第14話 元教官

「なぁ。オレやっぱレースに復帰したいわ」


 同期のカジハラと、メッセのやりとりをするアファエル。


『待ってたぜ、その言葉』

『しっかし、なんでいきなり気持ちが変わったんだ?』


 素朴な、疑問を持つカジハラ。


「うーん。今ウチに親戚の女の子が来てて、その子に触発されたっつうか」


 少し、ぼやかして言うので、


『へぇ。なんかうらやましいな。スペック教えろ』

『美人か? 年齢は?』


 妙な、さぐりを入れるカジハラ。


「チッ、変なとこに食いついてくんな童貞」


 悪態をつくアファエル。


『えっ、童貞じゃねぇ』

『いつから、レースに復帰するつもりだ?』


 話題を戻すカジハラ。


「早ければ、早いだけ」


 もう、すぐにでもレースがしたいアファエル。


『そうなんだ』


 少し、テンションが変化するカジハラ。


『一応、事務局の連中には話を通しておいた方がイイぞ』


 と、カジハラが送信して来るので、


「やっぱ、そうなるよな」


 めんどくさがるアファエル。


『謹慎が、途中だったろ。筋は通した方が、復帰までのロードマップを書きやすいんじゃないか?』


 よく事情を知るだけに、的確なアドバイスをするカジハラ。


「だよな」


望月もちづきさんがいたろ』


 突然、なつかしい名前が飛び出す。


「望月さんって、あの教官をしていた?」


 アファエルの記憶では、スキンヘッドの怒らすとコワい人だ。


『そうそう。あの人さ、今は理事になってるって話だぜ』


 7人くらいいる理事会の1人に、望月さんが入ったらしい。


「えっ、理事ってマジかよ。あのオッサン出世したな」


 教官からすれば、大出世だ。


『だよな』


「悪いけどさ」


 改まって送信するアファエル。


『なんだ?』


「口ききしてくれないか。望月さんが、理事になっているなら、そっちのルートで復帰できるかもしれんし」


 と、アファエルがカジハラに頼むと、


『うーん。協力はしてやりたいが、俺もイチ選手だからな。何の権限もねぇな』


 やんわりと、断るカジハラ。


「だよな。せめて、アポでも取って欲しかったが」


 ねばるアファエル。だが、


『悪いな。復帰を待ってるぜ』


 会話を、切り上げるカジハラ。


「おう、じゃーな」


 スマートフォンを、テーブルに置いてベッドに横になるアファエル。


「ふぅ。事務局に顔を出してくるか」


「なつかしいな」


 次の日。

 アファエルは、事務局のあるビルの前に立っている。


「いらっしゃいませ。お名前を、記入してください」


 かわいらしい声をした受付嬢だ。

 どこかのミスコンテストを優勝しているに違いない。


「はい」


 素直に、名前を記帳するアファエル。


「今日は、どのようなご用件でしょうか?」


 受付嬢が、聞くので、


「あの~、望月さんはおられますか?」


 少し、緊張しながら聞くアファエル。


「望月ですね。アポイントは取られて?」


「取ってないです」


 うつむくアファエル。


「かしこまりました。えーっと、望月は現在、会議中となっております」


 タブレットを確認する受付嬢。


「そうですか、いつごろ終わりますか?」


「こちらでは、ちょっと。お待ちになられますか?」


 と、受付嬢が聞くので、


「はい。待ちます」


 迷わず答えるアファエル。


「そうですか。望月が会議を終えた時は、お呼びいたしますが、今日はどのような?」


「会って直接話したいです」


 そこは、気恥ずかしさから答えないアファエル。


「はい、わかりました。今、会議が終わったようです。ロビーカウンターまで、呼びましょうか?」


「お願いします」


 ウンウンと、うなずくアファエル。


「はい」


「あの、もしもし。ロビーに三浦アキさまがいらっしゃって」


 内線電話をかける受付嬢。


『すぐ行くから、待ってるよう言って』


 素早い判断をする望月。


「はい」


「三浦さま」


 アファエルを呼ぶ受付嬢。


「はい」


「すぐ来ますので、そのままお待ちください」


 硬い表情を崩し、笑顔になる受付嬢。


「わかりましたー」


「おお、よく来たなクソッたれ」


 相変わらずの、スキンヘッドが出迎える。


「お久しぶりです」


 とはいえ、2年もたっていない。


「活躍は、耳にしてたぞ」


 アファエルの肩を叩く望月。


「ありがとうございます」


「思い出話を、しに来たんじゃあないよな?」


 毒々しい顔になる望月。


「はい」


 うなずくアファエル。


「会議室あいてる?」


 受付嬢に、確認する望月。


「5階503が、開いています。抑えますか?」


 タブレットを、操作する受付嬢。


「あぁ、たのむ」


「かしこまりました───」


 画面を、タッチする受付嬢。


「さあ、三浦くん行こう」


「はい」


 エレベーターで、5階まで上がると、オフィスのフロアを横目に会議室の前まで早足で歩いて、ドアをノックする望月。


「それでね、単刀直入に言えば、君は現役に復帰したいんだろう?」


 部屋に入るなり、イスに腰かけることなく話し始める望月。


「はい、復帰させてください」


 頭を下げるアファエル。


「それがねぇ。理事会で、君の復帰に難色を示している人がいてね」


 腕組みして、うなだれる望月。


「もしかして、ジェイシグマの」


 ある男の顔が浮かぶアファエル。


「あー、うー、まぁまぁ。それでね、理事会としての決定事項として」


 あきらかに図星をつかれて、誤魔化す望月。


「はい」


 一瞬、ダメかとよぎる。


「もう1度、学校からやるなら、復帰させてやっても、やぶさかでもないって」


 なんとか出た結論。


「エ゛ッ」


 あえて、棘の道を行って、恥ずかしめを受けろとの裁定だ。


「そうそう。ペナルティがキツいよね」


 同情する望月。


「特進クラスからなら」


 なんとか、模索するアファエル。

 それなら、最短で7月1日には再デビューとなるが、


「いや、もう普通クラスに決定してるんだスマンな」


 普通クラスは、1年間デビューはない。

 ひたすら、訓練の毎日だ。


「そんな! 絶対復帰させる気なんてないんですね!?」


 成績上位者だけが、本レースに出られる。

 狭き門だ。


「まぁまぁ、落ち着いて」


 半笑いで、制する望月。


「やってやりますよ。目にもの見せてやる」


 逆に、闘志を燃やすアファエル。


「ホホゥ。まぁ、よく考えて結論を出せな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る