第13話 お許し
「もうっ!ミリアさんとよく一緒に寝てるの?」
エモニに起こされた後、ミリアも含めた三人でエモニの作ってきてくれたサンドウィッチを食べた。
さすがは街一番の八百屋を自称する店なだけはあって、パンにはさまれた野菜やエモニの自信作だと言うフルーツサンドは抜群の味だった。
だが、それ以上に鶏肉のようにあっさりしたあの肉の味付けが完璧だった。
変に味を乗せ過ぎず、塩と胡椒、多少の香草で焼かれたそれはみずみずしい野菜と調和し、サンドウィッチをさらに一段上の段階へと引き上げているとすら感じられた。
「ああ、サンドウィッチ美味かったぞ」
「え?突然?」
おっと、サンドウィッチのことばかり考えてエモニの話を聞いていなかった。
でもここで正直に聞いてなかったというとなんとなく面倒なことになりそうな予感がする。
そう思った俺はこのままサンドウィッチの話で押し通すことにした。
「突然でもないさ。ミリアはあのフルーツサンドを相当気に入っていたみたいだし、挟んであったあの肉の味付けに焼き加減まで完全に俺の好みを捉えていた!」
「そ、そうかな……えへへ、ロティスってばお肉にはうるさいからちょっと頑張って練習したよ」
べた褒めで話を逸らす作戦は大成功だ。
「嬉しいよ。今度また食べてみたいレシピを思いついたから一緒につくってくれるか?」
「もちろん!私、料理頑張る!ミリアさんは料理できないからね!」
エモニはここで差をつける!とよくわからないことを呟いているがそろそろギルドだ。
さて、今日はどんな依頼を受けようかな――
「あ、ロティス。料理を褒めてくれたのは嬉しいけど、ミリアさんと寝てた件は後でもう一度問い詰めるからね?」
………………。
「あはは……ま、まあとりあえず依頼だな」
全然成功していなかった……というかその話だったのか。
何とか今日の依頼中に忘れてくれないかと祈るばかりだ。
◇◇◇
俺達がギルドに入るといつも以上に視線が集まっている気がする。
「おはようございます!ミナさん今日の依頼――」
「ロティスくん!昨日一人で森の奥まで入ってたって本当かしら?」
ギクッ……そうだった。
そう言えば昨日は倒れたままミリアに連れ帰ってもらったから依頼の報告も出来ていなかった。
「あ、えーと……」
「ロティス?行ったの??一人で???」
あ、あ~。まずい非常にまずい。
正面からはミナさんに左側からはエモニに残りからはギルドの野次の視線が集まる。
……逃げ場がない。
「……行きました。ミナさん一応これ、昨日のオークの魔核です」
これだけの視線に囲まれてしまったらどうしようもなく、昨日の魔核を集めておいた袋を手渡しながら謝った。
「……はあ、依頼は達成ですね。お疲れ様です。報酬は後でいいですか?」
「はい。それで、今日は何かよさげな依頼はありますか?」
ミナさんはそれ以上は何も聞かず仕事をしてくれる。
だが、さっき以降に一言もしゃべらなくなってしまったエモニにはこの後追及されそうだ……。
「今日もまだオークの討伐依頼が残ってますね。こちらにしておきますか?」
「はい、それでよろしくお願いします!」
昨日と同様にオークの討伐依頼を受注すると、今日はエモニと二人で森へ向かった。
◇◇◇
「ねえ、ロティス」
「どうした?」
ギルドを出てから街の外に出るまで一言も話さなかったエモニがようやく口を開いた。
「……私さ、足手まといになっちゃってる?」
「え?そんなことないよ」
「……嘘。だったらなんで一人で森の奥に行こうと思ったの?」
「それは……自分の力がどこまで通用するか試したかったから、だけど」
「やっぱり、私が居たら自分の力を出し切れないってことでしょ!」
そう言うエモニの目からは一筋の雫とうっすらと赤い魔力が漂っている。
この魔力……まさか……、いや、今はそれより――
「それは違う。確かに一人だから森の奥まで行こうと思ったのはその通りだけど、エモニがいると力が発揮できないなんてことは絶対ない。戦略の幅も安全性も二人の方が優れている。俺はエモニが一緒にミリアの特訓を受けてくれるようになってすごく感謝してるよ」
「……ほんと?」
「もちろん、本当だ」
「じゃあ、もう一人で行かない?」
「そ、れは……」
ミリアに聞いたダンジョンブレイクの話しを思い出す。
あれについてはもう一度、自分で調査したいけど……。
「……分かった。一人で行かないでとは言わない。でももう秘密で行くのはやめて。昨日みたいに私が体調崩してて一人で依頼受けるときは必ず直接私に言いに来て」
「ああ、分かった。約束する」
俺がそう言うとエモニが足を止めた。
「エモニ?」
それを見て俺も止まる。
「約束と罰のハグして」
「えっ……」
「してくれないと私もうここから動かないから!」
そう言って俺の方を向き手を広げるエモニ。
さっきは俺が折れてもらったしな……ここは俺が折れるとしよう。
「……これでいいか?」
控えめに軽くハグをする。
するとエモニはグッと力を込めて俺を抱きしめ返してきた。
「……これでいいよ。でもあと1分はこのままね」
「分かったよ」
そう言っていたエモニだったがたっぷり3分程抱きついたまま離れなかった。
ようやく離れた頃には、先ほど少し見えた雫と赤い魔力は影も残っていなかった。
「よし!切り換えて今日もがんばろ!」
「おう!今日もよろしくなエモニ!」
「こっちこそねロティス!」
カツンと拳を合わせて、顔を見合わせると再び走り出す。
なんだか今日はいつもより調子がよさそうだ!
「あ、言っとくけど、ミリアさんと一緒に寝てた件は全然忘れてないからね?」
全然笑っていない笑顔がこちらに向けられる。
なぜだろう……調子が一気に悪くなっていくのが感じられる。
なんとかそれも許してもらえないかなぁ……。
「これは譲らないよ?」
ばっちり思考まで読まれて、完全に退路を断たれた俺だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
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