転生令嬢のメイドは「初めてのXXX」を増やしたい!

早川映理

第0話

 今日は、異世界からがやってくる日なんだ。

 しかも記念すべきなのだ。

 ハルパレート公爵邸の人間は、今さらもう驚かない。

 いつも通りの晴れの日に、公爵令嬢——ヴァイオレットはいつも通りにうっかり階段から落ちて、いつも通りに異世界からやってくる誰かと魂を入れ替わるのだ。

 始めて異変に気付いた時、みんなは魂が入れ替わることも知らず、ただヴァイオレットの前世の記憶が蘇ったのではないかと思ったが、しばらくしてそうではないことが判明された。

 なぜなら、ヴァイオレットのはいつも違う人からだ。

 この世界はどうやらずっとループしている。 しかも、ハルパレート公爵邸と関わりのある人間しかこのことを覚えていないらしい。何度も繰り返すと、さすがに世界の真理シナリオが少しずつ見えてきた。

 ヴァイオレットは次期侯爵当主——ランス・モンテリエという婚約者がいるが、ランスが本当に心を許すのは幼馴染であり、国の聖女――リリアンナである。ヴァイオレットはこんなリリアンナに嫉妬するあまり、手段を選ばず彼女を陥れようとした挙句、モンテリエ家に婚約破棄された。

 というのはただこの世界の基礎知識しかないのだ。

 以上のことから、ヴァイオレットはいわゆる悪役令嬢のポジションに当たるのが概ね推測できる。

 ところが、誰もこんな悪女を実際に見たことがない。

 なぜかというと、この世界は異世界バージョンのヴァイオレットが覚醒した日から始まるからだ。そして、その日は彼女が婚約破棄された日でもある。

 婚約破棄されて間もなく、ヴァイオレットは王太子殿下と出会う。共通認識とは違い、異世界ヴァイオレットはみんな心優しい人なので、ループのことに覚えがない王太子殿下は毎回毎回ヴァイオレットを好きになって、婚約を結ぶのだ。

 これこそがこの世界の本当の真理シナリオだ。

 そして、ヴァイオレットと王太子殿下の婚約締結を祝うため、国史上最も盛大なパーティーが開かれた後、この世界がリセットし、一番最初のところ転生者がくる日からやり直すわけだ。

 ヴァイオレットの中身は毎回違うので、世界がリセットする際に、この世界の人々は大なり小なりの影響を受けている。

 しかし、西にある別邸でメイドとして勤めているミアときたら、事情が少し変わる。

 なぜかというと、彼女は初日で死ぬ運命なのだ。

 陰謀でも、誰かに害されることでもない。死因はただの病気。どうやらミアは子どもの時からずっと病弱である。

 そんな彼女の人生は異世界ヴァイオレットとはまるで無縁なもので、交じることのない平行線だった。

 一回目であろうと、百回目であろうと。

 そうなはずなのに。

 百という数字の魔力なのか、ミアは今日で新たな運命に出会う。

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