ロリロリデイズ!
ながやん
第1話「ロリとロリとが結ばれていた」
午後の昼下がり、チェーン店のファミレスはそれなりに混雑していた。
放課後のおしゃべりを楽しむ女子高生たち。スタートアップ企業と思しきスーツ姿の打合せ風景。子供連れのお母さんが、おやつタイムのかたわら紅茶に
そんな中、
利好は成人男性向けの漫画家、ペンネームはエモえもんである。
彼の原稿を精査して確かめる向かいの女性は、ふう、と一度息をついてから笑顔になった。
「はい、今月分の原稿、確かに頂戴しました! いやあ、いいですねえ! これは抜けますよ」
成人向け漫画雑誌、月刊『ロリータ・ガーデン』の編集者、
客の何人かがこちらを見る視線を感じて、
「あ、いや……抜けるとか言わないでくださいよ。は、恥ずかしいです、毎度」
「いやー、ごめんなさい! 賞賛の言葉のつもりなんですけど……でもほんと、先生の『アリスvsドロシー』の評判いいんですよ」
「それは、ありがたいんです、けど」
「少年漫画的なバトル展開と、アリスとドロシー、両サイドのヒロインについてくる竿役……じゃなかった、仲間たちの交流。いい感触の感想メール、編集部に届いてますよ!」
それは素直に嬉しい。
なにより、描きたい漫画を描いて、表現したい少女の美しさを褒められるのは感謝しかない。
そう、利好は成人未満の女性、いわゆる少女とか幼女が好きだ。
ガチのロリコンで、ロリコンなエロ漫画を描いて生計をたてている。
心の底から小さな女の子が好きなのである。
自分でも、性犯罪を犯して罪を問われない人生が不思議に思うくらいだ。同時に心の底に誓いを立てている。ロリっ子が好きだからこそ、決して触らず近付かず、干渉しない。
自分の幼女や少女への偏愛をマンガに限定して出力していたから、今の暮らしがあるのだった。
「あっ、そういえば先生……最近、結婚されたそうですね? やだなーもう、式には呼んでくださいよう」
「あ、いえ……地味婚なので。式はあげず、籍だけ入れて。で、でも、近いうちに紹介しますね。その……僕には過ぎたる、本当に素晴らしい人で」
「どんな
「へ? あ、いや、それは」
「先生、ガチロリじゃないですか。だったらもう、ロリロリに凄い澳さんなんでしょうなー、って」
ちょっと、困惑する。
確かに利好は最近、一人の女性と
利好が24歳だから、新婚の奥方は27歳である。
今週には二人で暮らす利好の家に引っ越し予定で、おたがい共働きだが不思議と気持ちがかみ合った。エロ漫画作家という
「あ、あの、ですね、エリカさん」
「うん? ああ、今後の展開ですか? 単行本も次で三巻ですが、続きは問題ないです。本当に、先生が描きたい完結シーンまで編集部はバックアップして、連載と刊行を続けますから!」
「あ、ありがとうございます。それはまあ、それとして……さっきの話なんですけど」
もう、何度この話をしたことか。
そして、熱く語らえば語らうほどに、多くの人々が利好から離れていった。
いわゆる特殊性癖、その中でも一番有名で、かつ社会に実害を多く残してしまったものからだ。その気持ち、どうしても捨てきれぬ、捨てるという考えすらおよばない熱意が利好をいつも描かせる。マンガに落とし込むことでしか、利好は気持ちが抑えられなかった。
「僕はロリコンなんですけど、決して三次元の女の子にはどうこう思わないんですよ」
「えー、まじすかー? ……大丈夫ですよ、そこは知ってます。ごめん、ちょっといじりすぎちゃった。ワハハ、まあ連載も無事二年目に突入だし許してチャブダイ!」
「憧れて恋焦がれて、でも決して触れてはならないもの……その美しさと尊さを僕は漫画に叩きつけてるんです! ……はっ! あ、いや、ごめんなさい。僕、また」
「いいじゃないすか。うちも先生の漫画でがっぽり稼がせてもらてますし。先生、後輩のロリ漫画家さんともプライベートで相談受けたり、悩み聞いてくれてるじゃないすか」
「それは……やっぱり、エロ漫画家って大変なので」
エリカは自分にとって、最高の編集担当者だと思う。ノリが軽くて時々ハラハラするけど、利好はエリカを信用していた。そして、エリカの仕事は常に的確に効率的で、こうしてなあなあな友情っぽさを共有してても、自分に厳しい女性なのだった。
エリカは時として、自分にも利好にも厳しい。
エロ漫画特有の魅力、その良さや尊さに妥協を許さない人だった。
だから、盟友として利好はエリカをリスペクトもしていた。
「エリカさん、いつも本当にありがとうございます。来月号の原稿も頑張りますので」
「なんのなんのー! うちも業界で唯一のロリ専門エロ漫画雑誌なんで。ほんと、沢山の作家さんが描いてくれて、本当に感謝ですよ。いい数字出てますしね、売り上げ!」
エリカはボブカットの頭をバリボリ掻きむしりながら、笑顔でコーラを飲む。こうして今日も、コツコツ描いてた利好の作品は価値ある原稿としてエリカに受け取ってもらえたのだった。
「あ、で……このあとどうします? 軽く飲み、行きます? もち、編集部のおごりで。経費っすよー、経費!」
「あ、ああ、今日はちょっと」
「そっかー、残念。私、あれなんですよ、結構お酒好きで……先生と飲むの好きで。でも、予定があるならしょうがないですね!」
「このあと、あの人と……え、ええと、嫁? 妻? おっ、おお、澳さんと……合流予定でして」
いまだに慣れない。
もう役所に届け出を出しているので、二人は夫婦、同じ家族だ。
だが、利好には家族というものがよくわからない。
家族というなら両親、そして親戚や遠縁の者たちがいることはわかる。確かに存在している。しかし、その全てから否定され、利好は意図的に『いなかったこと』にされているのだ。ただ一人以外からは。
「まあでも、エモえもん先生! ……利好さん。困ったらなんでも言ってくださいね。確定申告とかも手伝いますし、編集部一同が一番の先生のファンですから!」
「あ、ありがとうございます……なんか、いいのかなあって」
「え? いや、いいに決まってますよ! 都条例もなにもかも、法令や制度は全部順守してますし! それに、先生の漫画が日本中のロリコンさんを慰めてるんですよ!」
「そう、かなあ」
「断言します、先生がいなかったら少女や幼女への性犯罪は二倍になります! キリッ!」
謎の珍妙ポーズをズビシィ! と決めて、エリカは立ち上がった。そして、ちょっと恥ずかしかったのは頬を赤らめ着席する。
かほそい声が静かに響いたのは、そんな時だった。
荒波の大海に落ちる一滴の
「あ、あの、お疲れ様です。炉乃物さん……まだ、お仕事中でしたか?」
その声色に振り返って、利好は改めて美の極致を思い知った。
それが伝わったのか、初対面のエリカは声にならない悲鳴をあげてフリーズする。
そこには、モノクロームの美女が小さな鞄を両手で持って佇んでいた。ガチのゴスロリ、靴から帽子まで完璧なゴシックロリータに身を包んだ女性だった。
そして、身長はヒールのせいもあって2m近くある。
でも、利好に微笑む笑顔はとても柔らかく眩しい。
この人こそが、利好の新妻にして永遠の
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