Love in motion(動きの中に愛がある) 生命パワーを取り戻すエクササイズ

からだ

第1話 希望の呼吸

 雨上がりの朝、僕は胸が重く、何かを失ったような感覚で目を覚ました。昨日までの自分は、目の前にある仕事をただ片付けるだけの日々に埋もれていた。けれど今朝、僕はどうしても外に出たくなった。何かを探しに――。


 街を歩くうちに、小さな古書店の前で足を止めた。僕の目に飛び込んできたのは、一冊の薄い本だった。表紙にはこう書かれている。

「生命パワーを取り戻すエクササイズ――呼吸の秘密」


 なぜだろう、その本を手に取ると、僕の胸にひとすじの温かい風が流れたような気がした。店主の微笑みを背に、その本を抱えて帰路につく。


 部屋に戻ると、本に書かれた通りに呼吸法を試してみた。まずは、胸を横に広げるように息を吸う。胸郭が広がり、僕の中で閉じ込められていた空気が一気に解放される感覚。次に、胸を縦に広げるように深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そのときだった――。


 目の前の景色が淡い光を帯びて変わった。カーテン越しの光は輝きを増し、散らばっていた本やノートが一つのパズルのように秩序を持ち始める。なんだろう、この感覚は?


 息を吸うたびに僕の中の空虚が満たされていく。そして吐くたびに、心の奥に隠れていた感情が浮き上がる。


 その翌日、僕はいつも通り仕事に向かった。けれど、呼吸法を実践していたおかげで、周りの景色が違って見えた。オフィスに入ると、同僚が話しかけてきた。


 「最近、顔色いいね。何か変わった?」


 僕は少し驚いたが、「呼吸を深くするようにしたんです」と答えた。彼は笑いながら「そんな簡単なことで?」と言ったが、内心、僕は確信していた。呼吸を変えるだけで、僕の現実が変わり始めているのだと。


 昼休み、僕は公園で呼吸を試してみた。目を閉じ、胸を大きく広げる。吸うたびに感じるのは、生きているという感覚そのもの。そして、息を吐きながら思い浮かべたのは、これまでの人生で僕が感謝しきれていなかった瞬間たち。


 僕を支えてくれた家族のこと。温かく迎えてくれた友人たちの笑顔。失敗したけれど、それでも僕を見捨てなかった過去の自分自身――。


 息を吸い、そして吐く。そうするたび、胸の中にある重りが少しずつ溶けていく。


 夕方、帰り道で僕は気づいた。

 「幸せは外にあるものじゃない。僕の中にあったんだ。」


 僕はこの胸に命が宿っていること、それを使って生きる自由があること、そのすべてが奇跡なのだと知った。そして、これからどんな未来が待っていても、自分の幸せには自分で責任を持つと心に決めた。


 「さあ、もう一度息を吸おう。僕は、幸せになるために生まれてきたのだから。」


 夜空を見上げ、僕は胸を大きく広げた。希望の呼吸は、僕の人生に新しい風を吹き込んでくれたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る