第7話

外は眩しいほどに太陽が降り注いでいる。今日も暑くなるらしい。どこかで塩飴でも買おうか、なんて話しながら駅に着いた。


切符を買って、改札口に通す。階段を上がってプラットフォームまで移動し、電車が来るまで座って待つ。ミーンミーンと蝉の鳴き声が聞こえる。夏だなぁと思ったが、けど暑いのは嫌だなと思い直した。


「飲み物買ってくるね。何がいい?」


「お茶がいいかな」


 すぐさま了承し、自販機の元へ歩く。お茶を2本買う。どちらもキンキンに冷えていて心地いい。


 またマシロがぼんやりしている。これはチャンスだと言わんばかりに首筋へ冷えたペットボトルをくっつける。


「ぎにゃ!」


「あっははは!変な声〜」


 またしても不満そうに眉間に皺を寄せている。このいかにも不満ですって顔が好きなのは、マシロには内緒にしておこう。


 ペットボトルをくっつけ返されたり、こちょこちょ攻撃をしてきたり、わちゃわちゃしていると、電車が到着した。ここから3駅先が水族館。水族館には何がいるだろう?魚の他にクジラやクラゲもいたりするんだろうか。


「ついた!水!族!館!」


「テンション高くない?アタシそこまで上げらんないわ……」


「だっていいじゃん!水族館だよ?!お魚いっぱい!かわいいよ〜!」


「うん、楽しみにしてたのはすっごく伝わるから。まずは入館料払わなきゃでしょ?」


 はっ、そうだった。浮かれてて頭から抜けてた。こういう時にマシロは冷静だから助かる。


チケットを購入し、中へはいる。順路通りに歩いていくと、山ほどの魚たちが出迎えてくれる。あじ、さんま、ヤドカリにタコ、エビやカニ……。その他にもいっぱい。あ、あれは


「マシロ! ペンギンいるよ!」


「お、ほんとだ。かわいいね」


 よちよちと歩く姿がとてもかわいい。隣にはヒナだろうか。毛色の違う小さなペンギンがいる。


彼らは、彼女らは、この場所に囚われていながら、優雅に泳ぐ。ここが彼らにとっての海であると主張するように、スイスイと泳ぎ回る。あぁ、なんだかとても……


「そろそろイルカショー始まるってさ」


 マシロの声ではっと我に返る。随分と考え事をしていたようだ。


「そうだねイルカショーも見に行こっか」


 イルカショーは圧巻だった。高く上がるイルカ、イルカの上に立つ飼育員さん、イルカと一緒に飛ぶ飼育員さん! どれも圧巻だった。自然と声が出て、泣きそうになってしまった。それくらい感動したのだ。


「次はクラゲの方に行こ」


 マシロはイルカショーはあまり好きじゃなかったんだろうか。まぁ好みは人によるからね。好きじゃないのに一緒に見てくれるなんて嬉しいなぁ。今度はマシロの見たいものを見に行こう。


 クラゲ。ふわふわ海中を漂うゼラチン質のドレスのよう。マシロはクラゲが好きらしい。ふわふわしていて最後には海に解けてしまう。時折不安になる。マシロが私の前から居なくなりはしないかと。それが不安で不安でたまらないのだ。


マシロは私の全てと言っても過言では無い。マシロが居なかったら、私は今ここに居られなかっただろう。


……そろそろ30分程経つ。クラゲコーナーを通り過ぎて、軽く食事にしよう。


「マシロ、ご飯食べない?」


「うん……」


「あんまりお腹すいてなかったり?」


「うん……」


「適当に返事してるでしょ。」


 マシロの目の前に立ちはだかって顔を覗き込む。


「ご飯食べよ?」


 少し驚いた表情で、そろそろそんな時間だねと頷く。


 昼食は何にしようかなぁ、と考えつつ歩いていると、この水族館にはレストランが併設されているらしい。ならばここで食べなきゃ損!ということでここに決めた。


「私カニ飯!マシロは?」


「アタシはホタテ飯かな」


 注文を済ませ、料理が運ばれてくるまで少し待つ。


「マシロ、ショッピングって何処でするの?」


「とりあえず、繁華街の方に行こうかなって思ってる」


「じゃあ次の駅ってことね」


「そう、また電車だけど」


「いいのいいの!何買おっかな〜!」


「1式全部買っちゃえば?靴も服も下着も全部」


「え゙、足りるかなぁ」


 足りなくてもどうにかなるよ、とマシロはからりと笑う。マシロに言われたら、本当にどうにかなる気がする。一先ず食事が最優先。目の前には美味しそうなカニ飯とホタテ飯。かきこまずにはいられないっ!


 美味しい、美味しいと頬張りながら、ふと周りからの視線に気づく。なぜだか私たちを見ている。まぁマシロは美人だからなぁ、見られるのも当然か。あまり考えずに視線は全て無視し、食事に集中した。

 

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