第十九筆 異世界令嬢教からの刺客!

 龍の男気!

 ドラゴンはライオン令嬢と生きると決めた!

 まるぐりっとへ、決意のDMを送信した龍!


「ふんふんふんふんふん!」


 肩で風を切り、腕を振り回し、大股の足取りで帰宅。

 ドンと茶の間に座り、パソコンを「竜王起動ッ!」させる。


「クリスティーナ……君に会いたかったよ」


 頭は大丈夫か龍。

 そこにいるのはお前が作り出した架空の女性だ。

 そもそも、物語的には辺境伯様と恋に落ちるからお前の存在は害悪でしかない。


「サンダードラゴン・ライティング!」


 これより、ライオン令嬢の第二話の執筆だ。

 しかし、その前にちょっくらやることがある。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:ぷりちぃ☆ドラゴン! 血迷ったのかい!?


 教祖まるぐりっとからの返信の返信だ。

 龍はクリスティーナを護るため、異世界令嬢教から脱会すると決心した。

 男・龍のケジメとして、まるぐりっとに熱きDMを送信する。


 ギアドラゴン:新作ガチャは断る! ライオン令嬢はこのまま連載を続けさせて頂くッ!


 まるぐりっとは熱き返信に氷の返答だ。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:私はあんたのためを思って言ってるんだよ。ライオン令嬢はさっさと消して、次の令嬢ものを書くんだ。そうすれば龍、あんたは夢の書籍化作家になれるんだよ?


 ギアドラゴン:俺にクリスティーナを消すことなど出来ない! 悪いがまるぐりっと様――いや! まるぐりっと! このギアドラゴンの創作と貴様の創作は水と油! 月と太陽! 空手とプロレス! 全く相反するもの!


 そう、龍とまるぐりっとの創作のベクトルは全くの逆だ。

 同じWeb小説といえど全く趣向が異なるのだ。苦手なジャンルを無理して書いても体に毒といえる。

 そもそも、ランキング攻略、書籍化のために作品が受けなければ消すなど言語道断。

 クリスティーナはどうなるのだ、その物語に生きる人々はどうなるのだ、龍は強くそう思ったのだ。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:何がいいたいんだ?


 ギアドラゴン:今日をもって! 異世界令嬢教をやめるッ!


 それはハッキリYES、ハッキリNOの脱会宣言。

 僅か数日で異世界令嬢教をやめるというのだ。

 まるぐりっとは龍に静かな怒りのメッセージを送信する。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:お前には書籍化の才能があると思って、私はこれまで協力してやってきたのに……それをやめるだと? ふざけるな。


 ギアドラゴン:俺はクリスティーナと別の道を探す。都合のいい恋愛ではなくな。


 都合のいい恋愛。

 それがまるぐりっとの逆鱗に触れた。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:ギアドラゴン……今、てめえはタブー中のタブーに触れたな……私達教団の創作を『都合のいい恋愛』とよくも……。絶許だ、絶対に許さん……。てめえもクリスティーナも、この業界から消してやるぜ!


 龍はこのWeb小説界隈が生んだモンスターに怯まずに応戦するぞ。

 タココラ問答だタココラ。


 ギアドラゴン:やれるもんならやってみろ! タココラ! 俺の創作は無敵の中川だタココラ!


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:タココラ! てめえは今日限りで破門だ! 後で地べた這いずり回って、泣きべそかきながら「許して」と言っても絶許だからなタココラ!


 ギアドラゴン:上等だタココラ! お前は塩でも舐めて塩作品書いとけ!


 売り言葉に買い言葉。

 DMというバックステージで遺恨が開始された。


「ふっ……やっちまった」


 龍はやっちまった。

 クリスティーナを、自作を護るため、まるぐりっとへ喧嘩を売ってしまったのである。

 相手は厄介な書籍化作家、何かで犬笛を吹かれ、まるぐりっとの狂信者ファナティック達にフルボッコされてしまうだろう。

 過去にはそれで筆を折ったワナビもいると聞く、だがそれも仕方がないことだ。

 全てはライオン令嬢を救うため。一人のワナビとして、その矜持を書籍化作家に示せたのだ。

 従って、龍はどこか晴れた青空のように爽やかな気分になっていた。


「これでいいのだ」


 そう、これでいい。

 龍は我を、作風を、ワガママを貫き通すことで一人の女の命を救ったのだ。(架空の自キャラだけど)


「さて……ライオン令嬢の続きを書く前に『龍息禅』だ!」


 龍は胡座をかき『龍息禅』にて心を鎮める。

 興奮したアドレナリンMAXの状態ではよい作品は書けない。

 しかし、暫くするとスマホに通知が入った。

 何者かからポストが投げ込まれたのだ。


「こ、これは書籍化作家!」


 それは書籍化作家からのクソポストだった。


 カーミラのエビ餃子@特別賞「にんにく聖女は吸血鬼に愛される」好評発売中:@gear_dragon_fight ライオン令嬢を拝読しましたが、文体の不一致が気になりました。高貴な言葉遣いから「マジでビックラこきましたわ」への変化は統一感に欠けます。今すぐ改善して下さい。


 一人は『カーミラのエビ餃子』。

 陰陽道のラブらんど文庫大賞・特別賞受賞の新星。

 書籍『にんにく聖女は吸血鬼に溺愛される ~吸血鬼に嫌われると思っていた「にんにく」が、逆にヴァンパイア王子に愛されてしまう原因になった件~』(全二巻打ち切り)の作者だ。


 サクリンころも@「天ぷらを極めた悪役令嬢」電子書籍にて配信中!:@gear_dragon_fight ライオン令嬢読んだけど、マジで文体の不一致ひどすぎ。こんな雑な文章で書籍化出来ると思ってるんだろうか? 読んでてイライラする。みんなはどう思う?


 もう一人は『サクリンころも』。

 電子書籍レーベル、ヒヒイロカネノベルの拾い上げでデビュー。

 書籍『天ぷらを極めた悪役令嬢はグルメ公爵に求婚される ~婚約破棄されたけど、老舗天ぷら屋で修行して極めたら大繁盛の店を開いてしまった!~』(全二巻打ち切り)の作者だ。


「くっ!」


 龍は送りつけられたクソポストに冷や汗をかく。

 おそらく、この二人は異世界令嬢教からの刺客、鉄砲玉だ。

 この二人の書籍化作家は作風からして、教祖まるぐりっとの狂信者ファナティックであろう。

 早速、龍とライオン令嬢は厄介な攻撃を受けたのである。

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