Track.8 君だけに話した夢

Voice.15 ……どうかな?

 ――柚木真奈さんの新しいアルバムの発売記念イベントが1週間後にせまった日曜日。

 オレは新しくできたショッピングモールに来ていた。

 今オレが居る場所は、女子高生向けのファッションブランドの店の中の試着室の前だ。

 だから、女子のお客さんが多い。

 そして、何人かで来ている女性のお客さんがたびたびオレのほうを見ては、何かを話している。

 ダメだ。

 これ以上は人の視線に耐えられない。

 ――その時。


「待たせてごめんね」


 後ろから試着室のカーテンを開ける音と、聞き覚えのある明るい声が聞こえた。

 振り向いて、オレは思わず目をみはる。

 目に映ったのは、半袖の青色のフレアワンピースを着て、柚木真奈さんのコラボアクセサリーのネックレスをつけた篠原だった。

 髪型はツーサイドアップにして、オレが篠原の誕生日プレゼントにあげた赤色のリボンをつけている。

 すごくかわいい。


「……どうかな?」


 篠原は顔を赤らめて、小さな声でオレに聞く。

 オレは篠原に頼まれて、真奈さんのお話し会と握手会に行く時の服を一緒に選んでいた。

 オレはゆっくりと口を開く。


「よ、よく似合ってる」


 すると、篠原は顔を近づけた。


「本当に?」


 不安そうな表情で聞いてくる。


「真奈ちゃんのイベントに行った時浮かない? 変だって思われない? この服で大丈夫?」


 本当は篠原を笑顔にしたいのに。

 学校の制服とは違う、私服の篠原を見たのは久しぶりだから、緊張してうまく声が出ない。

 でも――。

 オレは意を決して、今思っていることを言葉にした。


「……か、かわいい……と思う」


 そう言った瞬間、顔が熱くなって思わずうつむく。


「え?」


 篠原は驚いたような声を漏らしたけれど、胸の鼓動が速くなって、篠原の顔が見られない。

 オレはうつむいたまま、言った。


「かわいいし、イベント行っても絶対浮かないし、変だって思われないし、よく似合ってる」


 そして、続ける。


「だから、大丈夫だよ」


 しばらくして、篠原の笑い声が聞こえた。

 オレは顔をあげる。

 そこには、いつもの明るい篠原が居た。

 そして、言う。


「ごめんごめん。たっくんがまさかそんなふうに早口で誉めてくれるとは思わなくて」

「オレ、昔から誉めるの下手だからな」


 オレが苦笑いをすると、篠原は首を横に振った。


「ううん、嬉しいよ。ありがとう。じゃあ服買ってくるからお店出て待ってて」

「ああ」


 そう言って店を出ようとした、その時。

 店の中に木暮の姿を見つけた。

 両手には、服をたくさん持っている。

 すると、木暮もオレに気がついてこっちに向かってきた。

 そして、いぶかしげな目でオレを見る。


「なんで瀬尾がここに居るの?」


 まずい。

 篠原と一緒に居るってことはバレないようにしないと。


「そ、その、姉ちゃんと買いものに来てて……」


 そう言うと、木暮は納得したような表情をした。


「そうなんだ」


 なんとかごまかせたみたいで、オレは胸を撫で下ろす。


「木暮こそ、なんでそんなに服買おうとしてるんだ?」


 話題を変えようとして聞くと、木暮は小さな声で言った。


「……資料用」

「え?」


 木暮の言葉に、オレは首をかしげる。

 すると、木暮は口をとがらせた。


「瀬尾には関係ないから」


 やっぱり木暮はオレに冷たい。


「そ、そっか。ごめん」

「じゃあ私、もう行くね」

「ああ」


 そして、木暮はレジに向かった。

 しばらくして、篠原が会計を終えて戻ってくる。


「おまたせー」


 すると、オレの様子を見て篠原は首をかしげた。


「たっくん、どうかした?」

「いや、今店の中で木暮に会ってさ」

「夕乃に?」


 オレはうなずく。


「たくさん服持ってたからなんでか聞いたんだけど、教えてくれなくて」

「そうだったんだ」


 そして、オレは真奈さんのイベントを楽しみにしている篠原の話を聞きながら、一緒に帰り道を歩いた。

 ――そして、真奈さんのイベント当日の夜。

 オレは家で篠原からの連絡を待っていた。

 ベッドの上で、オレはため息をつく。


「オレもイベント行きたかったなー……」


 自分の部屋から出て廊下を歩いていると、リビングから姉ちゃんと誰かの声が聞こえた。

 気になってドアを開けようとした時、姉ちゃんが言った。


「でもみんな知ったらびっくりするよね。まさかうちの大学になんて」


 ……え!?

 オレは驚いて、ドアノブに手をかけようとするのをやめる。

 すると、姉ちゃんの友達の声が聞こえた。

 

「ちょっと真宵飲み過ぎ。その話は完全に2人っきりの時しか話しちゃダメって言ったでしょ」

「えー、いいじゃん今2人っきりだし。お父さんとお母さんは出かけてて家に居ないしさ」


 声を聞いた限りだと、姉ちゃんと友達はお酒を飲んでいるらしく、特に姉ちゃんはお酒に酔っているのか、声が大きくなっている。

 友達はそんな姉ちゃんに焦っているらしかった。


「でも弟くんは今家に居るんでしょ? 私のことバレたら大騒ぎになるって」

「大丈夫大丈夫。拓夜は今自分の部屋に居るから聞こえてないよ」


 姉ちゃん、オレ今ここに居るしめちゃくちゃ聞こえてる。

 どうしよう、部屋の中がすごく気になるけど今リビング入ったら話聞いてたのがバレる。

 すると、姉ちゃんの友達が言った。


「あ、マネージャーさんから電話だ。 ごめん。ちょっと廊下出るね」

「わかったー」


 そして、姉ちゃんの友達がオレのほうに向かってくる。

 とりあえず、オレはリビングのドアを開けても見つからない壁際に隠れた。

 ドアが開いて、姉ちゃんの友達が出てくる。


「はい。もしもし」


 そっと声のしたほうを見ると、黒色のセミロングでパーマをかけた女性が居た。

 遠くて顔はよく見えない。

 しばらくして、姉ちゃんの友達が電話を終えた。

 オレはため息をつく。


「なんとかバレずにすん――」

「そんなところで何してるの?」


 耳もとで囁かれて、驚いて振り向く。

 すると、目の前に柚木真奈さんが立っていた。

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