第35話 小出社長
「例の件は、どうなっている?」
ジェイシグマの若き社長、
「例の件、とは」
タブレットから、社長の顔へと目線を移す秘書。
「アファエルだよ。ヤツはもう、復帰をあきらめたのか聞いている」
多少、あせりの色が浮かぶ小出社長。
「いいえ、まだ通学しているとの報告がありました」
と、秘書が答える。
「本当か?」
鋭い目付きだが、違和感がある。
「はい。ただ」
続ける秘書。
「ただ何だ?」
「現在、謹慎になっていると」
アファエルが、学校に行けてないと報告する秘書だが、
「うむ」
特に、驚きのない小出社長。
「ご存知でしたか?」
「当然だ」
口角を、上げる小出社長。
「え、あッ」
返答に困る秘書。
「自分が、仕掛けた」
すぐ、吐き出す小出社長。
「小出社長自ら。そうでしたか」
やっぱりと言う顔の秘書。
「謹慎処分になるくらいなら、やめると言うと思ったのだがな」
唇を噛む小出社長。
「………残念です」
どうやら、監視は続行だと悟る秘書。
「それじゃあ、次の一手を考えないとな」
両手の、指先だけピッタリ合わせる小出社長。
「はい」
緊張が走る秘書。
「さーて。どうしたものか」
その頃
「ただいま~」
アファエルのマンションに、プリムちゃんが帰ってくる。
「おう、おかえり。どこ行ってた?」
一応聞くアファエル。
「ちょっとね」
誤魔化すプリムちゃん。
「あぁ、そう」
「うん」
うつむき気味で、部屋に向かうプリムちゃん。
「なんか、めちゃくちゃ疲れてる顔をしてるぞ」
アファエルが、そう言うと、
「全然、大丈夫」
笑顔を見せるプリムちゃん。
「そっか。なにか食べるか?」
空腹を満たして元気にしようと思うアファエル。
「いや。ありがとう」
「あぁ。体調が悪いなら、一緒に病院行くか?」
もしもを考えるアファエル。
「いい。大丈夫だから。ちょっと寝る」
そう言って、部屋のドアを閉める。
「おう」
次の日
「さあ、いよいよ決勝だ」
特進クラスの、青ジャージ教官が生徒たちに言う。
「負けない!」
さわ(プリン)ちゃんが、決勝の相手に言い放つと、
「ほう。お主みたいに、人並み外れてタフな女性は、初めて見た」
褒めているようで、
「それは、どうも」
顔色一つ変えないさわちゃん。
「しかし、一切の同情、哀れみを排除する」
冷徹に、打ちのめすと言う対戦相手。
「あー、そうですか」
気に留めないさわちゃん。
「この決勝で、粉々に砕け散って、ただの肉片と、なりなさい」
冷静な口調で、とんでもないことを言う対戦相手。
「ヤッちまえ!」
「ぐぅの音も出ないほど、さしこめぇ!」
「仇を、とってくれぇ」
口々に、口汚く煽る生徒たち。
「あー、さわのヤツ、ろくな関係を築いてねぇな」
さわちゃんが、半笑いになる。
「やい、プリン!」
昨日、さわちゃんが倒した相手が、つっかかって来る。
「あ、なーに?」
さわちゃんが、目を細める。
「お前ごときが、決勝に残っているなんて、不自然でしかねぇ。絶対、生本番のレースで、叩きのめしてやるから覚悟しな」
この生徒は、普通クラスに落ちる15人には入っていない。
「もう、あっちでわめいてなよ。こっちは、集中したいの。わかったら、さっさとミルク飲んでなって」
シッシッと、手ではらう。
「なぁにぃぃ」
烈火の如く顔色を赤くする男。
「おい、これから決勝だから離れて」
青ジャージ教官が、手で合図する。
「お前ぇ、覚えてろ」
さわちゃんを、指差す男。
「知らないよ。もう忘れた。ベーーーーー」
舌を、突き出すさわちゃん。
「クソォ」
拳を、振り上げる男。
青ジャージ教官が、背中と左手を当てて静止すると、
「おい。暴力沙汰は、退学もあり得るぞ」
警告する青ジャージ教官。
「チッ!」
「さあ、初めようか」
教官が、合図すると、
『了解』
さわちゃんが、機体に跨がる。
『りょーかい教官』
決勝の対戦相手も、跨がる。
「やれェ! やっちまえ!」
『ガヤが、うるさいなぁ』
そう、つぶやくさわちゃんに、
『棄権するのか?』
煽る対戦相手。
「まさか。そんなわけないじゃん」
ため息を、吐き出すさわちゃん。
『だろうな』
鼻で笑う対戦相手。
「笑わせんなっての」
あきれるさわちゃん。
『お主の飛行データは、すでに分析済みだ。つまり、お主は私に勝つことは出来ぬ』
対戦相手が、余裕をぶっこいているので、
「はいはい、ほざいてなさい」
相手にしていないさわちゃん。
「よーい」
右手を挙げる青ジャージの教官。
「クッ」
口を、歪ませる男。
「………」
真っ直ぐ前を見るさわちゃんぽい人。
「スタート」
右手を、振り下ろす青ジャージの教官。
ルーザが、ストップウォッチを押す。
「ぅおりゃあああ」
いきなり、フルスロットルで飛ぶさわちゃん。
『なッ!?』
微妙に、遅れをとる対戦相手。
「油断したわね。普段のあたしと思っていたら、ケガするわよ」
機体を、相手の機体にぶつけるさわちゃん。
『ならば、磨り潰すのみ』
アクセルをゆるめて、かわす男。
「アハッ! やれるもんなら、やってみなさいってんだ」
対戦相手に、バーナーを浴びせるさわちゃん。
『クッ。熱ッ』
さらに、間合いをとる対戦相手。
「そのまま、丸コゲになっちゃえ!」
アクセルコントロールで、火球を出すさわちゃん。
『回避する』
巧みに避ける対戦相手。
「へぇ」
見下ろすさわちゃん。
『ハーッ』
機体下部の、バーナーボックスに、機体の肩をぶつける対戦相手。
「クーッ。スピンさせる気ね」
バランスを、崩しそうになるが、立て直すさわちゃん。
『耐えたか』
しまったという顔をする対戦相手。
「甘いのよ」
『しかし、スピードは、スピードだけはッ』
なんとか、さわちゃんを追い抜こうと、ストレートで加速するが、
「だぁぁぁああ」
徹底的に、コースを潰すさわちゃん。
『なっ、そんなムーブ! お前は本当に』
目玉が、飛び出そうにひん剥く対戦相手。
「ゴール」
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