第44話 花器

『ゴーーール』


 司会者が、大声で叫ぶ。


『けっこう、最終周は、もつれましたね』


 ミキハちゃんが、実況リポーターっぽいこ

とを言い、ステージをなごませる。


『そうですね。着順は、くろいつ選手、モエノチューボー選手、かキ───』


 と、アナウンサーが順位を言う中、


「花器ちゃん3位かぁ」


 貴賓室から、ステージを見下ろすアファエル。


「アファエルとは、どんな関係なの?」


 そう、わたしが聞くと、


「あいつ、1つ後輩なんだよ」


 かわいがっていた後輩だと言うアファエル。


「そうなんだね」


 アファエルの姿を、重ねるわたし。


「かわいいヤツでさ」


 と、アファエルが思い出を話そうとしていた時に、


「あっ、さわちゃん帰って来たわ」


 わたしたちの目の前を、飛んで通りすぎるさわちゃん。


「さわのヤツ、8位かぁ」


 スタートの順位より、1つ下がってしまった。


「ちょっと、残念だったわね」


 スタートダッシュで、順位を上げただけに、もったいないレースだった。


「まぁ、初戦は、こんなモンでしょ」


 冷静に分析するアファエル。


「ねぇ、これから会いに行かない?」


 レクラちゃんが、そう言うと、


「おう。オレも、そのつもりだ」


 アファエルが、パッと立ち上がる。


「よっしゃあ、行こう!」


 かすみちゃんが、右手を上に突き上げ、伸びをする。


「あれ、さわちゃんの周囲に」


 広い通路の、ポツポツと照明がある通用口の壁際に、さわちゃんを囲むように、カメラを持つ人と、となりにもう1人男がいる。


「どうですか、初戦が8位ということで?」


 そう、ディレクターがレース後の聞くと、


「う~ん。アファエルみたく、うまくはいかないね」


 苦笑いするさわちゃん。


「アファエル選手は、たしか初戦が3位と、上々の滑り出しだったですが?」


 ディレクターが、いらないことを言うと、


「はい。たしかに、実力差を感じる結果となってしまいました」


 あからさまに、落ち込むさわちゃん。


「これからの目標は、どうでしょう?」


 そう、ディレクターが言うと、


「もちろん、新人王という目標を、変える気持ちはありませんし───」


 目標を見据えて、がんばると言いきるさわちゃん。


「なんか、取材中だね」


 さわちゃんに近寄らず、距離をとって眺めるわたしたち。


「おう。なんで、8位なのに取材を受けているんだか」


 首を、かしげるアファエル。


「たしかにね」


 本当に、なんだかなって。

 さわちゃんは、スマートフォンを没収されて連絡が取れないし。


「それだけ、期待されてんじゃね?」


 かすみちゃんが、そう言うと、


「だよね」


 納得するわたし。


「目標は維持するということですが………あっ、アファエル選手! アファエル選手が今、親戚であるプリン選手のもとに駆けつけました。これから、どのような話が聞けるのでしょうか?」


 ディレクターが、アファエルの姿を見るや、手招きする。


「ねぇ?」


 アファエルが、ディレクターの耳元で聞く。


「はい?」


「これ、生?」


 と、アファエルがカメラを指差し聞くと、


「いいえ、密着ドキュメントです」


 小声で、答えるディレクター。


「あー、はい。それじゃあ、オレが出るとマズいよね」


 少し、後退りするアファエル。


「いえ、逆に出ていただけると、ありがたいですぅーーーー」


 引き留めるディレクター。


「そうなの?」


「はいぃーー」


「うん。よくやったな、さわ」


 事態を飲み込んで、編集点をつくるアファエル。


「はい」


 苦虫を、噛み潰したような顔になる。


「まぁ、順位はアレだったけどさ。今日は、海からの風が強くて、コンディションがアゲインストで、悪かったから、よくがんばったよ」


 健闘を、たたえるアファエルだが、


「なにそれ、テレビ用?」


 口角を、上げるさわちゃん。


「なッ!? 素直に受け取れよ」


 図星を突かれて、ビクッとなるアファエル。


「アハッ、冗談よ」


 大笑いするさわちゃん。


「ったく、口だけは一人前になりやがって。ビリだったら実家へ戻ってやりなおせって言えたのに」


 東北の実家に帰れと、言いそびれたアファエル。


「えー、せっかく東京に出たのに戻らないよ」


 ベロを、ペロッと出すさわちゃん。


「あぁ、悪かったな」


 肩を、すくめるアファエル。


「さてと、めっちゃお腹すいたから、なんか食べたいね」


 ということを言って、空気を変えるわたし。


「おっ、イイな」


 乗っかるアファエル。


「それじゃあ、アファエル先輩のおごりで」


 さわちゃんが、悪い笑顔を見せる。


「わーい」


 レミアちゃんが、両手を挙げる。


「賛成」


 レクラちゃんも、ノリノリで言う。


「おいおい!?」


 固まるアファエル。


「ねぇねぇ、ドコ行こっかアファエル?」


 わたしも、調子に乗って言う。


「あんま、高いところは、やめてくれよ」


 顔は笑っているが、目が笑ってないアファエル。


「初陣のお祝いなんだし、ケチケチしなさんな」


 アファエルに、ピタッと密着するレクラちゃん。


「そうそう!」


 かすみちゃんも、ピョンピョン跳ねる。


「くぅ~。アルバイト代がぁ」


 アファエルの後ろから、お札が羽根を羽ばたかせ飛んでいく。


「アルバイト増やしておいて、よかったね」


 レミアちゃんが、アファエルをツンツン突く。


「そ、そうだねぇ」


 冷や汗が出るアファエル。


「アハッ、なに食べに行こうか?」


 と、わたしがみんなに聞くと、


「はーい、焼き肉」


 レミアちゃんが、元気よく言う。


「わー、賛成!」

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