幼馴染は魔法少女(仮)
もんすたー
第1話 (仮)
「マジカルピンク! ただいま参上!」
とある日の昼下がり、俺、徳村淳(とくむらじゅん)の自室には、魔法少女が立っていた。
ピンク色のツインテールには、星型の髪飾りがついており、白のフリルワンピースの衣装にも、『マジカルピンク』のイメージカラーのピンクがアクセントとして加えられている。
「どう? 今の魔法少女っぽかった」
「あ、あぁ。よかったんじゃないか?」
先ほどまでポーズを決めていた魔法少女は、俺にキラリとした目を向けてきた。
そんな彼女の名前は初桃春(ういももはる)。
魔法少女ではなく、俺の幼馴染だ。
俺たちは高校三年の受験生。
夏休みということもあり、本当は勉強をしなければならないところなのだが、こうして俺は魔法少女(仮)のコスプレとキメ台詞を見せられている。
「今回の衣装もマジカルピンク全面に出したオリジナルなんだよ? すごくない?」
くるりと一周して衣装を見せてくる桃春。
「衣装も何も、マジカルピンク自体お前のオリジナルなんだから、完璧かどうかは分からないぞ?」
「まぁそうなんだけど、今回は自信作なんだぁ」
桃春の魔法少女への熱は途轍もない。
ただ好きなのではなく、魔法少女になりたいという願望の持ち主だ。
設定から衣装まで自作しては、俺に感想を聞いてくる。
魔法少女に憧れても、かわいいで済まされるのはせめて小学校低学年くらい。
高校三年にもなってそれを言っていると、ただの痛いやつでしかない。
しかし、ここまで長年茶番に付き合ってしまうと、中々言いずらい。
それに本人は真剣に魔法少女に向き合っているし……俺は大目に見ている。
まぁ、俺以外には誰にも言うなとは忠告している。こんなの同級生の前で言ったら一瞬で周りから人がいなくなるからな。
「これで魔法少女に一歩近づいたね」
フゥっとため息を吐いた桃春は、おもむろに付けていたかつらと衣装を脱ぎ始める。
そう、俺がこの茶番に付き合っているのは、単純にエロい衣装を見れて、生着替えも見れるからというのもある。
てか、それが一番の理由。
「胸元もっと緩くしないとな。なんか衣装が千切れそう」
桃春のことを、幼少期からずっと傍で見ていた俺。当然、体の成長も見てきたわけで。
同級生よりも遥かにたわわに実った胸。
そんな理想的な初春の体を、思春期である俺がそれを見ないわけがなく、今こうしてガン見している。
よくある話で、男女の幼馴染は性的な目でお互いを見れない、家族としか見れない、なんて話があるが、そんなのは嘘だ。
家族といっていいほどの親密度だが、それとこれとは話が全く違う。
エロいものはエロいのだ。
しかし……桃春も桃春だ。
いくら幼馴染とはいえ、俺は男子だぞ? 襲われるかもしれないんだぞ?
信頼されているからだろうが、着替えくらいは別の場所でしてもいいと思う。
理性が働いている俺に感謝して欲しい。
とか考えつつも、ちゃんと生着替えを見ている俺。
着替える前にチラリと俺の方を見るものの、気にも留めないで着替え始める。
白のニーハイを脱ぎ、艶やかでハリのある足が露出する。
そこにピチピチのジーンズを履き、豊満な胸が目立つ黒のニットを着ると、魔法少女ではなく、普段の桃春に戻った。
幼女ロリのような見た目から一遍、街ですれ違ったら二度見はしてしまうほどに大人っぽく美人。
これが桃春の本当の姿。
学校でもクール系美人という高嶺の花のような存在で、一緒に居る俺が羨ましがられるくらいに桃春モテる。
そんな、ほぼ完璧美少女な桃春の欠点は、魔法少女に憧れているというたった一つだが、致命的な欠点。
一般男性が聞いたら一発で恋愛対象から外されてしまうほどの一撃必殺を放つ欠点を初は持っている。
それを俺以外の他の生徒は知らないわけで、それでもってバレるわけにはいかない。
学校の高値の花は、実は魔法少女になりたいメルヘン女だった。なんて事実が出回った暁には、在学中はおろか、卒業しても語り継がれるくらいの伝説になるだろう。
俺は、幼少期の頃から桃春の魔法少女に対する考えを見てきているので、特に違和感はない。
年齢が上がるにつれて、あれ? と思うことはあったものの、そんなのエロコスプレを俺にだけ見せてくれているという背徳感でそんな疑問は消されていく。
桃春のこんな姿、俺以外の誰にも見せたくない。幼馴染である俺の特権だ。
「ねぇ、次の衣装どうしよっか」
「なんかアイデア湧いたのか?」
着替え終わった衣装を畳みながら、桃春は俺に聞いてくる。
俺しか相談相手のいない桃春は、毎回衣装の相談をしてくる。
自分で大まかにコンセプトや、デザイン案などのデッサンはしてくるものの、判断は何故か俺に任せてくる。
それをいいことに、俺は毎回露出の高い衣装を提案している。
ゲスいかもしれないが、露出の低い魔法少女のコスプレなんて、世間一般でもあまり需要はない。
俺は世のコスプレというものの需要を考えて、しっかりとエロ可愛いものを提案する。
その全てを真剣に俺が語ることから、桃春もなんの迷いもなくその案を承諾して衣装を制作してくる。
……やましい気持ちの方が強いものの、ちゃんとその中にコスプレとしての筋を通しているのだ。
まぁ、本人はコスプレという考えなど一切なくて、本物の魔法少女になりたいと思っているのだが……細かいことは置いておこう。
少しのすれ違いくらい、幼馴染の間では当たり前だ。
「次の撮影会までに衣装の手直し間に合うかな」
いつも通りの喋り方になった桃春は、スマホを見ながらボソボソと呟く。
「来週の日曜だっけか?」
「そうそう、胸元の修正だけだからすぐ終わると思うんだけど……ほら、課題とかもあるし」
本物の魔法少女になりたい桃春は、日ごろから欠かさないことがある。
それが、コスプレイベントの参加。
悪党と戦えるわけではないし、本当に魔法を使えるわけではない桃春。
それは本人曰く、知名度がないからだという。
本物の魔法少女のコスプレをして、本物の魔法少女とみんなに認知されたら、本物になれるという持論を持っている。
これも全て『マジカルピンク』の設定だけど。
だから桃春は、必ずといっていいほどにコスプレイベントに参加し、魔法少女『マジカルピンク』として、SNSの活動も欠かさない。
桃春の正体は、世間一般的にいうとクオリティーの高いコスプレイヤーということだ。
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