第六筆 登場じゃがいも警察!
「うむ! 完成したッ!」
龍はドヤ顔となる。
男一匹ウルフ大将、第三十一話が完成したのだ。
第三十一話『俺の体がポイズン!』の流れはこうだ。
主人公狼介が山籠もり中、ポイズンスライムが現れ死闘開始。
狼介はポイズンスライムの毒液を避けながら、必殺の『烈狼断拳』で撃破する。
その後、倒したポイズンスライムが『じゃがいも』をドロップ。
それをじゃがバターに調理して食すラストである。
※烈狼断拳:月影狼介が山中で編み出した必殺拳。咆哮と共に繰り出される破壊力抜群のパンチは大岩をも砕く。
「せいやッ! ドラゴン投稿ッ!」
投稿完了。
これで今日の執筆作業は終了。
龍、本当にお疲れ様でした。
「それではいただきますッ!」
仕事を終えた龍はここでやっと晩ご飯を食べることにした。
今日のメニューは即席麵『ビョンギュソース焼きそば』だ。
「ズル! ズル! ズル! ズル! ズル!」
ズルズルと爆音を立てながら食す。
「グビ! グビ! グビ! グビ! グビ!」
龍は止まらない。
続いてはペットボトルの緑茶飲料『荒鷲』だ。
これを豪快に飲み干す。
「ごちそうさま!」
合掌構えを見せる龍、さながら少林寺拳法。
全ての生きとし生けるもの、自然の恵みに感謝を表すポーズだ。
「おっと……そろそろ『飛龍クリック』だな」
そして、龍はパソコン画面の更新ボタンを押す。
それは何故か?
男一匹ウルフ大将に評価ポイントもしくはブクマがついているかもしれないからだ。
一流のワナビストは、毎度の自作チェックを怠らないのである。
このきめ細かいチェックは早速効果を出す。
▶感想が書かれました
「フハッ」
新着通知に早速連絡が入った。
男一匹ウルフ大将の感想が書かれたのである。
「ゴクッ……か、感想!」
龍は一流のワナビスト。
作品に感想が届いたのは初めてのこと。
恋する乙女のようにドキドキとした気持ちとなる。
「ど、どんな感想が届いたんだろう」
指を震わせる龍。
それはさながら武者震いか、はたまたラブレターを好きな男子に届ける女の子か。
あゝ心臓が張り裂けそうな気持ちだ。
そして、意を決して感想をチェックすると――。
――――――
気になる点
これって異世界の中世ヨーロッパ文化だろ。
なのにじゃがいもがあるっておかしくね?
それとバターが急に出てくる描写が笑えるんですけどw
これってコメディですかw
一言
つまらん。
投稿者: ああああ
――――――
気になる点
じゃがいもを料理するとか意味不明です。
そもそも、じゃいがいもは中世ヨーロッパにありません。
この表現には誤りがあるので書き直した方が無難です。
それとポイズンスライムが食べ物を落とすところも意味がわかりません。
ゲームの影響を受け過ぎではないでしょうか、現実感に欠けます。
後なんでしょうか、全般的にセンスが昭和過ぎますね。
ひょっとして、あなたは40代の男性なのでしょうか。
一言
第一話も少し拝読しましたが非常に読みづらいの一言。
もう少し地の文を減らした方がよろしいかと。
それと主人公がスライムにボコボコにされる展開もダメ。
話のテンポが悪すぎて、あくびが出てしまいました。
投稿者:ゲロリンマン
――――――
「えっ……じゃがいもってダメなの?」
この時、龍は初めて知った。
どうやら『異世界にじゃがいもを出してはいけない』ようだ。
しかし、龍はこうも思った。
「創作って自由ではないのか?」
龍はそう思うと悶々たる気持ちになる。
そもそも、中世ヨーロッパにじゃがいもはないってどういうことだ。
そこで、龍はこのモヤモヤをSNSでぶつけることにした。
ギアドラゴン:自作の感想で『中世ヨーロッパにじゃがいもを出すのはおかしい』という意見を頂いた。俺にはさっぱりわからん。創作というものは自由ではないのか?
このポストを投稿してすぐに返事が来た。
「こ、こいつは!」
アイコンが西洋人美少女のラノベイラスト。
見覚えのある平仮名のアカウント名。
引用したのはそう――。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:中世を舞台にした異世界物でじゃがいもが登場するの、ちょっと笑っちゃうわ。じゃがいもは16世紀以降にヨーロッパに伝わったものなんだから、中世には存在しないはず。時代考証くらいちゃんとして欲しいよね。歴史を無視した設定って、物語の説得力を一気に失わせるんだから。
宿敵まるぐりっとだ。
しかも、今度は書籍化だけでなくコミカライズも決定したようだ。
それはそれとして、龍はまるぐりっとのイヤミな引用で気づかされた。
後で知ったことだが、じゃがいもは中南米原産の植物。
その起源はインカ帝国などの古代文明で栽培されたところから始まるという。
そして、ヨーロッパでのじゃがいもの普及は16世紀後半。
インカ帝国を滅亡させた際、スペインのフランシスコ・ピサロ軍が持ち込んだという説が有力とのこと。
つまり、大航海時代以前の中世にじゃがいもが普及しているわけがないという主張である。
「ピサロとか魔剣士かよ!」
龍は叫んだ。
異世界物にじゃがいもを登場させたら、それを取り締まる『じゃがいも警察』の存在を知らなかった。
「ポテェートーウウウゥゥゥ!」
これで暫くポテトチップスを食えそうもない。
ポテト見るだけで、今日の無知と恥を思い出して穴に入りたくなる。
そして、このじゃがいもに対する龍の問題提起はこれで終わるはずだったが――。
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