第16話 校庭の桜

「グラウンドに、桜が咲いてるわ」


 外を見ていると、校庭の端に桜の木が穿っていて、満開に咲き海風にあおられ桜吹雪となっている。


「時間だ。これより、クラス分けのテストを行う。校庭の中央に集合!」


 メガネをかけて、青いジャージを着た男が、タブレットを片手に言う。


「はい………」


 小走りする男について行く。


「わぁ、近くで見るとデッカいなぁ」


 グラウンドの中央に1機、遠くの方に1機ジェットモービルがたたずんでいる。


「よし、横5名で整列してくれ」


 右手を、クイクイと動かす多々良。


「整列っと」


 前後を、見合いながら徐々に並んでいると、


「早くしろー」


「はいッ」


「声がちいさいぞ」


 激がとぶ。


「はい!」


「わたしは、教官の多々良だ。これから、名前を呼ぶから、順番にジェットモービルに乗ってもらう」


 そう、多々良さんが言うと、


「あの~」


 メガネをかけた少年が、おずおずと手を上げる。


「どうした?」


 不思議そうな顔をする多々良さん。


「ここって、乗り方を教えてくれる学校ですよね?」


 と、少年が聞くと、


「ああ、そうだ」


「僕は、ドゥフフ今まで、乗ったことがない、つまり初ですが」


 初心者に、いきなり乗らすのか聞く少年。


「そんなことか」


 些末事だと、あきれる多々良さん。


「そんなこと?」


「上手く乗れとは、言ってない」


 鼻息荒く言う多々良さん。


「えっ?」


「つまり、技量ではなく、センスを判断する」


 人差し指を立てる多々良さん。


「そんな、アバウトな」


 たまらず、つっこむわたし。


「イイから乗れ。話は、それからだ」


 少年を、指差す多々良さん。


「………」


 くやしそうな顔をする少年。


「返事」


「はい!」


 しぶしぶ、返事する少年。


「それでは、名前を呼ぶ。赤坂仁」


「はいッ!」


 手を上げる赤坂。


「乗って、ヘッドホンを付けて指示通りに動け」


「はいッ!」


 ジェットモービルの座席に跨がり、ヘッドホンを付ける。


『よし、右の脇腹のあたりに、プッシュスイッチがある。それを押せ』


 黒いマイクを片手に、指示する多々良さん。


「はいッ! 押します」


 凹んだところに、赤いスイッチがある。

 タービンが、回り始める。


『エンジン始動直後は、温まってないからスグには飛べない。でも、こいつはもう温めてあるからすぐ飛べる。まずは、座席の調整』


「はい」


『上にボタンがある。それで上下に調整できる』


 座席の高さを変えられて、140~200センチまでの身長に対応している。


「はい。どのくらいが、ジャストですか?」


『腹を、機体に密着させて、ヒジを曲げずにレバーを握る状態だ』


「なるほど、そうですか」


『もし、空中でバンザイしてしまうと、5秒後には、自動でパラシュートが飛び出すから、死んでもレバーは放すなよ』


 ジェスチャーする多々良さん。


「あっ、はぃ………」


『それじゃ、腰のベルトをかけろ』


「あっ、これなんか、幅が広いベルトですね」


 幅が、20センチほどあるベルト。


『ハメると、自動で巻き上げる』


「ぐぇぇ」


 キツく、締め上げて、機体と密着する。


『じきに慣れる。よし、レバーを握れ。放すなよ。右足のペダルを軽く踏め』


 次々と、出される指示に、少々パニックになる赤坂。


「はいッ!」


 グイッと、ペダルを踏んでしまい、逆バンジーの如く飛び出す。


『ちょっ、踏みすぎ』


「わぁぁぁぁぁ」


 悲鳴をあげる赤坂。

 みんな、スマートフォンで撮影会だ。


『ペダルを戻して、レバーを中立、ニュートラルに』


 多々良さんが、指示するが、


「えっ、どうすんの!?」


 色々、試してみる赤坂。


『大丈夫だ。墜落したりしない。両手はレバーから放すなよ。スタートボタンも押すなよ』


「えっ、スタートボタンを押せ?」


 つい、聞き間違える赤坂。


『バカ野郎。押しても、反応しないとは思うが』


 初期型では、エンジンが切れたらしいわ。

 コワッ。


「降りないです。助けて」


『微妙に、レバーを引いてるだろ。徐々にバックしてんぞ』


 多々良さんの指摘通りに、後退していく。


「わっ、わっ」


 今度は、左右交互に前に進む。


『ニュートラルに入れないと、ずっと振り子運動は止まらないぞ』


「はぃぃ」


 ようやく、ニュートラルに戻すと、


『よーし、降りだした』


 スルスルと降下して、着地する。


「よかった」


『よし、機体から降りて。次は校庭の端に、もう一人先生がいるだろ。そこに走って行け』


 プールがある方向に、別の教官がいる。


「はい」


『おい、ヘッドホンを持ってくな』


 ワイヤレスヘッドホンを、つけたまま行こうとする赤坂。


「あっ、すいません」


 外して、機体の上に置く。


「よし、あっちでは、もっと複雑な動きをするから、急いで行け」


「はい」


「よし、次! ………」


 と、順番に乗っていくのを眺めているわたしに、


「ねぇ、あなた」


 隣から、声がする。


「はい」


 金髪のギャル風の女性に話しかけられ、なにごとかと思うわたし。

 顔が整った白ギャルで、長いつけ睫毛、長い付け爪。


「あなた、どこの高校?」


 いきなり、出身高校を聞いてくるギャル。


「あっ、○○高校です」


「あー、だったら○△ってヤツ知ってる?」


 どうやら、わたしを同級生だと勘違いしているらしい。


「あっ、わたし18歳じゃないの」


 と、正直に言うと、


「えっ、年上か。みえなかったしー」


 白い歯を見せるギャル。


「そっ、そうかな」


 けっこう、うれしいものである。


「あーし、高校出たばっかりで。なんか失礼なこと言ってる?」


 なにか、気を使っているのか、いないのかわからない言い回しをするギャル。


「いや、むしろうれしいっていうか」


 正直に、気持ちを伝えると、


「あーし、手羽元かすみ」


 なにやら、変わった名前を言う手羽元さん。


「手羽元さんね。わたしは、丹生フウカっていいます」


 こっちも言わないと、失礼と思って言うと、


「フウカ姉さん、よろしくっす」


 軽く、ペコッとする手羽元さん。


「あっ、はい。よろしく」

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