第16話 【Side:エモニ】不思議な声
ハイオークとの戦闘の後、私は茫然自失のまま気を失っている三人のコントラクターを引きずって街へ戻った。
道中ロティスはずっと私のフォローをしてくれていた。
「エモニのおかげで三人は助かった」
「さっきの力はきっと火事場のバカ力ってやつだよ」
「咄嗟の状況では、人間おかしな行動をしちゃうものだから。結果として無事だったんだし、許してやってよ」
など、ロティスに泣きついたきり全然話さなくなった私にずっと声をかけてくれた。
ギルドに戻ってからもロティスはすべての処理をやってくれた。
森の異変の報告からハイオークとの戦闘に至るまでの経緯。
三人組のコントラクターについてはハイオークを見て気絶したことにしていた。
さっき私をなでてくれた時にロティスの腕がおかしいことに気が付いていたのに私はすべてをロティスに任せきりにしてしまった。
私がやったことと言えば、三人のコントラクターを引きずってギルド職員に放り渡しただけ。
そして今は聖神魔法の治療院でロティスが治療を受けているのを待っている。
……何をしているんだろう私は。
私が助けようなんて言わなければ……。
あの時中位魔法じゃなくて上位魔法を自信を持って当てられるだけの魔法の腕が私にあれば……。
全部、私のせいだ。
私がもっと強ければ、ロティスがあんな目に遭うことはなかったのに……。
「そういえば……さっきのあの力……」
あの力は凄かった。
どうやったのかは全然覚えていないけれどあのハイオークが逃げ出すほどの力だ。
「あの力さえ、使えれば……」
あの時の感覚を思い出そうとしてみる。
『それはやめなさい』
「えっ?」
すると突然頭の中に声が響いたような、そんな感覚を覚えた。
『その力は確かに強大。だがそれと同じだけのものを失う力』
不思議な感覚以上に内容が気になって、頭に響く声に対する違和感はすぐになくなった。
「あれは、なんなの?」
『そなたが知る必要はない。あの子も言っていたはずだ。忘れろと』
言われて思い出す。
確かにロティスはあの力のことを誤魔化そうとしていた。
「どうして、ロティスが知っていたの?」
『それはいずれあの子の口から語られるだろう。今の私に言えることはあの子の言う通りその力のことを忘れろと言うことだけ』
「……それがロティスのためになるの?」
『それについては保証する』
「……分かった、それがロティスのためになるのなら……忘れる。でも一つだけ教えて。あなたは誰なの?」
『それもいずれ分かることだろう』
それだけ言い残して、頭の中に響いていた声の気配は消えてしまった。
……まだかかりそうだし、出ようかな。
今の話しや感情に整理をつけたかった私は一旦治療院を出ることにした。
◇
「あ、エモニちゃん。治療院から出てくるなんて珍しいね?何かあった?」
治療院から出た先で今一番会いたくなかった人に出会ってしまった。
「ッ――ミリアさん……」
「エモニちゃん?」
いつもの優しい顔でこちらを覗き込んでくるミリアさん。
「ごめんなさい。ロティスが――」
その顔を見て私は謝ろうと口を開き、すぐに口をつぐんだ。
ロティスの名前を出した瞬間、ミリアさんの雰囲気が変わった。
「……何があったの?」
有無を言わさぬ言葉の圧力。
私はなんとか声を絞り出した。
「ハイオークとの……戦闘で……ロティスが怪我を……」
「……怪我?……そんなわけないっ!ハイオークならロティス一人でもかすり傷程度の負傷で倒せるわ!治療院に来るほどの怪我をするわけない!……ねえ、エモニちゃん。何があったの?」
ごめんロティス。
あなたは許してあげてと言っていたけれど、私にはこの人を止められない。
「クラス1の三人組を助けに入ってハイオークとの戦闘になったんです。ロティスはその三人を逃がすためにハイオークと戦っていたんですが……その三人組が逃げる隙を少しでも稼ごうとロティスに風魔法を……」
私の言葉を聞くにつれて、どんどんと表情がなくなっていくミリアさん。
「……そう、分かったわ。エモニちゃんはロティスについてあげて。きっともうすぐ治療は終わるから。それと出てきたらまっすぐ家に帰ってね?」
「ミリアさんは……?」
「私はちょっとやることを思い出しただけ。すぐに戻るわ」
口もとに張り付けたような笑みを携えたミリアさんはそう言うとギルドの方へ消えていった。
ミリアさんを見送った後私が治療院の中に戻ると、本当に治療を終えたばかりのロティスがちょうど出てくるところだった。
「お、エモニ。ごめんな、心配かけちゃって」
「ううん、大丈夫。腕はもう何ともない?」
「ああ、この聖神の泉ってすごいよな。もう全然違和感なく動く」
グー、パーと手を動かしてみせるロティス。
治療院とはいってもただ聖神信仰の神官たちが、昔からあった聖神の泉を囲う建物を建てて治療院と言っているだけで回復魔法を使っているわけではない。
「それはロティスの魔力との親和性が高いからだよ。普通はそんなにすぐよくならない」
「そうなのか?まあ、治るのが早い分には悪いことはないだろ」
「そうだね。でもだからと言って無理をしていいわけじゃないからね!」
「分かってるよ。さて、まだ処理することはあるしギルドに戻るか」
そう言ってギルドに戻ろうとするロティス。
だけど多分、今のギルドは悲惨なことになっているはず。
そう思った私はロティスの手を引っ張った。
「帰ろ。今日は流石に休まなきゃダメだよ」
「え、でもさっきは報告中に治療院に来させられたから、まだ依頼達成の報告もしてないし……」
それでもまだ仕事をしようとするロティス。
時々ロティスが本当に私と同い年なのか疑いたくなる。
でもこういう時は――
「いいから!今日の朝も昨日の依頼報告してたでしょ?」
私が強く説得すればロティス大抵折れてくれる。
今回もそうだった。
「そこまで言うなら分かったよ。じゃあエモニ、夕飯を作ってくれ」
「任せて!朝のサンドウィッチよりおいしいもの作ってあげる」
「お、それは楽しみだ!ミリアはいつ帰って来るかな?」
「……ミリアさんは、どうだろうね?意外とすぐに帰ってきたり?」
その日、ギルドの奥の一室から阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえたという噂が流れたがすべての真相を知る者は一人を除いてこの街からいなくなっていた。
私には不思議な声よりミリアさんの方が恐ろしく感じられて、声のことはすっかり忘れてしまっていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
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