第四筆 燃えよギアドラゴン!
研究を開始した龍にとっては衝撃の内容だった。
覚えきれない長文タイトル、似たようなストーリー構成、淡白なテキスト文体、説明不足の描写などなど。
ネットで調べるとこういうお決まりの展開、パターンの作品群は『ストギル小説』と呼ばれているようだ。
龍は激しく思った。何でこんな作品が人気なのであろうかと。
自分とてWeb小説家の端くれ、同じ創作者の作品にケチをつけたくはないが納得がいかなかった。
「多様性のない世界は息苦しくないか? みんな本当にこれでいいのか!」
龍はこの時、中学校の頃にやらされた『朝の読書運動』を思い出した。
最初は「めんどくせえ」と思いながらも本を読んだ。
夏目漱石、芥川龍之介など文豪達の作品、コナン・ドイルや江戸川乱歩、横溝正史などのミステリー作品。
強制的にやらされたものであったが、龍は読書を通して本の世界の素晴らしさを知った。
クソ長く、登場人物が多すぎる水滸伝を読破した時はフルマラソンを完走したような感動すら覚えた。
その多様で色鮮やかな物語に比べてストギル内の作品はどうだ。
同じような作品ばかりだ。
これでは醤油をつけない刺身、塩をかけていないフライドポテトではないか。
味がない、こんな料理を認めるわけにいかん! なんでこんなもんが人気なのだ!
龍はだんだんと怒りのボルテージが上がり始めた。
「ぬおおおっ! スマホ召喚!」
と龍は叫び真っ赤なスマホを取り出した。
それはまさしく赤い鱗を持つレッドドラゴン。
赤き龍の召喚である。
「俺のこの指が真っ赤に燃える! 怒りを示せと轟き叫ぶッ!」
どこかで聞いたようなことを述べる龍。
彼はあまり著作権の概念がないようだった。
仕方がない、なんせ元々は二次創作畑の人間だったのだから。
「俺の気持ちよ! 誰かに届けッ!」
龍はスマホのアプリを起動させた。
その名も『
所謂一つのSNS、ソーシャル・ネットワーキング・サービスである。
アカウント名はギアドラゴン、Web小説で使用するペンネームと同じである。
アイコンは劇画タッチの男だ。
これは『マスターカラテ迅』の主人公、霧島迅のイラストである。
龍は無断で使用していたのだ。
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
秒速で文字を打ち込む龍、以下がその内容である。
ギアドラゴン:ストギル小説を改めて読んでみた。主人公が無敵すぎて逆に退屈になることが多いと俺は思う。ストーリー展開もご都合主義で緊張感ゼロ。初めて知ったがこれがテンプレってヤツなのか? もっと工夫された設定や緊張感のあるストーリーが欲しい!
偽りなく真実の言葉を問いかける龍。
しかし、いつの時代も何かを叫ぶ者は石を投げられるものだ。
「ぬゥ! コ、コイツはッ!?」
ポストしてから暫くして、龍がお茶を飲んで一息入れると引用がされていた。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化決定!:よくストギル小説がご都合主義とか言われるけど、それも楽しみ方の一つだと思う。ストレスフリーで読めるし、夢中になれる設定が魅力。私が書いてる塩対応も「意外な展開やキャラの成長が面白い」と編集さんから言われたのよね。だいたいこの人さ、作品見たら低ポイントばっかりじゃないw
まるぐりっと、アイコンが西洋人美少女のラノベイラストだ。
それは龍がクソだと思った、あの『塩対応令嬢』の作者であった。
ストギルのトップランカーであり、フォロワー数も五千人を越える人気作家である。
「え……書籍化……」
それよりも、龍が注目したのはアカウント名だ。
まるぐりっとは別として、あの塩対応令嬢が書籍化決定しているようだった。
「バ、バカな……あのテキスト構文が書籍化だと!?」
ショックだった。
あの塩対応令嬢が書籍化するというのだ。
だが、驚くことでもない。
なんせ、ストギルのランキングトップを走り続ける作品なのだ。
出版社が目をつけて拾い上げるのも無理もない。
そして、龍の不幸はこれで終わらなかった。
「ぬわあああああッ!」
まるぐりっとの引用から暫くして、次々と龍のアカウントに通知が入った。
それは龍に対する罵倒のマシンガン打線であった。
ランサルセ:またこの系統の批判か。テンプレでも色んなバリエーションあるんですけどね。
彩雲 零:ストギル小説は無限の可能性が詰まった宝箱。批判する人は、中身をきちんと読もうともせずに文句ばかり。
ドムコーソ:こいつワナビじゃんw 負け惜しみ乙w
中には、龍の意見に同意するものもあったがほんの僅か。
多くは龍を批判し、酷いものには人格否定や作品を罵倒するものもいた。
ここまでくれば読者諸君も理解したであろう。
そう、龍はまるぐりっとに犬笛を吹かれ『炎上』してしまったのだ。
燃えよギアドラゴン! 怒りの叫びだ!
「こ、この『アニメアイコンども』がアアアアアッ!」
その瞬間、隣の部屋から『ドン』と音が鳴った。
「す、すみません」
龍はビビり、その言葉と同じく「すみません」というポストを送信する。
それが龍に出来る精一杯の鎮火作業であった――。
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