第53話 偽るCA
「あのねアファエル」
次の日、わたしとアファエルは、空港に車で迎えに行く。
「うん」
ミラーを確認しながら、車線変更をするアファエル。
「やっぱり、また今度話すよ」
空港の駐車場に到着するわたしたち。
「そうなんだ? そうそう昨日会ったあいつら」
バックで、停めるアファエル。
「メゾビアル選手と、かキちゃん?」
スイーツカフェで、偶然出会った二人。
「うん。元気そうで、よかったなって。カジハラは、靭帯損傷で松葉づえだし」
二人とも、本来は北海道でシュナウザーカップに出場していたはずだが、ケガの為に出走取消となっている。
「かキちゃんは、腕の打撲と脱臼だってね。よくそれで、ダイバカップ3位に入れたよね」
見た目に似合わず、強靭な精神の持ち主なかキちゃん。
「だよな。やっぱ上位を狙うとなるとケガは避けられないのかもな」
しみじみ言うアファエル。
天空の格闘技だ。
「アファエルは、当て方が巧かったよねー」
ジョッキーの、腕が試されるオーバーテイク。
「えっ?」
「絶対に、人に当たらないようにブツけてたよね」
ちゃんとした車幅感覚があればこそ、相手の機体を押し退けることが出来る。
「あぁ。まぁ、そうだな。バレてたのか」
苦笑いするアファエル。
「もちろん」
ずっと見てきたからね。
「アトラフィルさんには、かなわないな」
肩を、すくめるアファエル。
「アハッ」
空港のロビーまで来ると、
「二人とも、来てたのね」
なんと、CA姿をしたレクラちゃんが、わたしたちに声をかけて来た。
「えっ、レクラちゃん。その格好は」
と、わたしが聞くと、
「うん、そう。これからLAまでフライト」
今から、アルバイトと言うレクラちゃん。
「そうなんだ。わたしたちは、プリン選手を迎えに来たの」
アファエルと、空港に来た理由を言うと、
「あぁ、さわちゃん北海道から戻って来るのね」
そう、言うレクラちゃん。
「………うん」
微妙な反応になるわたし。
「さわのヤツ、北海道旅行でもやって帰ってくればイイのに」
首を、かしげるアファエル。
「そうよね。レースの翌日に帰って来なくてもね」
苦笑いするレクラちゃん。
「だろう?」
「会いたい人が、いるんじゃないかな」
わたしが、そう言うと、
「えー、もしかしてアファエル?」
上目遣いするレクラちゃん。
「さわが、オレに会いたい? 絶対ないよ」
両手を振って否定するアファエル。
「そうなの? 私は、フライトから帰ったらアファエルにすぐ会いたいわ」
ウインクするレクラちゃん。
わたしの目の前で、あからさますぎるでしょ。
「あの、それってどういう?」
たじたじになるアファエル。
鼻の下が、伸びてるよ。
「アハッ。時間だから行くわね」
キャリーケースを引きながら、振り返るレクラちゃん。
「お、おう。気をつけて」
手を、振るアファエル。
「ハーイ」
振り返すレクラちゃん。
「行ったわね」
「迎えに来てくれたのね」
みくこちゃんが、キャリーバックを引きながら出てくる。
「おう」
腕組みして、迎えるアファエル。
「アトラフィルさんも」
わたしの顔を見るみくこちゃん。
「うん。無事にレースが終わってよかったね」
昨日の、二人の顔が頭をよぎる。
「よかった、のかな」
苦笑いするみくこちゃん。
わたしたちの後ろを、ついてトボトボと歩く。
「えっ?」
振り返るわたし。
「二人少ないのに、順位が前と変わらないなんて」
頭を、押さえるみくこちゃん。
「ハハハ。グチは帰って聞くぞ」
空港を出る。
「うん」
「来月も、レースがあるよね」
キャリーバッグを、車に積み込んで帰路につく。
「セプテンバーね。帰ったら、シミュレーションをしなきゃ」
気合いを入れるみくこちゃん。
「さわ、熱心だな」
感心するアファエル。
「アハッ」
口を、押さえるみくこちゃん。
「帰ったら?」
つっこむわたし。
「あー、アファエルの家ね。あたしの家じゃなくて」
あたふたするみくこちゃん。
「そうよね」
目を閉じるわたし。
「うん」
「よし、急いで帰るぞ」
高速を走る。
「イエーイ」
「昨日ね、スイーツショップに行って、クロワッサンコロネの、アンノウクリームを食べたんだけど───」
と、昨日のことを話そうとすると、
「ずるーい。食べたい食べたいー」
駄々っ子みたいになるみくこちゃん。
「途中で、テイクアウトするか?」
そう、アファエルが言うと、
「イイねー、おいしかった?」
機嫌がなおるみくこちゃん。
「うん、たしかにカスタードクリームを越えたってキャッチは、伊達じゃない美味しさだったよ」
超絶なめらかで、本当にさつまイモかと思うような食感ね。
「楽しみだわー」
「なんか、たくさん買ったな。食べきれるのか?」
車で、待っていたアファエルの元に、わたしとみくこちゃんが買って戻る。
「もちろん、食べきるよ。減量の反動よ」
なぜか、得意げなみくこちゃん。
「まぁ、食べすぎないでね」
と、わたしがチクッと言うと、
「うん、みくこにも分けてあげる」
留守番している、さわちゃんに渡すと言うみくこちゃん。
「あー、なんだかんだ仲良くなったわね。あんなにいがみ合ってたけど」
言いやすいように、わたしがもっていくんだけど、
「そ、そうよね。あはは」
誤魔化すみくこちゃん。
「まぁ、なんだかんだ仲良くなって、安心したぜ」
重い空気を察して、アファエルが言う。
「そうよね」
わたしが、みくこちゃんを見ると、
「それはそうと、あたしのレース見てくれた?」
思い切り、話題を変えるみくこちゃん。
「あっ、悪りいなバイトで」
苦笑いするアファエル。
「えーッ」
口を尖らせるみくこちゃん。
「わたしは見たよ」
現地まで行けないけど、同期の活躍は見ないとね。
「ねぇ、どうだった?」
わたしの顔を、体をひねって見るみくこちゃん。
「うーん。北海道は、景色がよかったわ」
ちょっと、スカすわたし。
「そっちか」
頬を、ふくらますみくこちゃん。
「アハッ、冗談よ」
大笑いする。
「よし、家についたぞ」
「ただいまー」
アファエルが、玄関のドアを開けると、
「お帰りなさい」
さわちゃんが、出てくる。
「コレ、おみやげね。みくこに」
みくこちゃんが、紙袋をさわちゃんに渡す。
「ありがとう。ちょっ、北海道みやげは?」
唇を、尖らせるさわちゃん。
「おぉ、なんか買ったか?」
と、アファエルが聞くと、
「そりゃあ、まぁ」
キャリーバッグを、トントンと叩くみくこちゃん。
「さすが、さわ」
感心するアファエル。
「フフン」
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