第11話 嫌な予感
ダンジョンブレイク……その名から察せられる通り、とてもじゃないが良いものではない。
絶望勇者のゲームの世界でもこのダンジョンブレイクによってダンジョンから魔物が溢れだし、壊滅した町が出てきたことがあった。
まあ、あの世界では勇者に覚醒したエモニの勇者魔法で溢れ出したほとんどの魔物が撃滅され、逆にダンジョンを攻略されることになるのだが……。
だが、こんなタイミングでこの月の街ダンジョンがブレイクしたなんて記録はゲームにはなかったし、魔物に街が荒らされたような形跡もなかった。
俺の勘違いならいいのだが……。
でも、確実にクラス3のハイコボルトから黄緑色の魔核が落ちた。
ミリアに伝えるかどうかはまだ決められないが、近いうちにもう一度ダンジョンに調査をしに行くべきだろう。
と、ミリアの言葉を聞いてから一人で考えていると不思議そうな顔でミリアが顔を覗き込んできた。
「どうしたの、ロティス?ダンジョンブレイクって聞いて怖くなっちゃった?でも大丈夫だよ。ロティスのことは私が守ってあげるから!」
流れるような動作でまた抱きしめられる。
「いや、まあ……もし、ダンジョンブレイクが起きたらここはどうなるんだろうって……」
「……そうね。あまり考えたくないことではあるけれど、もしあのダンジョンがダンジョンブレイクを引き起こしたら、この街は壊滅的な被害を受けることは間違いないと思うわ」
「ダンジョンブレイクの原因とかって何か分かってるの?」
「原因?面白いことを考えるのねロティスは。今まで自然に起こってしまう、事前の対処の仕様がない災害みたいなものだと思っていたわ……」
なるほど。
言われてみればそうだ。
この世界では、なまじ魔法という文明が発達しているため、生活水準に比べて技術などの発達が乏しいように感じられる。
日本や現実世界のようにあらゆることの因果関係を疑い研究するような文化を持っていなければ、そんな災害に対する知見がないのも、納得できる。
「まあ、でも……」
ミリアの話を聞いたまま一人で黙って考え事をしていた俺を見かねてかミリアが続ける。
「魔物が溢れ出してきちゃうってイメージだから、ダンジョン内の魔物が増えすぎちゃうとか?」
飽和量を超えるとダンジョンブレイクが起きる、か……。
魔物の生殖形態、繁殖方法などは分からないが、確かに魔物が溢れ出すという表現をするということは容量の限界を超えていると考えるのが一番順当だ。
「つまり、ダンジョン内の魔物を減らせればダンジョンブレイクの可能性は減らせるかもってこと?」
俺がそう言うとミリアは少し困ったような顔をする。
「もし、私の考えがあっているなら……だけどね。でも具体的にどのくらい倒せばいいのかわからないからあんまり現実的ではないかも……」
いや、そんなことはないだろう。
魔力の尽きない限り、目に見える範囲の魔物を端から倒していけばダンジョンにいるおおよその数を知ることができるだろうし、もしかしたらそれが対処法になるかもしれないのだ。
「ダンジョンブレイクなんてそう簡単には起きないわ。これ以上考えても不安の芽を大きくするだけだし、もう寝ましょう?」
「……それもそうだね。じゃあ俺部屋に戻るよ。今日は助けに来てくれてありがとう。おやすみ」
そういってベッドを出ようとするも掴まれた腕を抱え込まれてしまい出ることができない。
「ミリア?」
「私は今日、ロティスがいなくなっちゃうかもと思って、とても、とても怖い思いをしました」
「それは……ごめんなさい」
「だからロティスは今日は私から離れてはいけません!」
「えぇっ!?」
「久しぶりに一緒に水浴びもする?」
「……一緒に寝るからそれは勘弁してください」
「え~久しぶりにロティスの水属性魔法で水浴びしたいのに……」
「……」
「ふふ、そういうことが気になる年齢になったってことかな?ならロティスの成長に免じて一緒に寝るだけで許してあげる!」
……これもしかしなくても嵌められたか?
ああ、間違いない。
前世でも有用だと言われていた交渉術の1つ、通したい要件に絶対無理な条件を重ねて妥協させることで何故か本来の目的の方が通せてしまうというあれだ。
嵌めたな?という気を込めてジッとミリアを見つめる。
「ん?ふふ。あと5、6年もしたらきっとすごいイケメンさんになりそうな顔だよねロティスって」
そうだっただろうか?
なまじゲームの知識で自分の成長後の顔を知っているせいかあまり転生してから自分の顔を気にしたことがなかった気がする。
「じゃあ、ミリアと一緒に歩いたら街のみんなが振り返るようになるね」
「――ッ!もうっ!このすけこましさんっ!」
突然顔を赤くしたミリアが髪をわしゃわしゃとしてくる。
「ちょ、ちょっとミリア!いきなり何するのさ!」
「将来たくさんの女の子を泣かせそうな悪い子への罰ですー」
その後もうりうりわしゃわしゃとミリアにもみくちゃにされたり、俺もやり返したりと疲れていたはずなのに散々ふざけ合って俺はそのまま寝落ちしてしまった。
「ふふ、寝顔はこんなにかわいいのに一人でダンジョンゲートの前まで行っちゃう悪い子なんだからっ。……でもダンジョンブレイク、ね。ロティスの反応がちょっとおかしい気がしたし、私も暇なときにダンジョン、見に行っておこうかな」
安心しきった表情でぐっすりと眠ってしまった最愛の男の子の頬をつつきながら、私は独り言ちる。
「絶対あなただけは守ってあげるからねロティス」
さっきまでつついていた箇所に軽く唇を乗せ、自分も布団に入ると目を閉じた。
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あとがき
次話はエモニの視点です。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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