第三筆 これがランキングトップ作品だ!
悩む龍は早速研究を開始した。
ストギル内にあるランキングトップ作品に狙いを絞った。
ジャンルはもちろん主戦場とする異世界分野である。
「な、なんだこれはッ!?」
画面を見るや龍は愕然とする。
ランキングには『転生』『追放』『令嬢』『婚約破棄』の単語に埋め尽くされていたのだ。
特に多いのは『追放もの』や『令嬢もの』といったものであった。
この二つが二大巨頭、人気ジャンルであることはWeb小説家の常識。
しかし、龍は他人の作品に興味がなくWeb小説には流行があることを知らなかった。
「同じような作品ばかりではないかッ!」
龍の心、それはアイドル全員同じ顔に見えるおじさんの心境である。
では、読者諸君。
ここで改めて『追放もの』並びに『令嬢もの』について詳しく説明しよう。
まずは『追放もの』の大まかなパターンはこうだ。
主人公が冒険者パーティや騎士団、貴族の家などから無実の罪や誤解、不当な理由で追放される。
追放の原因は他のメンバーの嫉妬や陰謀、主人公の真価が理解されていないことが多い。
追い出された主人公は何らかの理由により能力を得て大活躍する。
ここに美少女のヒロイン、その他女性キャラ(イケメンでもヨシ)が数名いるハーレム展開があればよい。
そして、全女性キャラが『主人公が大好き』ならばグッド。
続いて『令嬢もの』のパターンを説明しよう。
主人公が婚約者から一方的に婚約破棄されるが、その後に新たな道を切り開く内容だ。
婚約破棄された後、主人公は代わりにイケメン貴族といった新たな男性と出会い、恋に落ちるのが鉄板である。
また、この二つには更に『転生』や『ざまあ』の要素があればベネ。
※ベネとはイタリア語で「良し」や「うまくいった」「調子いい」という意味がある。
転生は、無職やブラック企業勤めの社員が何らかの原因で死亡し異世界に転生する要素があるもの。
ざまあは、追放及び婚約破棄した人物が悲惨な目に遭う様子が描かれているものである。
これらのものがあれば読者を喜ばせ、ブクマや評価ポイントを与えてくれるのだ。
「タ、タイトルが長すぎないか」
龍の額から汗が流れる。
内容はともかく、ストギル内にある人気作はどれもタイトルが長かった。
あまりにも長すぎて呪文の詠唱のようであった。
「こ、これは……」
龍はゴクリと唾を飲む。
タイトルの中には「童貞」だの「エロゲ―」だのアダルトワードが付け加えられているものもある。
そのタイトルに釣られ、龍はついついクリックしたくなった。
だって、男の子なんだもん。
「冷静になれ! お前はランキングトップの作品を読むんだろ!」
だけども、龍は己の煩悩を振り払う。
狙いはランキング一位の作品。
このストギルで一番の作品を研究しにきたのだ。
「飛龍クリック!」
龍はランキングトップの作品をクリック。
しかし、それは異世界恋愛ものであった。
「れ、恋愛もの! 俺にとって最も苦手なジャンル……」
男の世界に慣れ親しんでいた龍。
恋愛ものは苦手であった。
だけど、これも自作品のクオリティを上げるためだ。
背に腹は代えられない、食わず嫌いはよくないと龍は思った。
それに女性の気持ちを知ることは大事だ、きっと得るものがあると自分に言い聞かせた。
ランキングトップの作品は『塩対応令嬢、婚約破棄されてから本気出す!』である。
「塩対応する令嬢って……それってただの不愛想な女性では?」
とツッコミながら画面のあらすじに目を通す。
物語の内容はこうだ。
――――――
【あらすじ】
エルザは高貴な家柄の令嬢でありながら、無愛想で冷たい態度を取ることで知られていた。
そんな彼女は婚約者である公爵家の息子、ミカエルにも塩対応を続けていた。
そして、彼女に業を煮やしたミカエルはある日突然、エルザに婚約破棄を宣言する。
婚約破棄の知らせを受けたエルザは、初めて自分の態度が招いた結果に気づく。
家族の名誉を守るため、自分自身を見つめ直すため、彼女は一念発起して自分を変える決意をする。
――――――
「どれどれ……」
龍はそう呟き第一話を読んだ。
――――――
塩対応令嬢、婚約破棄されてから本気出す!
作:まるぐりっと
第一話:婚約破棄
私はエルザ・ベルモント、ベルモント家の長女ですわ。
もうすぐ公爵家モンテスハンの長男、ミカエルと結婚しますの。
ミカエルという殿方は金色の髪で青い瞳を持ち、顔立ちも整っていますの。
それに誰にでも優しく語りかけるミカエル、そんな彼は社交界の中でも乙女の憧れ。
そんな私は彼と婚約を結びましたの。
我がベルモント家とモンテスハン家は長年にわたって深い友情がありますの。
両家の結びつきは、まさに王国中で最も理想的なもの。
今回の結婚はその絆をさらに強固にするためだったのですわ。
「エルザ、悪いが婚約破棄したい」
「え? それはどういうことですのミカエル」
「僕が毎日、笑顔で挨拶しても君が塩対応するからさ」
ミカエルの婚約破棄という言葉に耳を疑いましたわ。
確かに私は王国内で『塩対応令嬢』として名高い。
でも、挨拶って軽く会釈すればいいんでしょう?
私はこの時までそう思っていた。
「そ、そんなミカエル……挨拶なんて軽いものでいいんじゃなくって」
「その傲慢な態度に嫌気がさす! それに僕は真実の愛に目覚めたんだ!」
その時、部屋に誰かが入ってきたのがわかりましたわ。
亜麻色の髪に赤いドレスを着た淑女。
それは私の妹、セレシアでしたの。
――――――
「……淡白すぎねえか」
龍は首を捻った。
第一話があまりにも簡素で説明不足過ぎる。
いきなり部屋に婚約者を呼び出して、曖昧過ぎる婚約破棄の理由。
それに場所もどこなのだ、明確な記載がない書いているのは部屋だけだ。
他にも疑問はある。
仲の良い両家の婚約って、そんな簡単に破棄できるものなのだろうか。
後、主人公の妹が現れたこの展開も唐突過ぎる。
「何故こんな作品がランキングトップなのだ……」
龍は考えれば、考えるほど頭が痛くなってきた。
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