籠もり魔女の語

ゴブサタ

第1章:籠もり、始めました

「あぁ、家に帰りたい……」


 暗い会社の中、モニターの光とキーボードを叩く音だけが鳴っていた。

 今日でどれだけ夜勤したのか分からない。

 いつからこうなったんだろう、私が考えた職場生活はこんなものじゃないのに……いい成績でいい会社に入って、いっぱいお金を貯めて親孝行して旅行もしてくるつもりだったのに。


 マウスを押しながら、エナジードリンクを飲む。


「……そういえば、明日までだっけ」


 横に出しておいた書類を持ち上げようとした瞬間、精神が遠くなる。


「……っ、流石に三日連続徹夜は無理か…………」


 少しだけ寝よう。

 会社には今、私以外には誰もいない。

 一時間…いや、三時間くらいなら寝ても大丈夫よね、うん。

 きっと大丈夫……だいじょ…ぶ…………


 こうして私、くすのきこもりは23歳で机の上で過労死した。



◇◆◇


「ふぅ、今日はこれでいいか」


 野菜を入れたかごを持って上着についた土を振り払いながら席から立ち上がる。

 木の葉の間から差し込む日差しが私を気持ちよくさせる暖かい日だ。

 最近、曇りの日が繰り返され、少し冷たい感じがしたが、このように再び日差しを感じると普段より気持ちが一層楽になる気分だ。


 私は小さく鼻歌を歌いながら、採集した山菜を持って森の中を歩いていく。

 歩くたびに聞こえてくる雑草と葉が踏まれる音、吹いてくる風に揺れる木の音。 鳥のさえずる音。


 ぐうぐう。

 自分のお腹から足を速める声が聞こえる。


「お腹すいたな……」


 かごを見ながら今日のお昼は何を作って食べようか悩やむ。

 そのように自然を感じながらたどり着いた所は、安楽に見える丸太小屋だった。


「ぇえっと、気配を消すスクロール…………あ、あった」


 腰にあるバッグを開け、中からスクロールを取り出す。


スクロール気配除去


 スクロールを空中に投げると、燃えるように燃え尽きて消えた。

 私は家に歩いて行き、ドアを開ける。


「ただいま」


 気配一つない静かな家に、ドアを閉めて寂しく帰ってきたという挨拶をするのだった。

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