第34話 聖神像
エモニの作ってくれた朝食を食べ、なんとかユメとエモニの機嫌をとって家を出た。
今日は腰の両側に帯刀している。
いつも通り左にユメこと夢幻刀陽炎。
そして右には今日の朝再会した前世の愛刀、無限。
陽炎は鋭い刃が陽光を反射して煌めく美しくもどこか捉えきれない深みのある刀だ。対して無限は黒光りする刃が静かに威圧感を放っている。
さらに陽炎には魔力を通すと刀身が紫がかるというお洒落な性能がある。
無限にもそう言うギミックがあったりするんだろうか?朝試してみればよかった。
そんな違いを考えながら歩いていると、何だか今日は街の景色も違って見える。
いや、これは実際に違うな。
今日は一年に一度のお祭りだ。
「なあ、エモニ。成人の儀の日っていつもこんなに派手だったっけ?」
街にはイルミネーションのような何かや、提灯のような何かが煌めいている。
中世風のファンタジー世界に提灯は正直微妙だが、日本出身の俺からしてみれば刀を見たときのような感慨もあった。
こういうのを確か和洋折衷って言うんだっけか?まあ、どっちでもないんだけど。
「いや、今年は別だよ!ロティス、忘れたの?今年はこの街で初めて成人の儀が行われてから100年目の節目の年だって前にも言ったじゃん!」
そう言えば、そんな話を聞いた気がする……が全然記憶にない。
というか、成人の儀っていったい何をする日なんだ?
ゲームでは成人の儀が終わった夕方にこのゲーム『絶望勇者』はスタートする。
街はずれで待ち合わせをしていたロティスの元にエモニが行くと、そこに突然魔将ヒルウァが現れてロティスの命を奪い、何かが砕け散るような音と共にエモニが覚醒するという何とも酷いプロローグだ。
「そ、そうだったな……なあ、エモニ。成人の儀って……」
ゲームの展開はいくらでも思い出せるのに、エモニの話を思い出せないとは。
ゲームのエモニのセリフなら全部言えるのに!
「もうっ!本当に訓練中に話したことは忘れちゃうよねロティスって。まあでも、成人の儀って大層な名前だけど大したことはやらないよ?聖神信仰の神父さんの話を聞くだけ。そのあとはあの聖神像に一人ずつお祈りしておしまい」
「俺たち無信仰者もか?」
「そうだよ。この成人の儀がこうやって大規模に行えてるのは教会のおかげだから」
「ふーん、教会がどうして成人の儀に出資してるんだろうな?」
「それは……知らない」
まあ、その辺は大人の事情というやつがあるのだろう。
「のう、ロティス。この街に聖神像なる物があるのか?」
ユメが聖神像という言葉に強い反応を示した。
もとは邪神に振るわれたユメだ。
神には関心があるのだろうか?
「ああ、あるぞ。でも今日みたいな日じゃないと俺達無信仰者は拝むことができないんだ。教会の中にあるからな」
「ふむ、そうじゃったか。じゃが、おかしいのう。そんなものがあるならばワシが気付かぬはずがないのじゃが……」
「ん?どういうことだ?」
「ワシには邪神に振るわれた以前に、邪神によって作られた過去があるわけじゃ。じゃから神に関する物には反応するのじゃが……この街にそんな反応はないぞ」
「じゃあ、聖神の泉は?」
「ああ、それはあったの。じゃが、あれはもう残りカスのようなものじゃ。やはりこの街に聖神に関する物はない」
「ねえ、ユメちゃん。つまりどういうことなの?」
「その教会とやら、なにやら怪しい気がするのじゃ」
街の賑やかな喧騒とは裏腹に、俺達の間を静寂が支配する。
魔族アインがなんの異変もなくこの街に溶け込んでいたことには、関わりが深くなっていった結果見破ることができたが、全く関わりのない教会の人間はどうなのか。
わざわざ関係のない人間にまで聖神(偽)の像を拝ませる。
その時、俺の脳裏にあのグレムリンの魔方陣がよぎった。
魔族の魔法を植え付けられたグレムリン。
あいつらはどうやって魔法を植え付けられたんだ?
まさか……!?
突然の魔族の襲来もあの転移魔法なら説明がつく気がする。
グレムリンの魔法は対象を飛ばすものだったが、その逆の魔法があるとしたら……。
言うなれば、召喚魔法。
それがその神父の説法と像を拝むことで俺たちの身体に刻まれるのだとしたら……!
「エモニ、ユメ、その像を壊しに行くぞ!」
「ええっ!?」
「それが良いのじゃ」
驚くエモニとそうすべきと言わんばかりのユメ。
あのプロローグでロティスの目の前に魔将ヒルウァが召喚されたのはきっとその像のせいだ。
根拠は無い。だが、何故か確信とも取れる自信があった。
「善は急げだ!行くぞっ!!」
「え、えぇ!?ってロティス、そっちは教会じゃないよ!」
エモニの言う通り教会とは別方向へ走り出した俺。
もちろんイカれてしまった訳では無い。
「いいから、エモニも着いてこい!」
「もうっ!わかったよ!」
このわずかなやり取りのみでついてきてくれるエモニの横顔を見る。
迷いや戸惑いもありながら、確かに信頼という感情も見えるエモニの表情。
絶対に失敗するわけにはいかない。
この表情を見て、俺はその気持ちをより一層強めた。
そうして俺たちは街の外、ここ数年毎日のように通っていた場所へ向かった。
◇◇
「それで、ここからどうやって壊すの?」
俺たちが向かってきた先はいつも訓練をしていた場所だ。
もはや森の中のここは、普通に魔物も現れる。
「ユメの力があれば簡単に出来る」
「そういうことじゃったか」
ここまで言えば1度経験しているユメは理解したみたいだ。
対照的にエモニは頭いっぱいに?を浮かべている。
「エモニに見せたことはなかったよな。俺の空刃はわかるだろ?」
「うん……あのビュンってやつでしょ?」
うん?まあ武器をあまり使わないエモニから見ればそんなものか。
「そうそう。あれにユメの力を乗せて切ると――」
そこで意図的に言葉を止めてユメを構える。
もう、あの時のように溜めを作る必要も無い。
「魚谷流刀術『空刃』」
抜刀の鋭い音だけがその場に響く。
刃を振ったその先に現れたのはまるでダンジョンゲートのような小窓サイズの揺らぎ。
「………………なにこれぇぇぇぇぇぇ!?」
そういえばエモニはダンジョンゲートを見たことがなかったか。
「この先は教会の聖神像の真上につながっているはずだ。取り合えずちゃんとつながってるか確認してみよう」
「え?……え?ちょ、ちょっと待ってよ!なんでそんなさも当たり前ですけど?みたいな顔してるのっ!?」
完全に混乱しきっているエモニの手を取り、一緒に揺らぎの中に顔を突っ込んだ。
独特な感触が一瞬頬を撫でる。
そして揺らぎの先に映ったものは――
「「え?」」
図らずして、同時に声が漏れる。
その先で見た光景はあまりに予想外のものだった。
「これ……夢じゃないよね?」
エモニの疑問はもっともだ。
俺にも事情が全く理解できない。
そこにあったはずの聖神像は無残に砕け散り、床には粉塵と瓦礫の山が広がっているだけだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
今年は拙作をお読みくださりありがとうございます!
おかげさまで9月半ばから今日まで毎日投稿を続けてくることができました!
2025年も面白いお話が書けるように、より一層力を入れて執筆活動に臨んでいきますのでよろしくお願いします!
それではみなさんよいお年を!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白い、応援したいと思っていただけたら☆☆☆評価、フォロー、レビュー等していただけると嬉しいです!
本章の結末に向かって、もっと盛り上がってほしいので是非お願いします!!
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