皇帝ハインバッハの体を貫いていた―――


「ぐうっ、まさか我が、貴様のような名も知らぬ一兵卒に討たれるとはっ……がああああっ!!!」


「終わりだ。………命を捨て俺をここまで連れてきてくれた仲間たちのっ、そして貴様にしいたげられた多くの民のっっ、恨み、苦しみ、悲しみをっ!!……おもいしれええええっっっっ!!!!」


―――皇帝の胸元に深々と突き刺さった彼の持つ聖剣『ディラダル・エズゲイト』が虹色の極光きょっこうに包まれた―――


「ごはあっっ!!?……む、無念…」



※※※※※


映像とともに盛り上げるBGMがイヤホン越しに鳴り響く。


思わず涙が零れる美緒。


でも最後のスチル、見逃すわけにはいかない。

そして表示されるテキストを見逃すまいと涙をぬぐい美緒は目を見開く。



※※※※※


――――ここにたどり着くまでの死闘によりレストールも生きているのが不思議なほどのダメージを受けていた。


左半身は焼け焦げ、腹にはこぶし大の穴が開いている。

全身からおびただしい出血をし、もう目もほとんど見えなくなっていた。

体が震え、熱が失われていく。

すでにほとんどの感覚はなくなっていた――――


「……これで………アリ…ア………ごふっ」


コプリと口から赤黒い血を吐き出し皇帝に覆いかぶさるように彼は倒れる。

血に濡れた顔は安らかな笑顔が浮かんでいた――――


―――こうして5年にわたる皇帝の独裁は終わりを告げる。

神聖ルギアナード帝国の歴史は、名もなき英雄によりその幕を閉じた―――





~隠しルート06【名もなき英雄編】……クリア率100%~

~エンディン.086086~

~物語達成率100%~

~総プレイ時間3,823時間41分~

~スチル鑑賞時間252時間18分~













~称号『ゲームマスター』~





※※※※※



午前2時過ぎ。


すっかり寝静まった都内のワンルームマンションの薄暗い部屋で、家主である守山もりやまはコントローラー片手に42インチのテレビ画面を見つめ大きすぎる溜息を吐いていた。


「はああああああああああああ……………長かった……これはあれだね。いわゆる『痛み分けのエンディング』パターン。………まさかこれが最後だったとは……うう、ついに100%!!……エンディングもコンプリートだね♪…完全クリアーだあああ!!」


美緒はコントローラーを投げ出しヘッドフォンを外しベッドへ倒れ込んだ。


※※※※※


美緒が異常な情熱を注いでいた『魔に侵されし帝国』

追加要素や通信機能などない、いわゆる旧式のタイプのゲームだ。


「やっぱりこういうのよね。うん。……10年かあ……うー、100%!!やりつくした満足感が半端ないわ。……大体後からどんどん追加される最近のゲームは好きじゃない」


ふらつきながらもベッドから起き上がりすっかり冷めてしまったミルクティーを飲み干す。


画面にはエンドロールが流れている。

美緒はそれを横目に満足げにほほ笑んだ。


「スチルの確認は明日でいいかな……ふああぁ……目がしょぼしょぼする」


※※※※※


戦略シミュレーションゲーム『魔に侵されし帝国』


選択できるメインキャラは全20名。

NPCやサブキャラまで含めると登場する人物は数百名を超える。


それぞれのキャラが選択により主人公になることのできるゲームで、戦略物のくせにしっかりと恋愛要素も織り交ぜられていた。


基本はフラグたてゲーム。


キャラを育成し皇帝に反乱するレジスタンスを結成していく、王道なストーリー。

やり込み要素は満載で、ラスボスである『皇帝』をも選択できるルートまであった。


しかしその複雑すぎる条件と途中の退屈な単純作業により離脱者が続出、いまだこのゲームで100%コンプリートしたという話は聞いたことがない。


発売されたのはすでに10年前。

発売当初は膨大なマルチエンディングと美しいグラフィックが話題となっていた。

だが発売元の会社は謎の倒産をしてしまう。

結果、攻略情報が出ることもなく初期ロットのみの発売。


ある意味伝説のゲームだ。


※※※※※


「ああっ、もう2時過ぎた。早く寝ないと……」


やり切った満足感に包まれていた美緒は時計を見て一瞬で現実に引き戻された。


一応会社員である美緒は当然明日、というか数時間後には仕事に行かなくてはならない。

事故で亡くなった両親の残してくれた保険金があるとはいえ、まだ社会人経験の少ない自分がニートになるわけにはいかない。


「……朝一でシャワー浴びればいっか。……うん、もう寝よう。目覚ましは……オッケーだね」


アラームがセットされていることを確認し小さくため息をつく。

彼女は特に考えなくゲーム機とテレビの電源を切り、暗くなった部屋で一人ベッドにもぐりこんだ。


(大体から最近のゲームは胡散臭すぎるのよ。初期キャラじゃほぼクリアできないし。舐め過ぎでしょ!?しかも課金しないと強力な武具とか手に入らないとか)


スマホがあればほとんどのゲームが楽しめる時代。

だけどどうしてもそういうゲームは『課金』が必須だったりする。

しかも人気が出れば出るほど、追加要素のごり押しにより酷い場合にはゲームのストーリーすら変わってしまう物まであった。


(ああ、昔は良かったよね………)


眠気に誘われまどろむ中、薄っすらと思い出す少女の頃の夢……


彼女がまだ子供だった頃……

近所に住む10歳年上の大学生にもらった数世代前のゲーム機とソフトに、彼女は心を奪われた。


国民的な人気を誇ったRPG。

誰もが知るそのタイトルの、まさに初期のものに衝撃を受けた。


データ量が少ないにもかかわらず、綿密に練られたストーリー。

初期キャラが数多の試練を乗り越え成長していくシステム。

そして訪れる大団円。


乏しいグラフィックがさらに想像心を掻き立てる。


そして少女だった美緒は心に誓う。

自分もそういう物語を作ると。


美緒は想いを馳せながら意識を手放した。




「プツン……ジジ………ザー……条件…達成者……みつ…けた……ゲーム……マスター……」




消したはずのテレビ画面が勝手につき、ゲームが再起動したことに気づかないまま。

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2024年11月30日 08:05
2024年12月1日 08:05
2024年12月2日 08:05

ツルペタ喪女は最強の称号『ゲームマスター』を獲得する?!~ゲームを知り尽くしチート超絶美少女になった私は大好きな異世界の皆を絶対助けたい!!~ たらふくごん @tarafukugonn

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