あすなろ編(自分探しのためにいろんな仕事にチャレンジします)
やたらと猫になつかれる仕事
宇宙から帰還してすぐに逮捕された僕は、またしてもキスがうまいだけだとわかって釈放された。
マジでこのループなんとかなんないものか。
そういえば、
これは別にキスがうまいことと関係ないのかもしらないけど、この頃やたらと猫に懐かれるようになった。
だから、
“めったに私以外にはなつかないんですよー”的な猫はたいてい僕になついた。
理由は不明。
猫のことはかわいいと思うけど、飼ったことはない。
僕が自分でなつかれてるなぁと思う以上に、他人から見ると僕はかなり猫になつかれているように見えるみたいで、嫉妬を買うことさえある。
だから猫に出会った時はできるだけ素っ気なく振る舞うようにしているのだが、猫にしてみるとソレがたまらないみたいで、さらになつかれてしまう。
そんなところがだいたい僕の毎日だ。
そういえば、もう一つ大事なことがあった。
このたび就職が決まりました。
猫になつかれるからといって、人懐っこい性格ではないし、かといって猫みたいに賢くも器用でもないのでいろんな職種の採用面接で落ちまくっていたけど、ついこの前、ようやくある会社に採用してもらえることになった。
業務内容は、『猫を守る仕事』。
猫を守ると言っても、本物の猫ではなくて、『絵』の中の猫だ。
中世ヨーロッパで有名なインパクト派の画家によって描かれた幻の猫の絵。
僕はその国宝級に貴重な絵画が展示してある美術館の警備員として採用されたのだ。
警察にマークされてたのに良いのだろうか。でも採用。
その絵は、何億円もの価値か、もしくは値段がつけられないらしい。
これは言い忘れていたが、最近、この美術館に謎の怪盗組織から「近々この絵を盗む」という犯行予告があったらしい。怖いです。
でもそのせいで警備体制の強化が図られて人員増計画が実施されたおかげで僕は仕事にありつけた。うれぴーです。
とにかく責任重大。
まだいろいろおぼえている段階で叱られてばかりの新人だけど、今日の夜勤も頑張るぞー。
おにぎりと卵焼きとタコさんウインナーを作ってママチャリでいざ出勤!
暗い夜道。
見上げれば、すごく大きな満月。
凛乎としたものが胸の内に湧いた。
美術館に到着。
でも、入り口で近くの猫(僕になついている)が僕の侵入を楽しそうに阻止してくるので入れない。“ちょっとどいてよ、えー、また入れないよー、ごっこ”をダラダラとやっていたら出勤してきた警備主任(以後、主)に見つかってしまった。
主「おーい、何やってんだよ新人💢 出勤早々バズる気かよ。しかも立ち位置逆だろ、猫に入られてんしゃんかよ、もー」
僕「あっ、主任、すいません」
主「ったくよー、お前はいつも猫になつかれすぎなんだよ。この前も特別来賓のどっかの国の王室の猫になつかれて、その猫が帰国拒否騒動おこして国際問題なりかけたばっかだろーが。脇あめーぞ」
僕「はいっ、すいませんっす。しっかり脇しめまっす」
僕がそう言うと足元の猫はきちんと香箱座りになって見上げていた。
そういうのを見てしまうと、やっぱりかわいいなぁと思ってしまう。
いけない、いけない、仕事、仕事。
さーて、館内の巡回警備がんばるぞー。
僕は懐中電灯片手に真っ暗な館内を廻り始めた。
お化けでないかなー、こわいなー。
絵の中の人がいきなり喋りそうぜよよ……
ぞわ〜。
そのとき、僕の頬を何かが撫でた。
わーわー((((;゚Д゚))))))) で、でたー
ライトを向ける。
するとそこには同僚Aと同僚Bの姿。
なんだよ、びっくりしたなー。
二人は猫じゃらしみたいなので遊んでいる。さっきのはそれが当たったみたいだ。
この二人はけっこう猫っぽい人たちで、今回もおどかそうとしたとかじゃなくて単に猫じゃらしで遊んでいたみたいだ。勤務中に……。
いつもこの二人とシフト重なるんだよなぁ……。
一応先輩だからあんま言えないけど、全然仕事しないし……。
ホッとしてたその時、シューっとすごいスピードで目の前を何かが横切った。
「ぎゃー、今度こそでたー」
ん? なんだこれは。
その物体の行き先を見ると壁に何かが刺さっている。
あーーー、こ、これは、キャッアイカードやーん‼︎
僕ら3人は新喜劇っぽく驚いてしまった。
主任も僕らの声を聞きつけて飛んできた。
そしてカードを手に取ると、
「ついにきたかー、よりによって俺の出勤日によ。ったく、つくづくお前は猫を呼ぶやつだぜ」と言って僕を睨んだ。
僕「す、すいませーん」
主「どうすんだよ、キャッアイ相手にこのメンバーじゃ、お話になんねえぜ。よりによって今夜は猫みてえなのばっかな弱々メンバーの日なんだからよ」
僕らが「そーですねー」と、ひとごとみたく中途半端に困っていると、僕の背後で何かが大袈裟に止まる音がした。
振り返るとそこに
── 大きな猫🐱がいるじゃあーりませんか。
ひょえー
しかもたくさん。
すぐに主任報告する。ホウレンソウ草。
僕「あのー主任、恐れながら申し上げます。わたくし、ネコバスになつかれました」
主「なんだよそれ、逆にすげーな。おし、そのネコバスたちにバリケードになってもらおう」
主任の妙案を僕が伝えると、
ネコバスたちは笑顔で美術館の周りでバリケードになってくれた。
心強いっす。
主任「よし、俺たちはみんなあの絵の近くに張ってよう」
みんなで急いで移動して例の国宝級の『猫の絵』の前へ。
今まで忙しくて、あまり機会がなかったので、そこでまじまじと絵を見る。
なんか、完全なる招き猫にしか見えない絵だな……。
ほんとにこれがすごい絵なのかなぁ、絵描き歌で描いたみたいな感じだけど……。
それに欧州に招き猫の文化ってあったっけ??
あ、いかん、いかん。
たとえこの絵が陳腐に見えたとしても
僕はただ己のなすべきことをなすのみ。
とにかく、僕はまだ試験採用中の身だから、本採用を勝ち取るためにも、この猫の絵を絶対に死守しなければなのです🫡
悪党め、指一本触れさせないぜよよ。
同僚A or B「あ、誰か来ます」
指差す方から確かに誰か来る。
ん?手に箒ホウキ⁉︎
あー夜間清掃のおばさんかー。びっくりしたなー。
「おつかれさまでーす」とおばさんは掃除しながら近づいてくる。
おつかれさまでーすと返そうとしたら、突然館内スピーカーから音楽だ。
こ、この演出は……、
や、奴ら、ついに登場か⁉︎
でも、ユーミン。
ユ、ユーミン?? 杏里ちゃうんかい
と僕らが狼狽えている隙に
おばちゃんが箒に跨って飛んでた。
魔女宅かーい。
そしておばちゃんは、なんなく猫の絵に辿り着き、その絵に手を伸ばした。まさかおばちゃんがキャッアイ⁈
主「いかん、阻止しろ!」
「は、はい!」
僕らが急いで阻止しようとしたら、
おばちゃんは絵をどかしてフツーにその裏の壁を掃除していた。
BGM付きで紛らわしーわ😅
思わずみんなで新喜劇っぽくズッコケてしまった。
「おつかれさまでーす」と帰っていくおばさん。
おつかれさまでーす、と思ったのも束の間
またまた音楽が鳴り響いた‼︎
しかも
── 杏里。
ついに、くるぞ。
僕らは身構える。
主「どこから来るんだー。チキショー。よし、新人、お前、ピッタリあの絵に張り付いてガードしてろ」
僕「はい(`_´)ゞ」
僕はイタズラ防止柵を越えて絵のそばにピッタリとついてガード姿勢をとった。
すると……
🐱「ニャー」と鳴き声が……
あ、やべ💦
すぐにホウレンソウ
僕「あのー誤解を覚悟で申し上げますっ。絵の中の猫が出てきちゃいました」
しかも僕になついている……。
主「なにー、一休かよお前。なつかれすぎだろ」
僕「す、すいましぇん……」
A & B「ニャー、ニャー」と同僚二人は踊っている。
主任の僕に対する怒りはものすごく、「もーお前なんて……」
とそこまで言われてしまった。
あとは「クビだ」と宣告されるだけだ……、
と覚悟したら、違った。
主「よくやった!!」
え?? よくやった???
なんでなぜ、わけわからんぜよよ。
そして、
再び──杏里。
しかもさっきよりも大音量だ。
するとそこで、3人の同僚がばっと変装を脱いだ。
「あっ、キャッアイ」
なんと三姉妹がそこにいた。
そんな、まさかみんなが……
主任姉「ご苦労だったわ、その絵の中の猫の向こう側の空間には仮想財宝の山が眠っているのよ」
A B「いただきよ」
そうなのか、それが本当の狙いだったのか
僕「僕を利用したんだな」
主「そうよ、どうしてもその絵の中の猫をどかす必要があってね。人類で最も猫になつかれやすい男であるあなたの協力が必要だったってわけ。オホホ、でももう必要ないわ」
そう言って彼女は僕にネコ光線銃を向けた。あれに撃たれると猫になってしまう。
主「猫として幸せな余生をおくることね」引き金に手が。
わー、やめろー
でも、それもちょっと悪くないかも
いや、だめだー、やめろー
ビームが発射される瞬間、もうダメかと思ったら、ニャーッと絵の中から飛び出してきた猫が僕を助けるために体当たりしてくれた。
おかげですんでのところで避けることができた。
サンキューです!
だけど勢いついて止まれずに、そのまま僕は、入れ替わるかのように絵の中へ入ってしまった。マジ盲点。
あーれー。
そして僕はあろうことか絵になってしまったのだ。
それを見た三姉妹は、
「これでまたお宝への入り口が塞がってしまったわ、そろそろ警察が到着する頃よ、行きましょー」
と言ってさっと消えてしまった。
そこ諦めるとこじゃないっしょ。無慈悲っすよ。
絵の中よりもまだメタバースの方がいいっすよ😭
あらあら
おやおや
そらからどんどこしょー
「おーい、出してけれー」とは叫んではみるものの、果たして絵の外にこの声が出ているのだろうか。それに僕の絵の中でのポーズは工事看板の『キケン!!』の態勢のまま固定なってるし……。おまゆう?状態やん。
ただ、不幸中の幸いというべきか、絵の中だと猫とだけは話せると言うことがわかって、絵の外で首を傾げてこちらを見上げてる本来こっち側にあるべき猫に聞いてみた。
僕「どうすれば出られますか?」
🐱「はるか遠くのネコトピアにある“聖なるマタタビ”さえあればあなたを救って差し上げられるのですが……」
だって。
じゃあ、なるはやでよろしくっす。
🐱「り」
こうして猫は美術館を後にしてネコトピア(て、そこどこよ?)に向けて旅立っていった。
頼むぞーい。
そして、それからの数ヶ月の間、僕は、絵とし生きた。
そんなの全く望んでないけど……。
ある時は元カノが来場して、僕のことをスマホで撮影して帰っていった。あまり気づいてないみたいだった。なぜ?
その後も、ひっそりと絵として過ごそうとしたら、全く逆の展開になってしまう。
“絵を守るために絵に入った男の絵”という、かなりカオスな芸術としてその評価を高めてしまい、世界中から沢山の観覧者を集めてしまった。
しかも僕はその勇気を讃えられて、『絵』として初の国民栄誉賞まで貰えた。
てか、出してよ たのむわ
泣訴ネコ紙っすわー ほんとマジ。
そして何回かの満月が涙で滲んだあと、ようやくあの猫が聖なるマタタビを手に入れたようだという情報がネコづてにこちらまで伝わってきた。
やっと出れるっす😭
だがしかし、そこからが長かったのである。
せっかくあの猫が美術館まで戻ってきてくれたのに、僕のあとに雇われた事情を知らない新人警備員のひとが、その猫が館内に入ろうとするのを完全に阻止してしまい、しかも、その光景が微笑ましいということで話題となり、バズってしまい、人気者とあいなりまして、毎日あの手この手で攻防戦を繰りひろげてお茶の間を喜ばせてるじゃあございませんか。
んー、めでたし、めでたし、って、ちゃうやろ
たのむから
僕を
出してけれ……
おねげーします(T_T)
絵の中でそんな僕はほぼムンクの叫びになってしまって、
さらに価値がついたとさ😵
(次の仕事へと)つづく
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