第24話 ドキュメンタリ

新芽しんめ光希みきはさん16歳。彼女は今年の春───』


 亀崎教官が、授業を始める前にと言ってテレビを点けて、ディスクをプレーヤーに入れると、一週間前に撮影した動画で、


「わぁ、この前の映像が出来たんだね」


 わたしは、ワクワクしながら画面にクギ付けとなる。

 しっかりと、ナレーションが入っていて、見ごたえはありそう。


「あれ、ミキハちゃんが主人公みたいな感じ?」


 レミアちゃんが、カメラワークから、ターゲットがミキハちゃんだと気付く。


「そうだね。この学校のPRじゃなかったんですか教官!?」


 レクラちゃんも、納得いっていない。


「そのはず、だったが………」


 腕組みする亀崎教官。


『入学して知り合った礼美レミアさんと恋空レクラさんとは、打ち解けて仲良し』


 と、ナレーションが続き、


「もう。撮影、大変だったんだから」


 一週間前を、思い出すミキハちゃん。


「いつも通り、コンビニエンスの店員さんをやってくれたらイイからぁん」


 ディレクターさんが、コンビニの店内で指示する。

 お客さんに、わからない位置にカメラをセッティングしていく。


「あっ、ハイ」


 緊張の面持ちで聞くミキハちゃん。


「んー。おい、もっとライトこっち!」


 ディレクターさんの激が飛ぶ。


「ハイ、すいやせん!」


 ライトの向きを、微調整する。


「それじゃあ、カウンターに入ってレジを打って」


 と、お客さんを押し退けるディレクターさん。


「あっ、こうですか?」


 いつものように、バーコードを読み取るミキハちゃんだが、


「うーん。表情が、か・た・い、うーん」


 首をひねるディレクターさん。


「こんな感じですか?」


 口角を、上げるミキハちゃん。


「もっと、笑顔で」


 ディレクターさんが、ギラギラした笑顔を見せるので、


「こんなんでどうでしょう?」


 これでもかと、エアロビ選手のような笑顔をつくるミキハちゃん。


「ちょっと、笑顔が不自然。うーん」


 また、悩みこむディレクターさん。


「あの、どうすれば?」


 困った顔に、なってしまうミキハちゃん。


「普段通りね。あくまで普段通り」


 肩を、勢いよく上下するディレクターさん。


「あの」


「うん?」


「普段、無表情でレジ打ってますが」


 突然、カミングアウトするミキハちゃん。

 しかし、


「そんなわけない」


 なぜか、断言するディレクターさん。


「へっ?」


 目が点になるミキハちゃん。


「スマイル! スマイル!」


 両手で、ガンバルポーズをするディレクターさん。


「はぁ」


 ディレクターさんの、テンションに付いていけず、苦笑いすると、


「そうそう、もっと笑ってキープ!」


 苦笑いを、キープするように求めるディレクターさん。


「ひはっしはいあせ」


 引きつるミキハちゃん。


「そう!」


 どうやら、こういうのが欲しかったらしい。


「もう、大変だったわよ」


 ため息を吐くミキハちゃん。


「そう言えば、登校でも」


 アルバイトのシーンから、朝のルーティンに場面が変わる。


「電車の中から、撮影するから、いつも通りでお願いしますね」


 実際の通学電車を使って撮影した。


「はい………」


 周囲の視線が集まる。


「それじゃ、よーいスターツ」


「なんだか、撮影されていると、緊張しちゃうわね」


 わたしが、そう言うと、


「それが、とにかく笑って欲しいらしいよ」


 ウンザリした様子で、話すミキハちゃん。

 なにがあった?


「いや、あーし、なにもなしに笑えないし」


 かすみちゃんは、いつも通りマイペースだね。


「じゃあ、こう」


 レミアちゃんが、かすみちゃんの脇腹をくすぐる。


「わー、くすぐんなし」


 大笑いするかすみちゃん。

 ちょっと、さわちゃん寝てるよ。


「おりゃー」


 さらに、白目をむきながら、くすぐるレミアちゃん。


「イイの撮れたわ。それじゃあ、次は電車を降りるところのシーンを、欲しいわ」


 次々と、要求してくるディレクターさん。


「こうでしょうか」


 集団で降りるのを、横から撮る。


「もう1回乗って、希望に満ちた感じで」


 ミキハちゃんだけ、電車に戻すディレクターさん。


「はぃぃ」


 一人で、電車を降りるミキハちゃん。


「もう1回」


 手を、クイクイと動かすディレクターさん。


「えっ、もう電車が」


 ミキハちゃんが、電車に乗ったところで、プシューとドアが閉まる。


「あっ、ちょっ。撮影中よ」


 車掌に、文句を言うディレクターさん。

 いや、貸し切りじゃないし、そうなるでしょうよ。


「あったあった」


 腹を、かかえて笑うかすみちゃん。


「おかげで、遅刻しちゃうし」


 ムッとするミキハちゃん。


「学校の中でも、色々あったね」


「そうそう、機体が浮き上がるところを何テイク撮られたか」


 授業中も、関係なく撮影は行われて、


「2日分の授業が、丸つぶれだったねー」


 ドローンの調子が悪くて、外の撮影が2日がかりとなってしまった。


「あーしなんか、2日間全然乗れなかったわ」


 ほっぺを、膨らますかすみちゃん。


「わたしも。ただ、見上げる生徒みたいな謎のポジションで」


 わたしはわたしで、ちゃんとカメラにおさまるように、やってはいた。


「特進クラスの連中も、ブーブー言ってたぞ」


 アファエルが、特進クラスのさわちゃんから聞いたことを話す。


「やっぱり」


「あっちは、授業時間が削られただけでなく、むさ苦しいから、撮影もしてもらえなかったってよ」


 苦笑いするアファエル。


「へぇ。通りで、映像に一切出て来ないね」


「だな。映っているのは、電車で一緒だったさわだけだ」


 この映像を、特進クラスの人たちも、見るのだろうか。


「しかも、うつむいていて、後頭部だけね」


 これじゃあ、誰かわからない。

 よかったのか、悪かったのか。


『ジョッキーを目指す彼女たち。この狭き門をくぐって、晴れ舞台に立てる生徒が出てくるのを、祈らざるを得ない』


 ナレーションで、締めくくって、映像は終わる。


「なんか、イイ感じに仕上がってはいるけど」


 少し、引っ掛かりを感じるわたし。


「なんか、苦労してますってのが、伝わったのかなコレって?」


 ミキハちゃんが、渋い顔をする。


「終始、ふわっとした感じに終わったね」


 レクラちゃんも、さすがに首をかしげる。


「入学者を増やす為だろうな」


 アファエルが、腕組みして言う。


「あー、そうだろねー」

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