知識チートの黒髪黒目の少女は結局物理で異世界を攻略中!?

たらふくごん

第1話 黒髪黒目の少女は転移する

禁忌地リッドバレー、ギルド本部周辺の深い森―――

私は意識を集中し魔力を練り上げる。


「はああっ、フレイムジャベリン!!!」


かざす手のひらから炎の槍が瞬時に10本ほど形成され、襲い掛かってきたネオウルフ4体を焼き焦がしながら引き裂いていく。


ひとしきり痙攣し、倒れるネオウルフ。


そしてほぼ同時に私の脳内に電子音が流れた。


『ピコン……レベルが上がりました……魔法使いのジョブレベルが上がりました……『アイスバレット』習得しました……』


異世界へ転移して5日目。


私は選択し、解き放った最初のメインキャラクターであるリンネと二人、ジョブレベルと自身の能力向上のため訓練に明け暮れていた。


少し離れた場所には私たちを守るように位置取りをしているエルノールが、相変わらずのイケメンぶりで優しく微笑んでくれる。


あうっ。

男性に慣れてない私には、彼は美しすぎる。


「ねえ美緒?あなたやっぱりチートよね。私のスキルの影響があるとはいえ、たった二日でレベル30越えとか。……魔法使いのジョブ、もう半分くらい呪文取得したでしょ?」


「うん。ほんとリンネのおかげだよ。あと私どんな魔物が居るかとか、特性知り尽くしてるから、効率良いんだよね」


本当にそう。

もしリンネがいなかったらと思うとちょっと怖いもの。

まあ、ここからはそんなに簡単には上がらないのだろうけれど。

でも。


いまだに信じられない。

つい数日前まで私は日本で暮らしていた。

そして狂ったようにゲームばかりしていたんだ。


全てをあきらめて……

時間全部費やして………


もちろんあの日も……



※※※※※



転移する直前の深夜。


私はテレビ画面に映し出されている物語のクライマックスに全神経を集中させていた。

シナリオテキストを読み飛ばさないように慎重にコントローラーのボタンを押していたんだ。


ごくりとつばを飲み込む音がやけに大きかったことを、いまさらながらに思い出す。


そして画面で流れる最後のシナリオのクライマックス……



※※※※※



―――皇帝の居城、謁見の間で元農民の革命騎士レストールの剣が皇帝ハインバッハの体を貫いていた―――


「ぐうっ、まさか我が、貴様のような名も知らぬ一兵卒に討たれるとはっ……がああああっ!!!」


「終わりだ。………命を捨て俺をここまで連れてきてくれた仲間たちのっ、そして貴様に虐げられた多くの民のっっ、恨み、苦しみ、悲しみをっ!!……おもいしれええええっっっっ!!!!」


―――皇帝の胸元に深々と突き刺さった彼の持つ聖剣『ディラダル・エズゲイト』が虹色の極光に包まれた―――


「ごはあっっ!!?……む、無念…」



※※※※※



凄くBGM盛り上がるのよね。

何気にオーケストラ?


私、何度見ても泣いちゃうし。

でも最後のスチル、絶対に見逃せない。


食い入るように目を開いたんだ。



※※※※※



――――ここにたどり着くまでの死闘によりレストールも生きているのが不思議なほどのダメージを受けていた。


体が震え、熱が失われていく。

すでにほとんどの感覚はなくなっていた――――


「……これで………アリ…ア………ごふっ」


コプリと口から赤黒い血を吐き出し皇帝に覆いかぶさるように彼は倒れる。

血に濡れた顔は安らかな笑顔が浮かんでいた――――


―――こうして5年にわたる皇帝の独裁は終わりを告げる。

神聖ルギアナード帝国の歴史は、名もなき英雄によりその幕を閉じた―――



~隠しルート06【名もなき英雄編】……クリア率100%~

~エンディングNo.086~

~物語達成率100%~

~総プレイ時間3,823時間41分~

~スチル鑑賞時間252時間18分~













~称号『ゲームマスター』~





※※※※※



気が付けばもう午前2時を過ぎていた。


「はああああああああああああ……………長かった……これはいわゆる『痛み分けのエンディング』パターン。………まさかこれが最後だったとは……うう、ついに100%!!……エンディングもコンプリートだね♪…完全クリアーだあああ!!」


口をつく言葉。

うん。

今思えば本当に女性らしさの欠片もないよね。


でも、私はついに完全クリアーしたんだ。

伝説とまで呼ばれるあのゲーム『魔に侵されし帝国』を。


そして成し遂げた。

完全攻略100%を。



※※※※※



つい思いにふける私に、近づいて来たエルノールが優しげな瞳を向ける。


「美緒さま、お疲れのようでしたら一度戻りましょう。ちょうどお昼です。お腹もすかれたでしょう?」

「ええ、そうね。……エルノールの料理、とっても美味しいもの。楽しみだわ」

「っ!?は、はい。……ご期待に添えるよう、腕を振るいますね、それでは先に失礼します。美緒さまとリンネ様は執務室でお待ちください」


そう言い、颯爽と姿を消すエルノールをリンネがなぜかにやりと見ていた。


「んふふ♡美緒、愛されてるねえ」

「は、はあ?な、何言って……も、もう、からかわないでっ!」


まったく。

リンネは神様のくせに、いつもそう言って私をからかう。


私はつまらない女だ。

ゲームしか知らない。

お洒落もできない。


だからエルノールが私の事を……


そんなことは絶対にない。

私はため息をつく。


そして日本での最後の夜が私の脳裏によぎる。



※※※※※



「ああっ、もう2時過ぎた。早く寝ないと……」


やり切った満足感に包まれていた私は時計を見て一瞬で現実に引き戻されたんだ。

明日も仕事。

事故で亡くなった両親の保険金があるとはいえ、働かなくちゃ。


「……朝一でシャワー浴びればいっか。……うん、もう寝よう。目覚ましは……オッケーだね」


私は朝が弱い。

いわゆる低血圧だ。

だからいつも朝はどうしてもぎりぎりまでベッドから出られない。


朝食なんて……

もう思い出せないくらい前から食べていなかった。


そもそも『おしゃれ』とかできない私は髪を梳かして服を着るだけ。

後は顔を隠すように伊達メガネ。

家を出るのに10分あれば間に合ってしまう。


私はそんなことをふと思い、ゲーム機とテレビの電源を切り、暗くなった部屋で一人ベッドにもぐりこんだ。



思えばあれが日本にいた最後の記憶だったんだ。


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