武士道系魔法少女、無骨すぎて全然可愛くないので冴えない手品師の俺がどうにかすることにしたら俺まで魔法少女にされちゃいました

金燈スピカ

プロローグ



 西暦二〇九九年。

 太平洋のど真ん中に浮かべられたバカでかいバトルフィールドの上で、地球の命運を決める一戦が始まろうとしていた。


「ふわっはははははっ、どうした地球人、我に恐れをなしたかァ!!!」


 我らが地球が誇る青空と紺碧の海の狭間、赤コーナーサイドで高笑いしふんぞり返っているのは、身の丈三メートルはあろうかという巨大すぎる大男だ。ただし肌は目の醒めるようなコバルトブルーで、ぴっちぴちの黄緑色のブーメランパンツと黄色の編み上げブーツと黄色のマントしか身に着けていない。海風に晒されたボディはどこもかしこもバキバキに仕上がり、陽光を反射してテッカテカだ。瞳は白目が水色、瞳孔が黄色、ぱりぱりと静電気を帯びる髪はアルミホイルのような銀色。色といい体躯といい地球の生き物とは思えぬこの男は、地球侵略軍アザーズの総司令官、レグルスその人であった。


「レグルス様の不戦勝かァ!?」

「ブシドーさえいなければ地球人なぞひとひねりだぜェ!」

 

 レグルスの背後は、彼と同じコバルトブルー色の有象無象の生き物たちが海に浮かんでやいのやいのと騒いでいる。対する青コーナー、地球防衛連合軍側に立つべき人物は、未だ不在であった。


「くっ……!」


 連合軍側はフェリーが何艘も浮かび、甲板は多様な人間たちがひしめき合っている。一番バトルフィールドに近いフェリーには、少女たち──可愛らしいコスチュームに身を包みつつも使命を帯びて凛とした眼差しの少女たちが、焦燥も露わにレグルスたちを睨み返していた。めいめいがステッキやら手のひらやらをかざし、目には見えないエネルギーをバトルフィールドに向けて注いでいる。


「もうダメ……! これ以上は……!」

「みんな、堪えるのよ、サクラちゃんは必ず来てくれるわ!」

「けれど……もう……!」


 額に汗し、互いに励まし合う少女たちを、他のフェリーの乗船者たちはハラハラと見守っている。それは米国大統領だったり日本の首相だったり、他にもいろんな国家元首やらそのSPやら、それから連合軍を構成する各国の軍隊の元帥やらがずらり勢揃いする、全人類見ただけで縮み上がりそうな錚々たる顔ぶれだ。更に彼らと少女たちを撮影していると思しきメディアクルーばかりのフェリーもあり、各国のアナウンサーがそれぞれの言語で声高に叫んでいた。


「ご覧ください、いたいけな魔法少女たちの懸命の防衛ですっ!」

「我々はただサクラちゃんが帰ってくるのを願うことしかできないのでしょうか!」

「頑張れ、頑張れ魔法少女たちっ……!」

「アリサちゃん頑張れ!」

「済まない、もう少しだけ堪えてくれっ!」


 そんな錚々たる顔ぶれが青ざめた顔で、あるいは躍起になって戦闘フェリーの少女たちに声援を送っている。


「さあどうしたァ、我が宿敵サクラを出せ! さもなくばもうこちらから征くぞ!」


 レグルスが咆えると、彼の身体からばちばちと銀色のオーラが迸った! バトルフィールドを覆っていた目に見えない結界が、オーラの勢いに圧されて膨張する。魔法少女たちが苦悶に顔を歪める、細い腕がばちんと弾かれ、一人、二人とその場にへたり込む。


「サクラちゃんはっ……来るわっ……!」


 魔法少女の中心、赤いドレスがよく似合う背の高い少女が、ひたむきな眼差しで叫ぶ。彼女の周りの魔法少女たちが次々に気を失い、その場にどさりどさりと倒れ伏していく。


「アリサちゃんっ……ごめん……後は……お願い……っ!」

「ミッシェル!」

「アリサーッ!!!」 

「大丈夫……サクラちゃんは……絶対に来るっ……!」


 立っている魔法少女はアリサと呼ばれる少女一人となった。フィールドを包む結界が薄く引き伸ばされ、今にもシャボン玉のようにはじけ飛んでしまいそう──空の彼方から、一つの影とけたたましいエンジン音が近づいてきた。それは一機のヘリコプターで、みるみるうちにバトルフィールド上空までやってきて旋回する。丸太かと思うような太い腕が、力強く扉を開け放つ。


「アリサ! 皆の者!」


 少女の声があたりに響き渡る。


「サクラちゃん!」


 アリサの顔が希望に輝く、フェリーの乗客が驚喜に沸く──


「サクラちゃん!」

「ブシドー!」

「マッスルー!!!」

「遅参つかまつりかたじけない! ただいま参る!」


 ヘリコプターからフィールドを見下ろす人物は、逆光になってその顔が見えない。だがその少女の声の主はヘリコプターの奥からむんずと何かを掴み、それと共に空めがけて跳躍した!


「俺も一緒に自由落下はやめろぉぉぉぉ!!!!」

  

 投げ出された何かと、男の涙声も一緒に降って来る。二人はバトルフィールドの結界を貫通し、着投げ出された人間と思しきは着地寸前に投げた張本人に拿捕され、お姫様抱っこの形になってフィールドの中央に降り立った。


 ずどん、と、ミサイル着弾にも匹敵する衝撃が一面に走る。


「来たか、サクラ!」


 身の丈195cm、体脂肪9%、体重はヒミツ。レグルスにも負けず劣らず鍛え抜かれた筋肉が、破れかけた道着から覗く。一つに結った黒髪が風に靡き、涼やかな眼差しが目の前の宿敵を真っ向から睨み上げ──少女の声で咆えた。


「レグルス! サクラが来たからには覚悟せよ!」

「待てそれやる前に俺を下ろせ!」」


 拿捕された人物は黄色が基調のフリフリ魔法少女の出で立ちだが、声は男のそれだった。黄色の少女(男の声)はじたばた暴れてお姫様抱っこから抜け出すと、どこからともなく取り出したカメラ棒とスマホをすちゃっと素早くセットする。


「いいかサクラ、新技忘れんなよ!? 出来るだけ可愛くやれよ!?」

「ナオうるさい」

「うるさいじゃねえスポンサー様のご意向だっ!!!」

「さあ、始めようではないか、我が宿敵サクラ!」


 レグルスが意気揚々と黄色マントを投げ捨て、バトルフィールドの中央へと歩いてきた。黄色魔法少女(男の声)はギャッと悲鳴を上げて慌ててフィールド端に逃げていく。中央に残された破れ道着マッスル(少女の声)はじっとレグルスの巨躯を見上げるが、微塵も臆さずにニヤリと笑った。筋肉隆々とした手をさっと横にかざすと、その手のひらから威容なる一振りの刀が現れた!


「地球侵略など言語道断! ここで成敗してくれるッ!!!」


 破れ道着マッスル少女は、刀の柄をがっしと掴むと、地球全体を揺るがすような大音声で叫び──


「魔法少女ブシドー・サクラが、世にはびこる悪を斬るッ!!!」


 縦に構えた刀を、ちゃきりと返して見せた!

 

「サクラーッ!」

「レディ・ブシドーッ!」

「サクラちゃーん!!!」

「上様ァーッ!」

「マッスル☆マギカーッ!!!」

「だから可愛くって言っただろうがぁーっ!!!」

「サ・ク・ラ!」

「サ・ク・ラ!」

「ブ・シ・ドー!」

「ブ・シ・ドー!」

 

 黄色魔法少女(男の声)の叫びは、フェリー上の魔法少女たちと地球防衛連合軍の大歓声にかき消された。黄色魔法少女(男の声)はがっくりとうなだれたが気を取り直し、カメラの向きを自撮りに変えて自分とサクラを写し込ませる。


「……これは、いたいけな十五歳の魔法少女ブシドー・サクラが、愛と魔法──じゃない、愛と筋肉で世界を救う世紀の一戦であるっ! 最前線での実況はおなじみの俺様、ミラクル☆ナオでお送りしまァす!!! 今日も防衛スパチャがっぽりオナシャス!!!」

「いいぞナオたーん!」

「サ・ク・ラ!」

「サ・ク・ラ!」

「行くぞサクラ、我が拳を受けて見よ!!!」

「敵ながら天晴であるなレグルス、サクラの新技の錆にしてくれよう!!!」

「頼むサクラ出来るだけ可愛くやってくれぇっ!!!」

「サ・ク・ラ!」

「サ・ク・ラ!」

「ブ・シ・ドー!」

「ブ・シ・ドー!」


 大白熱の歓声のなか拳と刀がぶつかり合い、そこからばりばりと魔法と電撃が飛び散った── 







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