第3話 実戦と魔法
しばらく背負われながら風を凪いでいると鬱蒼とした森に入った。
確かこの森は、奥の方が高濃度の魔力によってダンジョン化していたはずだ。
「ここからは気を引き締めるよ。今日の依頼はオークだからダンジョンには入らないけど、結構な数の目撃情報が入っているらしいから」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、こちらが肌に感じられるほど集中状態になるミリア。
なるほど、これは確かに強そうだ。
ゲームの中でしか魔法を使ったことがない俺ですら、ミリアの纏う空気が全く別物になったとすぐに感じられる。
ふと何かの気配を感じて、俺は動かない頭を必死にそちらへ向けようとする。
しかし、それより先にミリアが動いていた。
「土属性中位魔法『ヘカトン』!」
子供の頭よりも大きいようなサイズの岩がミリアの魔法によって生み出され、弾丸のように飛ばされる。
「グガァァァ!!」
断末魔とも、悲鳴ともとれるような声が森に響いた。
俺の視界に入ったそいつは既に衝撃と共に近くの木に激突し、絶命したであろうオークの姿だった。
「よし!まずは一匹。単独行動していたみたいで良かった」
事も無げにオークを片付けると、また集中力を高める。
魔法を目にして気が付いたが、この集中力の高まりは魔力を纏っているように感じられる。
特に魔法を使っているようには見えないが、集中すると自然とそうなるのだろうか?
それからもミリアは圧倒的だった。
一匹目の声を聞いて寄ってきていたほかのオークたちも冷静に、なるべく複数対一人にならないように処理しており、この年齢でクラス4となる実力者たる所以を感じさせられる戦いぶりだった。
「さて、こんなものかな。ロティス!今日もおとなしくしてくれてありがとね!」
パンパンと手を払いながら、ここまで7頭のオークを倒したミリアはそう言って、魔核を拾うと入って来たであろう方向へ歩き出した。
もちろんまだ集中してはいるのだろうが、とりあえずの目標を達成したせいだろうか。
戦闘前ほどの集中力は感じられない。
だからかミリアはその気配に気がついていないようだった。
ゾワッと背後に嫌な気配を感じる。
背負われている分その気配に近いであろう俺の本能が有り得ない程の警鐘を鳴らしている。
何とかしなくては。
「ぃいあ!」
必死に呼びかけるも、本能が感じている恐ろしさからか声が掠れてしまいほとんど音になっていない。
「いいあ!いいあ!」
それでも何度も繰り返し、できる限り手足を動かしてミリアに危険を伝える。
「ロティス……暴れてる?珍し……ッ!」
何とか俺の行動は意味を為したようだ。
暴れる俺を確認しようと振り返り、すんでのところでミリアは気配に気がついた。
「ウソ……こんな近寄られてるのに気が付かなかったなんて」
振り返えってすぐに、大きく飛び下がるミリア。
「ってアイツ、ハイオーク!?」
ハイオークだと……!?
ゲーム内の勇者覚醒したエモニの前では大した脅威ではなかったが、それでも確かクラス3が10人程度、クラス4でも個人での戦闘は避けるべきと言われているレベルの魔物じゃないか!
「これはちょっとまずいかも……少しでも攻撃を受けてロティスに何かあったら……」
そうである。
おそらくこのミリアという少女は俺を背負ってさえいなければ、このハイオークをも余裕で倒すことが出来るだろう。
先程までの戦いを見ていれば、魔法を使ったことの無い俺でも確信できるほどそう思える。
しかし今は攻撃がほんの少し掠めただけで呆気なく命を落としかねない弱い生き物を背負っているのだ。
相手の攻撃を全て避け、なおかつ俺に気を遣いながら相手にするとなると相当に難易度が高い。
「ロティスに何かあったら私、この世界に何しちゃうか分からない……」
ん?
世界に?
心配事そっち?
俺に何かあったら危ないとかじゃなくて、俺になにかあったら自分が世界になにかしちゃうの?
「仕方ない。痕跡が残っちゃうかもだけど、背に腹はかえられないよね。ごめんねロティス、ちょっとうるさいかも」
……え?
一体何を?
ミリアはふぅっと息を吐くと今までとは比べ物にならないほどの魔力を身に纏った。
彼女の背中に接している部分にものすごい熱を感じる。
「土属性上位魔法『テルース』!!!」
ミリアはゆうに自分の体よりも大きい岩をありえないスピードで放った。
バリスタも涙目のそれは周りの木々ごとなぎ払いながら、ハイオークのでっぷりとした腹に命中する。
しかし、ミリアはまだまだ止まらなかった。
「私の、ロティスを、怖がらせたこと、絶対に許さない!風属性上位魔法『ボレアス』!」
大岩に吹き飛ばされていたハイオークに過剰とも取れる追撃をするミリア。
ハイオークにぶつかり細かく砕けていた石粒が、巻き起こされた小規模な竜巻とも呼べるほどの魔法で凶器と化し、ハイオークの身体を切り裂いた。
「グギャアァァァ!」
もはやどちらが魔物なのかという程に慈悲のない一撃。
見るまでも無くハイオークは息絶えていた。
ミリアさん、さてはあなたクラスを詐称していますね?
……弱い方に。
まあ、確かにあまり若いうちから出世していくと僻みやら妬みやらで、厄介なことになるというのはよくわかるが……。
……うっ、思い出したら頭痛が。
「あっ、私、魔力!ごめんねロティス、熱かったよね?……このハイオーク風情が、私のロティスにつらい思いをさせやがって!」
また、魔力の高まりを感じる。
あのミリアさん?余計、余計に熱いのですが?
言葉遣いも本性が出ちゃってますよ~。
……仕方ない。
彼女が俺の親だというのなら!
「いぃあ、いぃあ」
全く声にならない音を出す。
しかしこの音はミリアには効果てきめんだ。
ハッとした表情で魔力を抑え、ひもを緩めて俺を抱きかかえる姿勢になる。
「今、私のこと呼んだ?ねぇロティス、もう一回、もう一回呼んで!」
ふう、何とかあれ以上のオーバーキルを避けることができた。
ハイオークさん、安らかに眠ってくれ。
「ねぇロティス!もう一回!お願い~!」
楽しさとは無縁そうな鬱蒼とした森に楽しげな明るい声がこだましていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
次話より少し時間の進みが早くなります。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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