第9話 似た者同士

「ところで」


 プリムちゃんに、そっくりな子と歩いていると、ふと聞きたいことが湧いてくる。


「はいな」


 明るく答える女性。


「アファエルのマンションに着く前に、確認したいことがあって───」


 と、言いかけると、


「えっ、なんでアキさんのマンションに向かっているのですか?」


 こっちも、詳しく話していなかったので、驚かせてしまったようだ。


「あっ、同居しているのよプリムちゃん」


 なにか、マズいこと言ったかな。


「ハアッ!? あいつ、一言もそんなこと言ってなかった!」


 歩きから、怒りが溢れてるよ。


「あー、うん。それで、なぜ会いに?」


 今さらながら、ヤバいかもと思い始める。

 やんわりと聞いておこう。


「いえ。それは、会ってから」


 右手で、手刀をつくる女性。


「そっ? まぁ、イイけど。このマンションよ」


 ちゃっかり、地図アプリにマーキングしていた。

 やっぱ大きいわ。


「うん。部屋まで案内して」


 さして、驚きもせず言う女性。


「わかったわ」


「ふぅ~ん。景色イイわね」


 エレベーターに乗って、アファエルの家の前まで着くと、


ピン………ポォーン


 チャイムに反応がない。


「そうね。あれ、留守かな」


 ドアノブをひねるが、当然開かない。


「ん………」


 腕組みする女性。


「どうしますか? 一旦、出直してみる───」


 と、言いかけると、


「帰ってくるまで、ここで待ちます」


 なんて、言いだすから、


「えっ。そうなんだ」


 固まるわたし。


「お姉さんは、どうもありがとうございました」


 そう言って、追い返すようなことを言うので、


「えっ、ほっといて帰らないわよ」


 もし、本人ならきっと頭を打って一時期に不安定になっているかも知れない。

 とても、置いていけないわ。


「どうしてですか?」


「いや、なんか心配で」


 答えを、はぐらかす。


「大丈夫です。プスッってやったりはしないので」


 口角を、上げる女性。


「いや、ますます離れられないわ」


 すっごくあやしいもの。


「あー、この前の」


 背後から、声がして振り返る。


「アファエルさん」


 アファエルさんが、こっちに歩いて来る。


「いや、メッセでも書いたけどさ、アレやってないのに、お金だけもらって悪かったね」


 手を合わせて、ウインクするアファエル。


「いえ、全然大丈夫です」


 実はあの後、約束の金額は払ってから、わかれたの。


「アキ兄ぃ、またそんな………」


 ひょっこりと、顔を出す女性。


「ゲッ!? お前、プリムじゃねぇな?」


 目を、丸くするアファエル。


「どういうこと?」


 プリムちゃんじゃない?

 だったら、この女って誰よ。


「アキ兄ぃ。立ち話もなんだから、中で話そうよ」


 ドアノブを、ガチャガチャと鳴らす女性。


「イヤだ」


 腕で、バツをつくるアファエル。


「なーんでよ」


 ドアノブを、強く引っ張る女性。


「お前、絶対プリムとモメるだろ。まぜるな危険」


 とりあわないアファエル。


「だったら、外でずーッと待ってる」


 手すりに、背中をあずける女性。


「それは、それで困る!!」


 見ていると、背中から外に飛び出しそうだ。


「だったら、中に入れてよ」


 背中をつけたまま、つま先で立ったりを繰り返し、ヒヤッとする。


「………仕方ねぇな。ケンカしないなら、入れてやるよ」


 仕方なく、折れるアファエル。


「全く、最初からそうしなさいよ」


「へいへい」


「なんだか、ごめんなさい」


 わたしが、連れて来たばかりに。


「いや、アトラフィルさん………隠したところで、すぐ居場所なんてバレるからな。ちょうど、よかったのかも」


 観念したように、首を横に振るアファエル。


「うーん」


「プリムが、いなくなったら、同棲でも───」


 アファエルさんが、小声でわたしに言う。


「ノドが渇いたなー」


 ソファーに、どっかりと腰をすえた女性が、飲み物を要求する。


「はいはい」


「同棲かぁ、うれしいかも」


 小声で、つぶやくわたし。


「はい、どうぞ」


「お茶?」


「クワの葉だってよ。実家から送って来た」


 薄い麦茶みたいなのを、コップに注いでわたすアファエル。


「へぇ~。それで、みくこはいつ帰ってくるって?」


「さぁ? バイトの面接に行くとか言ってたけど」


 帰宅時間までは、知らない。


「ただいまァ。あぁ、脱ぎたい」


 帰ってくるなり、下着姿になるプリム。


「ちょっと、あなたねぇ」


 ソファーから、立ち上がるプリムそっくりな女性。


「え゛ッ! なんで、がいるの!!」


 ビックリするプリム。


「おばさんって、わたし?」


 つい、自分に向かって言われたと思うわたし。


「違う」


 否定するプリムちゃん。


「おばさん言うなみくこ! お前、誕生日が一緒だろうがよ!」


 女性が、プリムちゃんにみくこと言っている。


「えっ、なにこれ。ねぇアファエル、これって双子ってこと?」


 と、少々混乱気味のわたしに、


「「ちげぇし」」


 声を合わせて、否定する二人。


「この二人は」


 アファエルが、なにか言おうとするが、


「「言うな!」」


 これも、声がそろう。


「えっ? なになんなの?」


「「マネすんな!」」


「いや、双子でしょ?」


 こんなの、どう見てもね。


「こんな、おばさんに似てるとか、ありえないし」


 プリムが、かなり怒った口調で言う。


「なにおおお」


 顔を、つき合って今にも、とっくみあいをしそうな勢いだ。


「ハァ~。だから、まぜるな危険なんだよぉ~」


 両手で、頭をかかえるアファエル。


「ねぇってば」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る