第十六筆 龍、令嬢ものを書く!

 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:よろしくて、ぷりちぃ☆ドラゴン。最低限、タイトルには「令嬢」「溺愛」などの言葉を入れなさい。そうすれば、異世界恋愛の同志達が必ず読んでくれます。


 ギアドラゴン:サーイエッサー!


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:後、タグ付けも忘れちゃダメよ?


 ギアドラゴン:サーイエッサー!


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:おい……その呼び方はやめろ。お前はbotか?


 ギアドラゴン:す、すいません。まるぐりっと様。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:うふふっ……よしなに。ぷりちぃ☆ドラゴンの健闘を祈りますわ。


 こうして、龍の異世界恋愛への挑戦が始まった。

 まるぐりっとが述べるには、異世界恋愛を書く上で重要なのがタイトルとタグ付けであるという。

 それは『書籍化を呼ぶ雄鶏』のマニュアルを応用した手法だ。

 つまり、作品のタイトルに令嬢ものが好きそうな「令嬢」「溺愛」「聖女」「辺境伯」「騎士」などのパワーワードを入れろということである。

 そこにストギル系の「転生」や「追放」などを加えると更によい、とまるぐりっとからの説明を受けた。

 しかし、初心者があれやこれやと手を付けても仕方がないので「最低限三つのパワーワードを入れろ」とのことだ。


「しかし、アレだな……改めて読むと本当に中身がスカスカで読む睡眠薬だな」


 龍はまるぐりっとの三作品を読むことを強要された。

 これも『書籍化を呼ぶ雄鶏』のマニュアルに沿ったもの。

 正直、面倒だったがここで挫折するようでは書籍化への道は遠くなる。

 龍は書籍化が決まった『塩対応令嬢』や、電脳小説大賞の一次選考を通過した作品を読むことにした。


「う、ううっ……ちくしょう! これだったら! お昼にやってる韓流ドラマを録画して視聴した方がマシだ!」


 中身のない淡々とした文章と緩急のないスローライフ展開。

 ただただ、主人公にトラブル発生→イケメンがズバッと問題を解決→主人公とイケメンがいちゃいちゃの方程式。


「同じことの繰り返し! こんな金太郎飴のどこがいいんだ!」


 これだったら、少女漫画やティーンエイジャー向けのドラマを鑑賞した方がマシだ。

 出版社は何でこいつの作品を書籍化させたんだ、と龍はだんだんと阿修羅の形相へと変貌する。


「い、いかん! ぷりちぃ☆ドラゴン☆スマイルッ!」


 龍は百万ドルの笑顔を無理矢理作った。

 感情的になっては肩に力が入り、いい作品を書けない。

 笑うことでリラックスを作り出すのだ。

 一流のプロ野球選手ゆでたまごも、無意識に使用していたと言われる。


「ハァハァハァ……」


 息を乱す龍。

 全三作品のエピソードを十話程速読した。

 あまりにも中身がなかったので速読できたが、逆にそれが疲労感を生む。


「つ、次はいよいよか……」


 龍は呼吸を整え、いよいよ作品の執筆へと入る。

 一応、構想はある程度出来上がった。だけどもここからが大変だ。

 設定くらいなら「僕が考えた最強の〇〇」で小学生でも考えられる。


「う、うぐわっ! れ、令嬢という文字を打つだけでめまいがッ!」


 それを形にするのが創作の難しさなのだ。

 特に苦手なものを具現化することの心身の疲労は激しい。

 ああ、書籍化作家の修行とは何たるイバラの道であるか。

 頑張れ龍! 負けるな龍! 根性ド根性! ドンと征け!


「桃色のラブリードラゴン! 百花繚乱よオオオオオッ!」


 半ばヤケクソの龍、怒涛のブラインドタッチだ。

 その指使いはピアニストであり、バレリーナのように体をくねらせながら行う。

 何と美しいブラインドタッチであろうか。

 オリンピックの新体操競技ならば満点をとっているだろう。


「出来た! 出来ましたわッ!」


 完成した。

 所要時間は1時間19分。

 それは奇しくも、燕と勇者の日本シリーズで起きた伝説の抗議事件と同じタイムだ。


「お花のドラゴン投稿いくわよーっ! はぁーい!」


 それでは読者諸君。

 これが龍が書き上げた『素晴らしい異世界恋愛』である。


「アタック!」


――――――


 ライオン令嬢の溺愛道☆スーパーレディ列伝 ~私はジャイアント辺境伯に四角いジャングルで理不尽に甘やかされる~

 作:ぷりちぃ☆ドラゴン


 第一話:わたくしは貴族の令嬢よ!


 みなさま、よしなに。

 わたくしの名前はクリスティーナ・ジェリーコ。

 今日は王宮で行われるパーティという興行に参加中ですわ。

 皆様、この『四角いジャングル』で楽しくダンスっちまってますわ。

 ――そんなときに事件が起きましたの。


「いくぞーっ! 1,2,3! 婚約破棄ッ!」


 突然、婚約者のアントンからビンタされましたわ。

 この方は公爵家シンジャポンのご子息で、私と結婚するはずでございましたの。

 アントンは肩幅も大きく、顎が発達した強い殿方で共に愛し合った仲。

 それが婚約破棄だなんて、マジでビックラこきましたわ。


「な、何をなされるのですか! アントン!」

「ダッシャ! 元気があれば『真実の愛』にも目覚める!」

「し、真実の愛!?」

「おうよ! てめえのような『しょっぱい令嬢』はいらないのさ! ダーッ!」


 すると、アントンの傍にトラ柄のドレスを着た淑女が現れましたの。

 このタイガーステップを刻む人は見たことがありますわ。

 四次元令嬢、サミラ・シューティングですわ。


――――――


「うむ! ザ・パーフェクトだな! これでランキングもイチバーン!」


 イチバンポーズを見せる龍、まさに渾身の作である。

 しかし、すぐにまるぐりっとから『怒りのDM』が届いた。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:おい! なんだあれはゴラァ!


 ギアドラゴン:令嬢ものですけど。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:これが令嬢ものか? お前の!


 ギアドラゴン:はい。


 まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:なめてんのか?


 一体、何がいけなかったのだろうか。

 後半へ続く!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る