第19話 指輪騒動

 最後にとんでもない爆弾を残したギルドマスターだが、受けると言ってしまった以上依頼請負人としての義務が発生してしまう。

 仕方ないと腹を括ると、今日はギルドを後にした。

 

 ギルドマスターに貰った指輪をなんとなく右手の薬指にはめて、ミリアときっといるだろうエモニの待つ家に帰った。


「あ、私のロティス!おかえり~何の話だっ――」

「ロティス~ギルドマスターさんなんだっ――」


 俺が扉を開けると左右から同時に出迎えてくれたミリアとエモニの動きが急に固まる。


「ん?二人ともどうしt」

「「ねぇロティス?その指輪?なに?」」


 ハイオークさんも一発で逃げ出しそうな圧を発するミリアとエモニ。

 二人の言葉は示し合わせたように全く同じで、二人の視線も全く同じ位置、俺の右手の薬指に固定されていた。


 ま、まずい。

 確かにいきなり指輪なんてして帰ったら、あらぬ疑いをかけられるは自明の理だったはずなのに……。

 特殊能力付きの指輪と言うことでテンションが上がってしまっていた。


「あ、あ~これはさっき露店で見つけてさ。結構かっこいいだろ?」


「「うそうそうそうそ、ミナさん?ミナさんに貰ったの?」」


 あ、ダメだこれ。

 何も聞こえてない。


「違うよ、違うって。だから露店で……」


「「もしかしてギルドマスター?ねえ?そうなの?」」


「ち、ちがっ……」


 言いかけて少し考えてしまう。

 ミリアとエモニはきっと良くない勘違いをしているが、ギルドマスターから貰ったことに間違いはないなと。


 だが、その言い淀みは致命的だった。


「「そ、そっかぁ……へぇ、ギルドマスターね……」」


 二人の目からハイライトが消える。


「あ、ロティス。私ちょっと用事思い出しちゃった。少しの間お留守番しててもらえる?」

「ロティス、私も家で包丁研がなきゃいけないんだった……ちょっと行ってくるね?」


「あ、え、ちょ、二人とも!?」


 俺の制止には聞く耳を持たず、二人はギルドの方向へ走って行ってしまった。


「すまん。マスター、俺にはどうしようもできない……」


 とりあえず、ギルドの方向へ合掌しておいた。


 ◇◇◇


 それから30分もしないうちに俺はギルドへと呼び戻された。


 俺がギルドへ到着するといつもの受付嬢、ミナさんが駆け寄ってくる。


「ロティスくんっ!早く!マスターが死ぬ前にあの二人を止めてっ!」


「は、はいっ!」


 必死の形相のミナさんに言われて反射で返事をしてしまったが、俺にはあの状態の二人を止められる気がしない……。


 それでも意を決して数十分前まで自分が居た執務室の扉を開ける。

 開けたその先には、もうあと一歩ですべてを刈り取られそうになっているギルドマスターの姿があった。


 ◇

 

「た、助かったぁ……ほら、見てよ。膝が笑っちゃって立てない……」


 すべてを刈り取られそうになっているギルマスを見て、俺はとっさにハイオーク撃退と森の異変調査の報酬としてこの指輪をギルドマスターから貰ったと説明した。


 するとみるみるうちに二人の目に光が戻り、あっという間にいつもの二人に戻った。


「もうっ、ギルドマスター!うちのロティスに指輪を渡すならちゃんと事前に報酬で渡すって伝えておいてよね!」

「そうですよっ!急にロティスが指輪付けてくるから、危うくマスターのこと滅多刺しにするところでした!」


 ミリアの拳にはすべてを砕かんとする身体強化魔法が、エモニの右手には如何にも切れ味のよさそうな包丁が握られていた。


「あ、あははははははは。そ、そうだよね!私としたことが……」


 そう言いながら俺の方に寄ってくるギルドマスター。

 俺の横までやってくるとミリアたちに背を向けて小声で話し始めた。


「な、なあロティスくん。私はまだ殺気を感じているのだが、どうすればいいと思う?」


「そんなこと俺に聞かれても……あっ!」


「なんだいっ!何か思いついたかい!」


「この指輪と同じ形のものをあと二つ用意できますか?」


 俺の発言を聞いたギルドマスターは急に表情を変えた。


「それだっ!!!」


 俺の提案を聞いたギルドマスターは直ぐに自分の机の引き出しから俺の指輪と似た形の指輪を二つ取り出してミリアとエモニにそれぞれ手渡した。


「ミリアちゃんには月の街ギルド唯一のクラス5コントラクターとして頑張ってもらっているし、エモニちゃんもハイオーク撃退には大活躍をしてくれたようだからね!私の手作りだから全くの同じものではないけどロティスくんの指輪と形は同じものだよ。いつもギルドのためにありがとうね」


 そう言うギルドマスターの声は多分俺の耳にしか届いていなかった。


「うふ、ふふふふふ。ロティスとおそろいの指輪……」

「えへ、えへへへへ。ロティスと一緒……」


 二人は指輪を受け取るや否や左手の薬指にはめて、人目もはばからずニヤニヤとしている。


「ありがとうロティスくん。これで私は恨まれずに済みそうだ……」


「あ、いえ、なんかすみません」


 俺とギルドマスターは二人を見ないように明後日の方向を向きながら、二人が戻って来るのを待った。


 ◇

 

「マスター、これって魔核を加工した指輪だよね?何か特殊能力はあるの?」


 数分してこちらへ戻って来たミリアがそう聞いた。


「ああ、それはロティスくんのものも含めて全部魔法耐性の特殊能力が確認されているよ。無理に指輪で受けたりしない限り壊れないから安心してつけてもらっていいよ」


 ギルドマスターはミリアの質問に平然と嘘をついて見せた。

 こういうことができるあたり、やはりギルドマスターはギルドマスターなのだろうと感じる。


「魔法耐性ね……この辺身体強化魔法を使う魔物しかいないのよね」


「それでも、ロティスと一緒だからいいじゃないですか!」


「それはそうね!」


「気に入ってもらえたなら良かったよ……」


 こうしてなんとか、指輪騒動は収まった。

 

 このあと帰ってから何度も指輪をはめさせるいわゆるプロポーズごっこに付き合わされたのはまた別の話しだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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