第54話 確認

「さーて、さっそくシミュレーターやるかな」


 テーブルに、北海道のおみやげを並べたみくこちゃんが、背伸びして言う。


「まぁ、もう少しゆっくり休めよ」


 お茶を飲みながら、言うアファエル。


「いや、もっと順位を上げたいの」


 ストレッチするみくこちゃん。


「休むのも、訓練の内だよ」


 と、アファエルが言うが、


「ありがとうアファエル。ちょっと借りるね」


 アファエルの寝室に向かうみくこちゃん。


「うん。疲れたら、すぐ休めよ」


 そう、アファエルが気遣う。


「わかってるわ」


 手を振るみくこちゃん。


「あっ、わたしが見てるから」


 立ち上がって、アファエルの寝室に入るわたし。


「おう、たのむ」


 わたしの背中に、声をかけるアファエル。


「さーてと」


 シミュレーターの、シートに座るみくこちゃん。


「その前に、イイかな?」


 わたしが止める。


「ん? どしたの?」


 首を、かしげるみくこちゃん。


「あなた、さわちゃんじゃないわよね」


 ストレートに、聞くわたし。


「えっ、なにを言って───」


 目が点になるみくこちゃん。


「わたし、さわちゃん本人から聞いたの」


 そう、わたしが言うと、


「………あの、おしゃべりおばさんが」


 悪態をつくみくこちゃん。


「違うの」


 首を振るわたし。


「えっ?」


「そのヘッドマウントディスプレイを外した時、髪が崩れてね」


 ビックリして、腰を抜かすかと思ったわ。


「そんなことで、バレたんだね」


 苦笑いするみくこちゃん。


「その前から、怪しかったけどね」


 ホクロの件とかね。


「そうなの。で、どう?」


 腕組みして、開き直るみくこちゃん。


「わたしは、このことを誰かに話そうとは思ってないの」


 正直に話すわたし。


「へぇ、そうなんだ」


 驚きを、隠せないみくこちゃん。


「ただ」


「ただ?」


「条件が1つあるの」


 これだけは言いたい。


「お金なら、ないわよ」


 肩を、すくめるみくこちゃん。


「そういうんじゃなくて」


 首を、振るわたし。


「だったらなに? 奴隷にでも───」


 鼻で、笑うみくこちゃん。


「さわちゃんは、レースに出たがってる」


 と、さわちゃんの気持ちを言うと、


「えっ?」


 首を、かしげるみくこちゃん。


「次のレースが無理でも、10月のレースから、さわちゃんに変わって欲しい」


 そう、かわりにお願いするわたし。


「なにそれ。イヤだって言ったら?」


 口角を上げるみくこちゃん。


「その時は、みんなに言う」


 不本意だけど、仕方ない。


「そんなことをしたら、さわもタダじゃ済まないわよ」


 少し、語気を荒げるみくこちゃん。


「さわちゃんも、覚悟出来てるわ」


 冷静に、そう言うと、


「む………」


 考えこむみくこちゃん。


「ねぇ、お願い」


 頼み込むわたし。


「わかったわ。次のレースで引退する」


 ため息まじりで、言うみくこちゃん。


「ありがとうみくこちゃん」


「あーぁ、仕方ないわね」


数日後



「あれ。おい、さわ頭どうした?」


 アファエルの家に来たみくこちゃん。

 ここ数日、シミュレーター漬けの毎日をおくっている。


「ちょっと、イメチェンよ」


 ベリーショートにしたみくこちゃん。


「そ、それならイイけど」


 ちょっと引くアファエル。


「似合ってない?」


 右手で、後頭部をクシャッとするみくこちゃん。


「いや、ちょっとビックリしただけ」


 苦笑いするアファエル。


「えっ、どうして?」


 不思議そうな顔をするみくこちゃん。


「いや、プリムが。まぁ、入ってみろよ」


「うん」


 アファエルについて入るみくこちゃん。


「こんにちは。あれ!?」


 さわちゃんが、みくこちゃんの頭を見てビックリする


「こんにちは」


 口角を、上げるみくこちゃん。


「どうしちゃったの?」


 みくこちゃんの、頭を指差すさわちゃん。


「いや、そのセリフこっちもだし」


 さわちゃんの、頭を指差して笑う。

 同じヘアだ。


「わたくしのは、アレだし」


 小声で、言うさわちゃん。


「切ったのよ。これは次こそは勝つという気合いの表れよ」


 親指を立てるみくこちゃん。


「そうなの。そこまで」


 胸を、押さえるさわちゃん。


「当たり前よ。負けっぱなしで、終われないもの」


 ニッコリと、笑うみくこちゃん。


「うん、そうだよね」


 さわちゃんも、親指を立てる。


「おーい。お茶飲むか?」


 アファエルが言うと、


「うん、後で。よーし、さっそくやるわよ」


 気合いを入れるみくこちゃん。


「うん」


「さーてと」


 レース当日になって、予選が行われている。


「今回は、上位に入れるかなぁ」


 心配になるさわちゃん。

 アファエルの家で、わたしと三人でテレビ画面を見ている。


「大丈夫だよ。あんなに練習したんだから」


 わたしが、そう言うと、


「だよな」


 余裕があるフリをするアファエル。


『桜乃島、噴煙をあげている島から火の国を周回するこのレース』


 ステージ上の司会者が、そう言うと、


『運悪く、火山灰を吸い込んで、エンジンがストールしてしまう機体はあらわれるのか!?』


 不適切なことを、大声で言うミキハちゃん。


『ミキハさん、レース前に縁起でもないことを言わないでくださいー』


 苦笑いする司会者。


『テヘ、ペローン』


 思い切り、舌を出すミキハちゃん。


「ってか、ミキハちゃん新学期始まっているのに」


 ステージ上で、はしゃぐ姿を見て、首をかしげるわたし。


「完全に、そっちに進む気かな」


 さわちゃんが、気にかける。


「うーん」


 腕組みするわたし。


「さあ、レースが始まるぞ」


 アファエルが、画面に釘付けとなる。


「さわちゃんは、5番グリッドからね」


 と、わたしが言うと、


「おう。上位を狙えそうだ」


 親指を立てるアファエル。


「そうね」


 わたしは、みくこちゃんになにかイヤな予感を受けた。


「今回は、やれるさ」

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