幼馴染(双子の妹)にフラれたので漫画家志望で生きてくはずが、何故か美少女双子(姉)に懐かれるし、ふった双子(妹)も話しかけてくるから気絶します! 静かに描いていたいのに双子がそれを許してくれません。

ひなの ねね🌸カクヨムコン初参加🌸

プロローグ いつかの冬の深夜

「コーヒーをお持ちしました」


 液晶タブレットを避けて机の上に置かれたのは、砂糖が一切入っていない熱々のブラックコーヒーだった。

 時刻は深夜2時45分、人間の大半は眠りに落ちている時間。


「ありがとう」


 俺はもう開きそうにないまぶたを持ち上げ、なんとかコーヒーを口につける。慣れ親しんだ苦みが口の中に広がり、ほっと息をついた。


「――んで、なんでメイド服なんだ、七彩なないろ


 七彩なないろは「えへっ☆」と片目を瞑って、舌を出す。


「アキちゃんの目を覚ますにはもうこれしかなくって……明日の冬コミにも着れそうだしってのもあるけど」

 

 俺は詳しくないが、おそらくこのメイド服は七彩が最近見ているアニメか何かに出てくるキャラクターの服なのだろう。


 七彩は黒と白を基調としたメイド服に身を包み、ぐるっと狭い漫画部屋で器用に一回転する。ふわりと揺れるフリル、短めのスカートから見えるニーソックスは普通の男子ならば胸に湧き上がる熱い思いもあるだろう。


 さらに言えば、こぼれんばかりの胸元とバランスよく引き締まった腰つきは、青春に身をうずめている男子諸君では耐えられん。


 クリーム色よりの金色の髪は、ストレートな髪質も相まって、深夜に降臨した女神――メイドなんだが――そのものであった。


 だが俺は七彩に対してはを所持しているので、その程度では揺らぐことはないし、なんなら漫画一本道なので揺らいだら負けというものである。


 七彩。

 駄目だ、その場で跳ねて、最大の武器を揺らしても俺は揺らがん。

 揺らがんぞ。


「な、何度も言っただろ、俺は七彩の姿を直視できない理由があるってな」

「……私はアキちゃんを青春に引き戻す努力は、諦めないつもりだよ!」


 ふんす、と強めの意気込みを見せて七彩は俺のベッドへと座る。

 漫画作成の締め切り間際なんて、資料の散乱で座る場所が無いのだから、そこにしか座れないのは確かだが。


「それに今日はもう一人いまーす」

「もう一人、だと――!?」


 最悪の予想が脳裏をよぎり、俺は再び液晶タブレットへ、目を落とす。


「私の最愛の――ええっと――そう、と、遠い従妹いとこの、ツインリーフちゃんです!」

「もう名前でばれてるじゃねぇか!」


 日本語で双葉――、それはつまり、七彩の双子の妹を指す。

 分かっちゃいても、俺はつい喉を鳴らして、入口へと向き直る。


 ごくり。


 恐る恐る開くドアはゆっくりで、夜闇のように艶のある髪が揺れる。


「お、お姉ちゃん、本当にこんな姿で人前に出るの……?」

「もちろん」

「双子の妹にどんな格好させてんだ……」


 双葉は本来、地上最強に人見知りで、誰によりも誠実な上に、人に簡単に懐かない性質を持っている。肌色を晒すなんてもっての外だ。


 高校2年の春から、紆余局あって幼馴染の俺には再び懐いてくるようにはなったが、それでも部屋に入ってこれないとは何を着せているのか。


「う、ううう……」

「アキちゃんの為、出るなら今しかないよ。それにアキちゃん、多分忘れるから」


 なんだその酷い言い草は。

 双葉の件なら、気絶しい程度には焼き付けたい気持ちは、僅かばかり、なくはないぞ。漫画一本道という気持ちが揺らいだわけではない、資料だ、ヒロインの資料として欲しいのだ。


「あ、あのね、これはお姉ちゃんが勝手に着せただけで、私は、その――でも、アキ君がこれで、原稿が頑張れるというなら――!」


 えいっというカワイイ意気込みと同時に飛び出してきたのは、ピンク色の女児向けアニメの魔法少女のコスプレ少女であった。


 長い黒髪は二つの三つ編みに、普段の黒メガネはなく、頭にはちょこんと王冠が乗っている。 

 姉の七彩とは違って控えめな胸部は、逆に今の服装に似合いすぎて、脳髄を直接刺激する――!


「―――っ!」


 断言しよう。

 普段、もう二度とこんな深夜は訪れない。

 これはあまりにも深淵なる夜が起こした奇跡の幻想リッチリー・カラー


「あ、あの、お茶菓子も、お、おもちしました」


 コーヒーに合わせるためか、カカオ90%のチョコレートを俺へと手渡ししてくる。 その瞳は潤み、頬は紅潮して、俺にまで熱が伝わってきそうだった。


 って、上目遣いで見るな!

 ぶかぶかの胸元を隠せ!


 俺の生命が天へと昇天し、転生も辞さないレベルの魅了を振りまいてくる。


「あ、アキ君……こ、これで、がんばれるかな?」


 俺は双葉を直視してしまったので、いつも通り、意識は現実と切り離される。

 消えいる意識の中、にやりと七彩がほほ笑む。


「ほら、やっぱりこうなるから、覚えてないの」


 二年生の春に比べれば、かなり改善した方だが、あまりにもかわいすぎる双葉を見ると――まだ、ダメみたいです――。


「あ、アキ君!」

「でも、私の反応と違いすぎるのは、なんか納得できないんですけどお」

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、遅くに隣で何してるの!」


 隣の部屋から妹様から非難のお声すら飛んでくる始末だ。


 全く、これじゃ青春を投げ捨てて漫画に打ち込めねえじゃねえか……!

 けどまあ、小学校の頃みたいでこんなお祭り騒ぎも悪くないか?

 

 これまで過ごした高2年の学園生活。

 これは俺にとって、人生を変える一年だったのは言うまでもない。


 ――さあ、お祭りはここまで繋がってるぜ、春夏アキフユ。

 ――だから臆することなく、地獄から手を伸ばし続けろ。


 時間は1年生の文化祭まで遡る。






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